short@

□gamble kiss
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「チューして下さい」


「はあ?」


一日の仕事を終えてデスクを片し、帰ろうとしていると突然放たれた無防備な発言。


「聞こえなかったですか?チューです。キスミープリィズです、愛子ー」


にゅっと嘴のように唇を突き出しながら両手を広げて私にジリジリと近付く新妻先生。


毎日の暑さで頭がおかしくなったのか。いや、元々、おかしかったりもするけれど…。


ズリ…、思わず後退りをする私。


「ちょ、どうしたんですかυ新妻先生…」


「だからチューです、物凄く愛子とチューがしたいです」


さっきから人の事を愛子と馴れ馴れしく呼ぶ彼。


それには、あの夜が関係してるってわかってる。


二日前、私達は恋人でもないのに身体を重ねた。


二人だけの仕事部屋。新妻先生にコーヒーを淹れて、そのコーヒーをうっかり彼の太股辺りに零してしまい、慌てて側にあったティッシュで濡れたスウェットのズボンを拭き取っていると


屈んだ私の胸元へ新妻先生の視線を感じつつも、拭き取っていた手元の側の股関部分のスウェットが盛り上がっているのに気付き私は、ゆっくりと頭上の彼を見上げると、



私の胸元から慌てて視線を逸らす新妻先生の真っ赤な顔があった。




そこから、なんだか妖しい雰囲気に呑まれていって、気付けば、ずるずると大人の二人は、大人の行為に及んでいた────





…────どうして、あんな事になったのか、


今私は必死であの夜の感情を思い出していた。



目の前にはジリジリと近付く新妻先生。


トン、と背中に壁が当たり、私は逃げ場を失った。


大人の私達。


あの夜の行為の後も、お互い話し合って、きっぱりと割り切ったつもりだった。



「…新妻先生…」


ひた…、


新妻先生の両手が私の頬を包み込む。


「捕まえたです」


瞳を閉じながら、ゆっくりと近付く新妻先生の唇。


「…あ、あの夜は、お互いにそんなつもりじゃなかったと納得したはずです…っ」


至近距離で新妻先生がピタリと静止する。


閉じられた瞳が再び開き、なんと信じられない台詞が返ってきた。




「あの夜は、ですよね?今は違うですから」





はい?






「僕、愛子の事好きになっちゃいました」




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