ごちゃまぜ
□Impegno
1ページ/1ページ
「平凡だなぁ…」
今日は日曜日。することもなく暇な私は河原でねっころがりながら、ぼーっとしていた。
「お姉ー!」
少年野球チームに所属している弟がこっちに手を振っていて、私も振り返す。空を見上げれば、雲一つない憎いくらい青い空。たまに白球が飛んできて、絵になりそうな風景だ。
「ん…?」
空から何かがこっちにやって来る。それは野球ボールでもお金でも天使でもない。
「ちゃおっス」
なんと赤ん坊が降ってくるではないか!私は慌てて身体を起こすと、両手を広げて彼が落ちてくるのに備えた。
「くっ…!」
衝撃は大きく、身体が悲鳴をあげそうになったけれど、私は見事に彼を抱き抱えていた。
「ナイスキャッチだな」
「ありがとう…じゃなくて!」
私には聞きたいことがたくさんある。どうして空から赤ん坊が降ってくるのか、なんで赤ん坊がこんなに流暢に喋っているのか、何故スーツ姿でいるのか…次から次へと疑問が浮かぶ。
「もしかして、コウノトリが運んでくれたのかな?」
「ちげぇぞ。父親と母親がセッ「わーわー!もういいから!駄目だよそれ以上言っちゃ」
今の子供はませてるのかな?それだったら話し言葉が流暢なのも納得する。
「君、名前は?」
「俺はリボーンだ」
「リボーン君か。カッコイイ名前だね」
「お前は?」
「私?私はみょうじなまえって言うの」
よろしくね、と手を差し出すと、リボーン君は私の手を取り手の甲にキスをした。
「…大人の男性みたいだね」
「元の姿はそうだぞ」
恐らく身体は子供、頭脳は大人…名探偵コナンみたいなことを言いたいんだろう。
「リボーン君ってどうしてスーツ着てるの?」
「マフィアだからだぞ」
「マフィアってあの…」
私は両手で銃を作ってバンッと撃つ真似をした。
「そうだぞ」
「へぇ…凄いねぇ!」
今のアニメでマフィアものなんてやってるのかな?弟も最近はアニメを見なくなったから情報が乏しくなってしまった。
「なまえに何かあったら直ぐ駆け付けてやる」
「本当?頼もしいなぁ」
子供でここまで口が上手かったら大人になったらどうなるんだろう?女たらしになりそうだ。
それから延々と話し続けた。リボーン君は家庭教師をやっていてその子を立派なボスにしようとしていること、エスプレッソが大好きなことなど…。話を聞いてみると、姿は赤ちゃんだけど正体は大人の男性ではないかと本気で思ってしまう。漫画の世界じゃあるまいし、有り得ないことなのに。
「…もう日暮れか」
リボーン君はポツリと呟いた。顔を彼から前に向ければ綺麗な夕日が広がっていた。
「リボーン君の家は何処?送るよ」
「心配いらねぇぞ。直ぐそこだからな」
送るからと何度も言ったけれど、彼は首を横に振った。今の世は物騒だから彼が心配だというのもあるけれど、リボーン君と此処でお別れするのは寂しい気持ちもあった。私の顔を見て、リボーン君はフッと笑った。
「今生の別れじゃねぇし、そんな悲しい顔すんな」
「…私顔に出てた?」
「バッチリな」
恥ずかしくて手で顔を覆うと、小さくて温かい手が私の頭に触れた。ゆっくり手を外すと、彼が私の頭を撫でていた。
「…リボーン君」
「ん?」
「またいつか…会えるよね?」
恐る恐るリボーン君に尋ねると、彼はニッと自信満々な様子で笑った。
「必ず会いに行く。だから待ってろ」
約束だ、と差し出された小指に自分の小指を絡ませる。こんな約束事が叶う保証は何処にも無いけれど、ただ会える日がどうか来ますように…と今日まで願ってきた。
「着いた…」
目の前に聳えるのは大きなお屋敷。今日から此処が私の就職先だ。情報処理を専門とする私はそれなりに名の知れた企業で働いていたけれど、先月ぱたりと倒産してしまった。無職になった私を雇ってくれたのは、中高と同級生だった沢田。昔はダメツナだったのに、今では立派なマフィアのボスらしい。裏社会に入るのには少し抵抗があったけれど、マフィア界を変えようとしている沢田の話を聞いて私もそれの手伝いをしたいと思った。組織内にはあの、山本や獄寺達も居るらしく新しく人間関係を建てるのもそこまで億劫ではないようだ。私はある幹部の人の秘書として雇われるみたいだ。良い奴だからと言われたけれど、顔見知りの獄寺達のことではないようだし、少し緊張する。
ズレた荷物を肩に上げ直し、どうやって人を呼べばいいのかキョロキョロと見渡す。…呼び鈴のようなものはないなぁ。
「オイ」
後ろから肩を叩かれた。振り返ると一人のお兄さん。スーツもボルサリーノも革靴も…すべて黒で統一されている。くるんとした揉み上げは何処かで見たことがあるような気がしたけれど思い出せない。
「お前、みょうじなまえだろ?」
「は、はい」
恐らくボンゴレの方だろう。一先ずホッと息を付いていると目の前の彼はいきなり抱き着いてきた。
「あ、あの…!」
「…会いたかったぞ」
「えっ?」
一体どういうこと…?私は彼とは初対面のはずなのに。男の人はキョトンとした私の顔を見ると、ムッと口をつむんだ。
「忘れたのかよ…」
「…人違いではありませんか?」
益々眉間に皺を寄せた顔を見て、慌てて頭を何度も下げる。
「ごめんなさい。でも貴方に見覚えはないの…」
「…まぁ仕方ねぇか」
諦めたかのように見えた彼は、私を更に引き寄せた。耳に吐息がかかるほどに。
「ちゃんと約束守っただろ?」
「約束…?」
「"必ず会いに行く。だから待ってろ"ってな」
聞き覚えのある言葉に、あの日のことが鮮明に蘇る。
「う、そ…」
だってあの時まだ赤ん坊だで、あれから十年しか経っていないのに…。目の前の彼は成人を裕に越え、私より年上にしか見えない。
「嘘じゃねぇぞ。ヒットマンは約束はちゃんと守るからな」
あの時は彼がヒットマンと言っても、きっとアニメの影響だろうと考えていたけれど、実際に彼は本物の殺し屋だったのだ。
「俺はずっとお前に会いたかったぞ」
「リボーン君…」
ニッと笑った顔には、十年前の面影が残っていた。
「私も……た」
「声が小せぇぞ」
聞こえてるくせにわざと耳を傾けるリボーン君。相変わらずの余裕ぶりが少し悔しい。彼には何年経っても勝てないようだ。
「私も…私もリボーン君に会いたかった、です」
段々声が小さくなってしまったけれど、頬を緩めた彼を見るかぎり、ちゃんと伝えられたらしい。
「ほら、行くぞ」
私の荷物を奪い取ったリボーン君は空いた左手を差し出した。ゆっくり手を伸ばすと、私よりも遥かに大きくなった手が私の手を包んだ。でもその手の温もりはあの日と少しも変わらないものだった…
(え…私、リボーン君の部下!?)
(そうだぞ。俺が指名した)
((流石にタメ口はまずいよね)…分かりました、リボーンさん)
(今すぐ敬語は止めろ)
(で、でも!)
(さもないとキスするぞ?)
(!わ、分かった。だから、)
(…わりぃ。お前の顔見たら我慢出来なかった)
−−−−−−−−−
impegno…(伊)約束