その他

□近くて遠い
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いくら頑張って手を伸ばしてもデンジさんに届かない。僕の手が短いだけなのかな?

―――

久し振りにナギサジムへ足を運んだ。しかし先客が居たようで彼は僕に気づいていなかった。


「呼んできますか?デンジさん。」


僕に気づいたジムトレーナーさんから言われたけど何となく、断ってしまった。
このときほど僕のタイミングの悪さを恨んだことはない。
自然に溜め息が溢れる。
僕はゆっくりと出口へと後戻りしようとしたが後ろから右腕を捕まれ叶わないことになった。


「もう帰んのか?」

「…デンジ…さん。どうして、」
「…どうしてって、お前の声が聞こえたから。」

「え…。えと、…もう話は終わったんですか?」

「ああ、今終わった。だから寄っていけよ。」


僕がどうしていいか悩んでいるようにデンジさんも言葉には迷いがないが実際は目がとても泳いでいる。


「嘘ばっかり。まだ全然進んでないけどね。」

「…ひ、ヒョウタ!」

「ヒョウタさん?」


いきなりデンジさんの背後からひょこりと現れた彼は何やらにやにやと笑っていた。
デンジさんはと言えばばつの悪い顔をしている。


「こんにちは。まあ、父さんには僕が何とか話しておくから今日のところはこれで帰りますね。」

「…ああ、頼む。」


立ち去る前、ヒョウタさんはデンジさんに何かを耳打ちしていた。

「コウキ君、じゃあね。…ごゆっくり。」

「?…さ、ようなら。」

「…あの野郎。」


爽やかな笑顔を向けるヒョウタさんを威嚇するデンジさん。
きっと仲の良い友達のようなものなんだろうけど僕の中ではある感情がふつふつと湧き出ていた。
嫉妬と羨望。



近くて遠い



きっとまだまだ未熟なんだ。

20121030

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