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□アイスブルーの唇
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「エージ、一口ちょうだい」
「いやれす。」
「ケチ」
スプーンを加えた儘、頬杖をついて冷たく返すエイジに私は悪態をつく。
エイジが頬杖をついているキッチンの小さなテーブルの上には、私が作ってあげた、かき氷。
氷が少なく一人分しか出来なかった、たった一杯のかき氷には私の好きなブルーハワイのシロップが、たんまりとかけられている。
「自分のじゃんけんの弱さを恨んで下さい」
じゃりじゃりと美味しそうに掬った、かき氷を口に運ぶエイジがなんとも憎たらしい。
一杯のかき氷を巡って、じゃんけん三回勝負をするも、結果はエイジの二勝により私は惨敗だった。
「いーもん、かき氷なんか要らないもん。エージのバーカ」
バーカバーカ!、私は口を尖らせて悪態をつきながらキッチンを後にしようとしたその時…
ゴツンッΣ!!
「あだぁっ!?ΣV」
「っΣυ!?」
スリッパに躓き、壁に思い切り額をぶつけて私は床に倒れ込んでしまった。
「っつ〜ぅ…っυ」
涙目で床に座り込んだ儘、額をさすっていると後ろからエイジの溜め息が聞こえ、何やってるですかυ、と呆れ声と共に私の傍に歩み寄ってきた。
「あーあ、おでこ赤くなってるです」
エイジは、しゃがみながら私のぶつけた額を、そっと一撫でした。
しゃがみ込む拍子にエイジの大きく開いたTシャツの襟元からほんの少し覗く胸板が私の心臓をドキンとさせる…。
視線の先の喉仏が、エイジは大人の男なのだと私に見せつけているように感じてならない。
性格は、てんで子供っぽい癖に…。
「…愛子はすぐにグーを出す癖があるです」
「…は?」
エイジの突拍子な発言に、間抜けな返事を返すとエイジは、じゃんけんですよ、と話を続けてきた。
「愛子は初めは必ずグーを出すです。だから僕はいつもパーを出すですよ。そしたら必然的に僕の勝ちになるです。気付いてなかったです?」
…えぇυ…そうだったの?
「知らなかった…。てゆーかそれじゃエージのズルじゃんっ!」
「僕はいつも先にパーを出す癖があるですよ」
じゃーんけーん…、
エイジが突然、拳を振りかざしじゃんけんを初めたので私も慌てて拳を出した。
えーと、えーと、パーに勝つには、
ポンっ!
私は咄嗟にチョキを出した。
すると、エイジが出したのは……
「僕の勝ちでぇす!」
…グー、だった。
「なんでよっΣさっきパー出すって言ってたじゃんっ!」
愛子はホント単純です、エイジはニタニタと憎らしい笑みを浮かべながら立ち上がり、テーブルの上のかき氷の器を手に取った。
…ムカつく。
…こんな男に心を奪われている自分自身にもムカつく…。
「まあ愛子のそうゆう単純なところ好きですけど」
コツン、とエイジは、かき氷の冷えた器を私の額に当ててきた。
「冷た…」
頭上でジャリッと、かき氷を咀嚼する音がしたかと思うと───
目の前にエイジの整った顔が近付いて、
ぷにっと柔らかいエイジの唇が私のそれに押し当てられ、エイジの舌によって強引にこじ開けられた口の中に、冷たぁい氷が流し込まれた。
「んぅ、っ///」
口一杯に広がる、エイジの生温い舌と甘いブルーハワイ…。
…ピチュ、
水音をたてて離れる唇。
キスだけで、とろける私の身体。
「…僕が口移しで食べさせてあげてもいいなら、かき氷分けてあげるですよ///」
頬を赤く染めたエイジの顔は、まるで、いちごのかき氷みたいだ。
エイジの好きないちご味。
そう言えば、かき氷のシロップを買う時、エイジは何も言わず私の好きなブルーハワイを選んでくれた。
エイジの隠れた優しさに今更気付いた私は、顔を赤くした。
「…バカエージ///」
「どうせ僕はバカですよ。愛子にいつも翻弄される愚か者です…」
エイジは、ふっと微笑んで、また私の唇に優しいキスを落とした。
子供じみた性格に、憎らしいまでの甘いマスク。
いつも私を挑発してくるエイジに腹立たしく感じながらも、愛おしくて。
矛盾した気持ちで私は考えていた…
…次は、いちごのシロップを買ってあげよう────
─END─
2012・7・29