リボン先輩と私

□5日
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「まだか…」

さっき時計を見てから二分も経ってない。今まで何度時計を見ただろう。唯のことだから時間ピッタリに来そうだ。かく言う俺は一時間前に来てしまった。まるで初デートに浮かれてる奴のように。だが、これは断じてデートではない。ただ友達と遊びに出掛けるだけだ。なのにどうしてこんなにソワソワしてしまうのだろうか。昨日の夜は遠足が楽しみな餓鬼のようになかなか寝付けなかった。これほど興奮するのはサッカーの試合の時ぐらいだ。自分のことなのに分からなくて苛々する。近くにポイ捨てしていた空き缶を蹴りあげると、遥か遠くに飛んで行く。少しだけ気分が晴れたから良しとするか。時計を再び見ると10分前になっていた。…もうすぐだな。ふと、誰かが走っている音が聞こえた。それはこっちに向かってきている。女物の靴が俺の前で止まったのが目に入る。



「コロネロ、お待たせ」

顔をあげれば、それは予想通り唯だった。普段見られない私服、軽目の化粧をした彼女に自然と目は釘付けになる。


「コロネロ?」

「……」

「オーイ、コロネロ君」

「……」

突然、視界いっぱいに唯の顔が広がる。びくんと大きく身体を揺らした俺を見て、彼女はクスクス笑った。


「私に見惚れてた?」

「っ…!」

「…冗談だよ冗談」

何時もと変わらない彼女とは対照的に、何故か緊張してしまう俺。


「コロネロの目真っ赤だよ。ウサギさんみたい」

可愛いなぁと言った唯に対して、うるせぇと言い返すことしか出来なかった。











「じゃ、よろしく」

「…変な奴に絡まれんなよ」

なんで私がそんな目に合うんだろうか。可愛い子なら未だしも。


「(コイツ、絶対自覚ねぇな)…気をつけろよ」

そう言い残したコロネロは、公園の自販機の方へ駆け出した。
これは所謂罰ゲーム。映画を見終え、お昼を済ませた私達はゲームセンターへ向かった。格闘なら誰にも負けねぇと大口を叩いていたコロネロのキャラが地に伏したのは、開始してからほんの数秒後。カーレースでリベンジを挑んできたけれど一分ほどの差をつけ、私のスポーツカーはゴールした。余りにショックを受けたコロネロは、自分の自信っぷりを恥じ謝罪するとともに、お詫びをしたいと言い出した。そこまでする必要はないと言ったけれど、彼は頑なに譲らない。ちょうど喉が渇いていたところだったから、缶ジュースを奢ってもらうことにしたのだ。


「…良い天気」

足をブラブラさせながら空を見上げれば、青い空にプカプカ浮かぶ白い雲。そんな風景を見ていると気持ち良くてついウトウトと、目を閉じた。




「…無防備だな」

「えっ…?」

小鳥の囀りと共に聞こえてきた声は缶ジュースを買いに行ったコロネロではなかった。


「リボン先輩…?」











「でも奇遇ですね!散歩中の先輩と会えるなんて…」

「俺もまさか唯だとは思わなかったぞ」

偶然に出会ったかのように言ったがそんなのは嘘。本当はコッソリ最初から跡を付けていた。ストーカーの類に見なされるだろうが、そんなことはねぇ。後輩が何かされないか心配してのことだ。本当は黙って見ておくだけにするつもりだったが、複数の男どもが唯を狙っているのは明らかで、コロネロが居なくなると頃合いを見計らっていた。そうとも知らずに暢気に寝ようとしやがって…。俺が唯と話していると、いつの間にかそいつらは消えていた。


「ふわぁぁ…」

「眠いのか?」

「…少しだけ」

余りにも眠たそうな様子の唯。聞けば、昨日は本に集中し過ぎて徹夜してしまったらしい。


「ああ…コロネロも寝不足みたいですよ」

「寝不足…?」

「はい、目が真っ赤になってましたから」

…なるほどな。アイツがどうして寝不足なのか、容易に想像がつく。大方、今日のことを考えていたんだろう。


「…アイツは分かりやすいな」

「リボン先輩?」

「いや、何でもねぇ」

コロネロが唯に好意を寄せているのは薄々感づいていた。だが本人にしろ唯にしろ、どちらもそのことには気づいていない。もしコロネロがその気持ちに気付いた時は…こいつらはどうなるんだろうか。
ふと、肩に重みを感じ横を見れば、俺に頭を預けて目を閉じている唯。すぅすぅと小さな寝息が聞こえてきた。


「唯…」

何故かは分からないがコイツが隣に居ると安心する。気持ちが穏やかになれるのだ。それと同時に心に溢れ出す温かいソレ…。これは一体何なんだろうか。


「…まぁ、いいか」

特に気にすることでもないだろう。時間が教えてくれるだろうしな。
隣で気持ち良さそうに寝ている唯を見ていると俺も眠たくなってきた。
気付けば、俺は夢の中へと入ってしまった。目を覚ましたのはそれから一時間後。コロネロのことはすっかり忘れてしまっていた…








(あれ、どうして此処にミルクティーが?)
(…コロネロじゃねぇのか?)
(あっ…コロネロ!)
(帰ったと思うぞ)
(…確かにメール来てます。でも、どうして起こしてくれなかったんだろ…?)

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