デンヒョウ

□裏の裏の裏
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暑い日差しが照り付けるナギサの街。
街中を歩く人々は皆ラフな格好をし買い物やら散歩やらを楽しんでいる。
そんなところだというのにこいつはいつもの作業着姿で歩いていた。


「…ちわ。」

「こんにちは。」


蚊の鳴くような声で挨拶をすれば業とらしい綺麗な笑みを見せた。
一体この笑顔に何人が騙されたんだろう、そんな考えが不意に頭をよぎった。


「何しに来たの?」


俺から話しかけたくせに話すのが非常に面倒くさい。


「君にこれを渡しに来たんだ。」
「…。」


手元には一枚の紙が握られている。
またか。
そう思うと心がモヤモヤした。
何かがつっかえているようなそんな感じ。
何度目だろう。
こいつと会う度行われる事務的な話。
と言うかそういう会話しかしたことがない。


「なあ、」


だから少し興味があった。


「…はい?」

「何であんたは俺んとこに来るんだ?そんな話ならスモモとかナタネとかにさせればいいだろ?」

「…。」


表情は全く変わらないが布の擦れる音がした。


「まぁ、もしかしたらあんたのとーちゃんが指揮ってるから頼まれてるのかもしんねー…
「分からないの?」
…!?」


雰囲気が一気に変わった。
奴は意味ありげに微笑む。
その笑みはさっきのとは違う。
でもまだ俺の予想の範囲内だ――…言葉の意味以外は。


「僕があれほどアピールしていたのに分からなかったんだ…案外鈍いんだね。」

「どういう――…!?」


ほんの一瞬だった。
奴は俺の方へ寄ったかと思えば唇を押し当ててきた。


「つまり、そういうこと。…ああ、本当はもう少し様子を見ようかなって思ったのにな。残念だな。」


唇を1つ舐めた。
その様子は悪戯を成功させた子どもの如くとても嬉しそうだ。
あまりにも予想外過ぎて呆然と見ているしかなかった。


「…。」

「今日で終わりかな。この紙を渡す役目も。」

「…。」

「さっきの事も忘れてよ。気持ち悪いでしょ。それじゃあ次の会議にはちゃんと来てね。」


会話は奴の一方的な話で終わろうとしていた。
俺の意見は無視する気なのかこいつは。


「おい、俺にも話させろよ。まだ何も言ってねーぞ。」

「…。」


そうだ、俺はこいつの本心を聞いてからなんか嬉しいんだ。
俺がこいつのことを好きだからとか、そんなことは分からないけど。


「俺は会議には行かねー。ナタネはうるせーしスモモはまだ子供だから…勿論、来てくれるよな?…ヒョウタ。」


すると奴は顔を真っ赤にして頷いた。



裏の裏の裏



折角裏の顔を暴けてスッキリしたのにまたモヤモヤし始めた。


20120908

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