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□闇に咲く
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感謝の気持ちは束の間で


憎しみは底知れず


笑顔なんて一瞬で


虚無は ほぼ永遠


本当はみんな好き。


本当はみんな嫌い。


人間嫌いの人間なんて


この世にたくさんいると思う───────






今日も機械のように、決められた時間にバイト先のコンビニに出勤し、与えられた業務内容を淡々とこなす。


そしてあの人も、決まった時間帯に必ず訪れる。


自動ドアが開き来客を知らせる機械音が鳴ると同時に、ちょうどその人物が現れた。


「いらっしゃいませー」


返事の返って来る事の無い挨拶を掛ける。誰も一店員の私なんか見ていない。


私もそうだった。毎日、レジ対応しかしない客の事なんていちいち気にも留めないし顔も覚えない。


ただそれは、あの人を除いて、だけど。


先程店内へと足を踏み込んで来た名前も知らない彼は、毎日、同じ黒いスウェットにラフなサンダル履きでペタペタとやって来る。


そしていつも両手一杯にデザートとペットボトル飲料を買い込む。


私達、店員の間ではその風貌から変わり者として有名だ。店長が言うには、かなり人気な漫画家らしいのだけど漫画に詳しく無い私にはどうでもいい話だった。





「おわっΣ」


突然聞こえた変な叫びに私は反応してカウンターから出て声のした方へと赴くと、デザートコーナーの前で、その彼が手に抱えていたプリンやらワッフルやらを床に落としていた。


私は、肩で溜め息をついて彼の元に歩み寄り落ちた商品を拾うのを手伝った。


「あ、すみませんですっΣちゃんと買いますからっ」


申し訳無さそうにぺこりと私に頭を下げる。


私はすぐ側にあった積み重なった買い物カゴを一つ取り、彼に差し出した。


「カゴ、使って下さい」


両手一杯に拾ったデザートを抱えた儘、彼がゆっくりと私を見上げる。


「どーもですっ!」


ニカッと無邪気な笑顔を向けて私の手からカゴを受け取り、ドサドサと抱えていたデザートを放り込む。


すっくと立ち上がると間近で見る彼は意外と身長が高い事に気付く。


「じゃあこれレジお願いします」


「え、あ、はい」


見とれていた訳では無いけれど、ぼさっとしていた私は彼の言葉に反応して急いでレジへと戻った。


バーコードを通して、商品をビニール袋に入れてお金を貰う。


いつもと変わらない、私が彼と唯一接点を持つ動作が今日は、いつものそれと違って感じた。


初めて聞いた彼の声。初めて向けられた笑顔。


変わり者として以前から気になっていただけに今日の一連の関わりは、平凡な毎日に新鮮な空気を送り込んでくれたようだった。


お釣りを渡して、いつものように「ありがとうございましたー」とマニュアルな挨拶をする。


「いえ、こっちこそありがとうです!いつもご苦労様でぇす」








…え、






ニッと白い歯を見せながら彼はそう言うと、私の手からビニール袋をするりと受け取り、軽快な足取りで店の外へと出て行った。


…恐らくそれは先程のデザートを拾ってあげた事に対しての礼を言っていたのだろうけれど、私は何故か、胸にぽわんと暖かいものを感じた。


「…ありがとう、かぁ」


たったそれだけの事なのに


その時、私は、


もう少し頑張って生きてみるか…、と小さく思った。





人間嫌いな人間。




そんな私が、恋をするなんて、とんだお笑いぐさ。





→あとがき
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