ごちゃまぜ

□最期の告白
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人の死を仄めかす状況や台詞…死亡フラグは本当に存在する。例えば普段は優しさのカケラもない人が自分を犠牲にして他人の為に何かをしてあげたり、例えば普段なら笑顔を振り撒かないような人が、スマイルを売りにするかの如く終始ニコニコしているだとか。でもそんなことは死亡フラグが立ってない人でも起こることだろう。その人は本当は自己犠牲の思いやりに満ちた人かもしれないし、あるいは鉄仮面の下には慈愛に溢れた微笑みが隠されている人かもしれない。…それなら、こういう場合ならどうだろうか。
普段は恋人に愛の言葉も囁けないような恥ずかしがり屋が、さらりと『愛してる』と言ったら?恋人は突然のことに驚きながらも喜ぶだろうし、その顔を見ればこちらも幸せになれるはず。でもその囁きが死に神を呼んでいるなんて…誰であれ夢にも見ないだろう。












「ったく…ダメツナめ。一度しめねぇと駄目みたいだな」

「仕方ないよ。人手が足りないんだから」

申し訳なさそうにしていたボスの顔を思い出す。ごめんって、部下である私に何度頭を下げたことだろう。


「直ぐ終わらせて帰ってくるから。…ね?」

彼は渋々といった感じで私の隣に腰を下ろした。私は愛銃を細かく確認し、予備の弾数もチェックした。こういうことを疎かにする奴は駄目なヒットマンだと言ったのは、当時私の上司だった彼である。いや、今でも上司の立場は変わらないけれど、そこに"恋人"という肩書がプラスされた。私には勿体ないくらい素敵な人…。そんな彼の女になれた私はきっと世界一幸せだろう。


「もう三年か…」

「…早いよね。何だか直ぐにおばあちゃんになっちゃいそう」

「お互い皺だらけで白髪だな」

リボーンが歳を取った様子なんて想像出来なくて、つい笑ってしまう。隣の彼も思い浮かべたんだろうか。私と同時に笑いを零した。こういう他愛ない会話も私にとっては大切な一時。彼も同じように思っていてくれたら…そう思うし、願ってる。


「そろそろ時間ね」

「…だな」

ソファーから立ち上がる前に正面からリボーンを見つめた。何事かと彼も私を真っ直ぐ見て、瞳と瞳がぶつかり合う。


「…リボーン」

「何だ?」

ちゃんと私に耳を傾けてくれる彼はやっぱり優しい。私は出来るだけ彼に近づいて、そっと耳元で呟くように囁いた。


「愛してる」

言い切らない内に立ち上がった私は、早々と部屋から出ようとしたけれど、開けた扉は後ろから伸びた手により直ぐに閉じられてしまう。後ろを振り返ることが出来ない。直ぐ後ろに居ることを分かっているから。彼の吐息が耳にかかって思わず目をつぶる。


「言い逃げは許さねぇぞ」

「…そういうつもりじゃなかったの」

最後までハッキリ言おうとずっと前から決めていた。でも結局それは無理なこと。だってあんなに近くに貴方が居るだけで心臓が破裂しそうになるのだから…


「随分積極的だったな。誘ってんのか?」

「ち、違う!そうじゃなくって、」

慌てて弁明しようと振り返ったのが間違いだった。記念日だから、気持ちを素直に言いたかった…そう言うつもりだったのに、言葉は彼に飲み込まれてしまった。暫くの間私の口内を弄んで満足した様子の彼は、さも楽しそうに笑った。


「…帰ったら覚えとけよ?」

甘い囁きは益々私の身体を熱くするのだった。


















「遅ぇな…」

ちらりと時計を見上げると既に夜中の2時を回っていた。もう帰ってきてもいい時間だ…。何か非常事態でも起こったのだろうか。嫌な光景が過ぎって頭を何度も振る。そんなはずはねぇ。…アイツが死ぬなんて。携帯を手に取ったがやっぱり止めた。なまえを信じて待とう。アイツなら大丈夫だ…。自分に言い聞かせるように何度も心の中で呟く。その時、携帯が鳴った。なまえかと思ったが、光ったのは緑のランプ。…全く、誰だよ。携帯を手に取ると、相手はツナからだった。


「…何だ」

『…リボーン。落ち着いて聞いてね?』

そう言うツナの声は冷静には思えず、どこと無く涙声のように聞こえる。ザワザワと胸の内で嫌な予感が広がっていく。


『…なまえが、なまえが…』

「…なまえがどうしたんだ」

心の何処かではツナが言おうとしていることを分かっていたのかもしれない。



『なまえが………死んだ』











任務は完了していたらしい。でも帰路の途中で落とし物に気付いたなまえは急いで任務場所に戻ったそうだ。その時運悪くまだ息のあった敵に撃たれ、それが急所に当たったのが死因。最期の力を振り絞り、ソイツの息の根を止めたなまえはその場で倒れ、なまえの発信機が何時まで経っても動かないことを心配したツナが、連絡を入れても応答しない。慌てて屋敷に駆け付けた時には、もう冷たくなっていた。右手にシルバーの指輪を握って…。


『…なまえね、笑ってたんだよ。それも幸せそうに』

最期に彼女が見たのはきっとリボーンだったんだよ、そう言って涙ぐみながらツナは笑った。本当にそうなのだろうか。アイツは俺を見て笑ったのか…?
風が吹き、草花はザァッと一気に傾く。こんなか弱い奴らでも、精一杯命を全うしているんだなと今更ながら思う。



「…なまえ」

名前を呼べば、彼女がひょっこり現れてくれるんじゃないかと期待してしまう。もう一度俺の名前を呼んでくれ…。顔を赤らめて、もう一度あの言葉を言ってほしい。



「なぁ、お願いだ…」

そんなことを言っても無駄なことぐらい頭では分かってる。でも俺は望んでしまう。



『…リボーン』

目を閉じれば彼女が笑ってこっちを見ていた。あの時のように顔を赤らめて、一瞬戸惑いを見せたけれど、小さい声で…それでも俺にはちゃんと聞こえた。…"愛してる"と。







(あれは恥ずかしがり屋のお前が見せてくれた精一杯の勇気だったんだな)
(ありがとう、なまえ)
(俺は何時までもお前を愛してる…)

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