ごちゃまぜ
□素直になれない
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「半径5m以内に入って来ないで」
「それはこっちの台詞だコラ!」
「ふ、二人とも…落ち着いて。ね?」
目の前のボスは困った顔をしている。でも原因はコイツのせい。せっかくボスとお茶しながら楽しくお喋りしていたのにいきなり現れたかと思えば、私のカップを床に蹴り落としたのだ。『わりーな。足が長くてどうしようもなかったんだコラ』ごめんなさいのごの字も入ってない謝罪に私の怒りは沸点に達した。わざと足を引っ掛けてやれば見事に顔と床がごっつん。『あら、ごめんなさい。ボールかと思って蹴っちゃった』笑ってそう言ってやればこちらに血管が切れたのが聞こえるくらいに頭を沸かせた。それから延々と言い争いを続け、今に至る。
"コンコン"
「なまえ、そろそろ任務の…またお前らは夫婦喧嘩してんのかよ」
「「夫婦じゃない/ぞコラ!!」」
「…息ぴったりだね」
クスクス笑うボスにばつが悪くなって口を閉ざす。コロネロを無視してさっさとリボーンの元へ向かう。
「オイ、なまえ」
「何よ」
振り返れば何時になく真剣な顔つきのコロネロ。
「ちゃんと帰って来いよコラ」
「…当然」
素直に言葉に言えずに先を行くリボーンさんの後を追う。…いきなりあんな事言ってくるなんて反則。部屋を後にし、リボーンがくるりと私を振り返ると意地悪く笑った。
「お前、顔真っ赤だぞ」
「…黙れ鬼畜野郎」
「素直じゃねぇなぁ。お前もアイツも」
睨んでも目の前の男は笑っている。何時もコイツには勝てない。悔しいけれど、この先何年経ってもそうだろう。私の気持ちだって一瞬で見抜かれてしまった。
「そろそろ素直になったらどうだ」
「…それが出来ないから苦労してるのよ」
リボーンはぴたりと足を止めると何やら考える素振りを見せた。
「どうしたの?」
「…いや、何でもねぇ」
首を傾げているとリボーンがスタスタ歩いてしまったので慌てて後を追い掛けた。
「ハァ…」
またやってしまった。どうして俺はこう…素直じゃないんだろうか。認めたくはないが、リボーンが羨ましい。強引でストレートなアイツが。カップを蹴飛ばしたのはただの嫉妬。二人はそんな関係じゃないことぐらい分かっているけど体は正直だ。彼女が誰か、他の奴と一緒に居るだけで苛々する。今だって…リボーンに手出されていないか心配だ。アイツがなまえを気に入ってることなんて見れば分かる。それが愛情なのかは不明だが…。
"ブー、ブー"
「もしもし?」
『コロネロ!大変だ!!』
電話の相手はリボーンだった。何時になく焦った様子に嫌な予感が走る。
『なまえが撃たれた』
「えっ…?」
『俺とは別行動してたんだが、撃たれているのを発見した』
何だって…アイツが?嘘だろ…
『今救護班呼んで"ツー、ツー"
無理矢理切り、椅子から上着を取ると俺は駆け出した。任務先は此処からそう遠くない場所だ。もっと速く走れねぇのかよ…!自分自身を奮い立たせ、全速力でアイツの元へ急いだ。
「リボーン…?」
何処行っちゃったんだろう。足を撃たれて動けない私はキョロキョロ辺りを見回すことしか出来ない。…迷惑かけちゃったな。標的を撃って終わったと思った私は油断していた。倒れていた奴にはまだ意識があってマズイと思った瞬間、私は撃たれた。同時に引き金を引き、私の弾は相手の心臓に直撃、相手の弾は私の太股に当たった。足を抱えたまま動けない私をリボーンが外へ運んでくれたのはそれから10分後。応急処置までしてくれて、彼がいなかったら…と思うとぞっとする。私が何度も謝ってもリボーンは気にするなと言ってくれた。でもかえって優しさが痛い…。むしろけなしてくれた方がどんなにスッキリすることか。私の注意不足がいけないのに。油断するんじゃねぇ馬鹿が…そう言って欲しかった。
"ガサガサ"
「リボーン…?」
応答は聞こえない。まさかまだ敵が残ってるの?ホルダーから銃を引き抜き、いつでも撃てるように構える。
"ガサガサガサ…"
「…そこか!」
狙いを定めて数発の弾を連発する。
「うわっ…!殺す気かよコラ」
「…"コラ"?」
そんな口調の奴、一人しか居ない。音を立てながら草を掻き分け現れたのは予想通り…コロネロだった。
「どうして此処に…」
「リボーンから連絡あったんだコラ。お前が撃たれたって」
それだけで駆け付けてくれたの?そんなに汗だくになりながら…
「…何でよ」
「あっ?」
「…コロネロは私のこと嫌いでしょう?なのに、そこまでする必要ないのに…」
お願いだから期待を抱かせないで…。まだ私にも望みがあるんじゃないかって思ってしまうでしょう。
「お前が心配だった。それ以外に理由なんか要るかコラ」
「…コロネロ」
私の前にしゃがみ込んだコロネロは彼の額と私のそれをくっつけた。
「お前が撃たれたって聞いて心臓が止まりそうになったぞコラ」
「…ごめんなさい」
「謝らなくていい。…謝らなくていいが、」
目と鼻の先に居る彼は口角を上げた。まるで何か企んでいるように…
「責任取れよコラ」
「…責任?」
「ああ、そうだ」
責任なんてどうやって取れば良いんだろうか。ぐるぐる頭で閃いてみるけれど、良い案が浮かばない。うーん…あっ!一つだけあるじゃないか。
「今度奢ってあげる!コロネロの大好物の焼きそばパン」
「…はっ?」
「最近近くにパン屋さん出来たんだよ?一度クリームパン買ってみたんだけど凄く美味しかったなぁ」
コロネロも喜んでくれる…そう思ってたのに彼は深く溜息をついた。
「…馬鹿なまえ」
「ば、馬鹿?!馬鹿はそっちでしょう?」
「責任の取り方も知らねぇ奴に馬鹿呼ばわりされたくねぇぞコラ」
背を向けたかと思えば顔だけこちらに振り向いた。
「乗れ」
意味が分からずキョトンとしていると苛立ったようにコロネロは急かす。
「歩けねぇんだろ。おぶってやる」
「…………失礼します」
始めは遠慮したけれど、コロネロの目力に負けて恐る恐る首に腕を回した。私の身体を軽々と持ち上げ、コロネロはゆっくり歩きはじめる。
「…ありがとう。コロネロ」
大好き、その言葉は声に出来なかったけど彼に伝わってほしい…そう願いながら温かいコロネロの背中に目を閉じて身を委ねた。俺も好きだ…そう聞こえたのは夢の中だろう。
(私が奢るって約束したじゃない!)
(女に奢ってもらうなんて恥だ!俺が奢るぞコラ)
(そんな安っぽいプライド捨てなさいよ)
(安いだと…?前言撤回しろコラ!)
(気になって来たものの…)
(あいつら全く変わってねぇじゃねぇか)
(ったく…世話の焼ける)