リボン先輩と私
□22日
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今日から新入生の仮入部期間が始まる。HR中、前の席のコロネロは私に振り返った。
「唯はもう決まってんのかコラ」
「うん、一応ね。コロネロはサッカーでしょ?」
「ああ」
「ボールは友達さとか言いそうだしね」
「…どういう意味だコラ」
「そのままの意味だよ」
皺が寄っているコロネロの眉間を伸ばしてあげると顔がほんのり赤くなった。
「コロネロ君は見た目肉食系でも中身は純情な青年みたいですねぇ」
「…襲うぞコラ」
「どうぞご自由に。正当防衛で痛い目見ても知らないけどね」
にこりと笑うとコロネロが冷や汗を垂らすのが見えた。
「で。何部にすんだ」
「これだよこれ」
横に提げてたモノを掲げるとコロネロはなるほどな、と頷いてくれた。
どんな強者が居るんだろう。今から楽しみだ。…そう言えば、彼も居るんだよね。再会が間近であることにも期待を寄せた。
「…風じゃねぇか」
「おや、これはまた奇遇ですね」
道場へ向かおうとしたら角から風が現れた。風が隣にやって来て、俺達は歩きだす。
「今日から仮入部期間ですね」
「…あまり虐めんじゃねぇぞ」
去年は風と手合わせして気絶した奴が続出し、結局俺しか入部しなかった。
「それは貴方もですよ。何人辞めたと思ってるんですか」
「根性がなかった奴らが悪い」
階段に差し掛かり、一段飛ばしで上って行く。ちなみに道場は3階にある。
「一年が最低4人は入らねぇと終わりだな…」
「私達が引退したらリボーンだけになりますからね…。でも、」
前を行く風は足を止め俺を振り返った。顔には意味深な笑みを浮かべている。
「一人だけ、根性の据わった子が入りますよ」
「…本当かよ」
「ええ。…気を抜いていたら私でさえやられかねません」
誰だよソイツは、そう聞こうとしたが、目の前の光景に唖然としてしまう。
「…何だよこの様は」
開かれた扉から見えたのは、俺達以外の部員が地に臥している光景。目を凝らせば真ん中には一人立っていた。その姿は華奢で、アイツに似ていた。まさか…
「ん?」
振り返ったソイツは確かに唯だった。俺達の方を見て、あー!と声を出し駆けてきた。それも嬉しそうな顔をして。唯はこちらに向かってきた。両手を広げ抱き着いてきたのは、俺
「久しぶり!元気してた?」
…ではなく、風だった。唯を優しく抱き留める風も何時も以上に穏やかな顔をしている。
「ええ。唯は相変わらず元気みたいですね」
「お兄ちゃんに会えたから更に元気が出たの」
ニコニコ笑う唯。…"お兄ちゃん"?
「風、お前妹居たのかよ」
「違いますよ。唯は幼なじみです」
「あれ?リボン先輩」
ようやく俺に気付いたのか、こんにちはと笑った。俺も挨拶し返す。
「二人とも知り合いだったんですね」
「…ちょっとな」
サボっている時に知り合ったとか言ったら、俺もコイツも説教受けるだろう。
「それで、どうしてこの状態なのか説明してくれますか」
「実はね…」
唯によると、仮入部期間って手合わせしてもらえるんですかと尋ねた所、部員達は喜びながら、勿論と次々と相手は俺がやると手を挙げたらしい(…かなり下心丸見えだが)。 着替え終わり、一人ずつ手合わせしたのだが、手応えもなく直ぐに気絶してしまったらしい。
「どうしようかなって思ってたんだけど、お兄ちゃんが来るしそれまで待ってようって思って」
「…そうですか」
もっと練習増やした方が良いかもしれませんね、黒く笑う風。…頼むから俺は巻き込むな。
「お兄ちゃん、久しぶりに手合わせしない?」
「良いですよ」
「じゃあ着替えて来るの待ってるね」
仲睦まじく話す二人は特別な間柄に見えた。それを見ている俺の心は何故か穏やかではない。
「リボーン…?行きますよ」
「あ、ああ」
鞄をかけ直し、俺は後をついて更衣室へ向かった。
…なんなんだよ、この苛々は。収まらない気持ちにただ戸惑うばかりだった。
(リボーン、眉間に皺寄ってますよ)
(…気のせいだ)
(益々増えてますけど。…まぁ理由は何となく分かりましたが)
(…なんだよ)
(自分で気付かなきゃ駄目ですよ)