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□小さい幸せ
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湿ったアスファルトに、金木犀の香り。


その後に、愛子の髪から漂うシャンプーの香り。


それは僕と同じ匂い。




買い物帰り、夕刻の雨上がりの湿った石畳の歩道を二人、縦一列になって歩く。


後ろに手を組んで胸を張って街路樹を見上げながら歩く愛子の後ろ姿を見詰め、僕はその後ろをついて歩く。


歩く二人の距離は2メートル位でしょうか。


近過ぎず遠過ぎず、微妙な距離感。


二人の距離が一気に0センチに縮まったのは昨日の事なのに。


ガサガサと、僕の右手に持つビニール袋の音だけが聞こえる。


余った左手がスウェットのズボンポケットの中で、もぞもぞと躊躇している。


手を繋ぎたいです…。


昨日、初めて愛子に触れた温もりを覚えています。


思い出すだけでジンジンと痺れる僕のポケットの中の左手───





「きゃ、」



その時、石畳に躓き、よろける愛子。


「あっΣ────」


タタッ───ン!


僕は足を大きく一歩踏み出して、よろけかけた愛子の右手を、咄嗟にポケットから出した左手でパシッと掴みました。


その儘、グイッと引っ張ると、愛子の身体が僕の胸元にトンともたれ、綺麗な髪の毛がさらりふわりと僕の鼻を擽りました。


「あ、ごめんなさい…ありがとう///」


僕を見上げる愛子に、胸が、ときんと高鳴りました。


「…ちゃんと足元見て歩かないからですよ。危ないです…」


愛子の手首を掴んだ左手が熱を帯びて、僕はさっきまでの考えが愛子に伝わらないかと変に緊張しました。


うん、ごめん///、


舌をチロッと小さく出してはにかむ愛子。


その可愛さ、反則です。


僕のハートは射抜かれっ放しで、命がいくつあっても足りない位です…


「…まぁいいですけど…こうして愛子と手、繋げましたし///」



僕は手首からするりと下へ移動して愛子の手指を絡め取り、所謂、恋人繋ぎをしました。



「…エイジ…///」



お互いクスッと微笑んで、僕達は横並びになって歩き始めました。



ほら、二人の距離はまた近い。






湿った空気と金木犀の香り。


そして愛子の、温もり。



始まったばかりの恋の途中に見つけた、




僕の、小さな、小さな秋の幸せ。




─END─

2012・9・1

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