ごちゃまぜ

□はじまり
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春…それは出会いと別れの季節。ついこの間、九年間を共にした友達との別れを体験した。今生の別れでもないのに、声が枯れるくらい大泣きしたのは初めて。そして今日…私と誰かとの出会いの三年間が始まる。それはほんの偶然に過ぎないかもしれない。あるいは必然な、決められていた運命的出会いなのかもしれない…











先日義務教育を終えた私は、今日から高校生。皺一つない新しい制服に身を包み足元でピカピカ光るローファーを履いた姿はまだ幼さが残るように見えるけど、どこと無く大人っぽくなった気がする。徒歩20分の通学も電車を乗り継ぎ学校へ向かうことになり、まるで違う世界へ旅するかのよう。まだまだ今までと異なることをいっぱい見つけるんだろうな、と思うと期待と不安が混ざり合う。中学で一緒だった子は生憎一人も居ないから、友達出来るかな、って心配で昨日はなかなか眠れなかった。



「わぁ…」

期待も不安もなにもかも吹き飛んでしまうほど、私は目の前の光景に目を奪われた。校門までの真っ直ぐな道には、桜によってアーチが出来ていた。今年は寒さが長続きし開花が遅れてしまったけれど、そのお陰で入学式には満開の桜が出迎えてくれることとなった。近所の公園にも数本の桜が咲いていたけれど、この目の前に広がる景色には負けてしまう。桜に圧倒され、時を忘れて思わず足を止めてしまう。
春風が木々を揺らすと、花びらがひらひら舞い降りてきた。それを掬おうと必死に手を伸ばすものの、私の手を避けるように地面へと着地する。


"ザァァーー"

さっきよりも強い風が花びらを誘っていく。ふと、人の気配がして振り返れば、立っていたのは一人の男子生徒。彼の周りを桜の花が囲むように舞っている。まるで彼は桜から生まれたように儚げで…美しく見える。暫くして、彼をじっと見つめ過ぎていることに気づく。恥ずかしさを紛らわすかのように、くるりと背を向け足早に歩きはじめた。



「待て」

さっきの彼が発したであろうその言葉は、恐らく私に向けられたもの。ゆっくり振り返れば、予想以上に彼がすぐ近くに居たため驚いてしまう。
黒く鋭いその瞳は私を真っ直ぐ見つめた。それに捉えられたのか、身体を動かすことが出来ない。彼から伸びてきたその手は、私の顔に近付いた。


「…付いてるぞ」

彼が触れたのは私の横髪。スッと離れた彼の指先にあったのは、一枚の桜の花びら。きっとさっきの風で私の頭に落ちてきたんだろう。


「あ、ありがとうございます…」

丁寧にお辞儀をした私に、彼は手を差し出した。意味が分からず首を傾げた私に、彼は一言呟いた。


「…やる」

「えっ…?」

「さっき花びら欲しかったんだろ?だからお前にやるよ」

まさか…私が必死に花びらを掬おうとしていた様子を見られてしまったんだろうか。両手で顔を覆う私の上で、クスリと笑う声が聞こえた。私の右手を掴んだ彼は、そっと手の平にその花を載せた。


「…桜に見とれてると遅刻するぞ」

ぽんぽんと頭を撫でた彼は、じゃあなと私に背を向けた。その後ろ姿がいつの間にか消えた時、ようやく私は我に帰った。ゆっくり手を開けばそこには桜の花びらが一枚。さっきのことは幻でも夢でもない…現実だったんだ…。これが一回きりじゃありませんように、そう願う私は、桜だけではなく彼にも一瞬にして心を奪われてしまったんだろうか。






(儚く優美で、まるで桜の精のようなあの女…)
(彼女に心奪われたのは桜に惑わされたからだろうか)
(…これはまだ始まりのような気がした)

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