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□初恋
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「愛子さんの初恋っていつです?」
二人だけの静寂の仕事部屋に突然、放たれた新妻先生の言葉。
「…初恋、ですか?」
机に向かう新妻先生の背中に投げかける。
そーです、振り向きもせずコクコクと頷く新妻先生の背中に視線を向けた儘、私は、そうですねぇ…、と暫く考えて口を開いた。
「多分、幼稚園の頃…だったと思います。担任の保父さんが初恋の相手だったかと…でもどうしてですか?」
私が訊き返すと新妻先生は、スチャッとヘッドフォンを外しながらゆっくりとこちらへ振り返った。
「幼稚園ですか…愛子さんって、ませてたんですね」
少しツンとした口調で返された返答に私は何だか馬鹿にされたような気がして、じゃあ新妻先生はいつですか?、と強い口調で返した。
新妻先生は、小首を傾げ、…確か小学二年です…、ボソッと話す彼に私は、クスッと笑った。
「私とそんなに変わらないじゃないですか」
でもあれは初恋だったんでしょーか、と私の返事をスルーして言葉を続ける新妻先生。
「…なんだかあの時は、ちゃんと異性として好きと言うか…一緒にドッジボールが出来て楽しかったとか…気の合う女の子が偶々彼女だっただけ、と言うか…」
うにゃらうにゃらと口ごもりながら鉛筆でこめかみをグシグシと掻いている新妻先生に、私は何が言いたいのか解らず首を傾げていると、
ガタンッ!!
新妻先生は突然、勢いよく椅子から立ち上がり、クルッと振り返りペタペタと私の目の前まで歩いてきた。
…な、何?…
彼の急な行動に私が戸惑っていると、椅子に座っている私の目線に合わせて新妻先生は腰を屈めてきた。
くりっとした大きな瞳が私の視線を絡め取る。
ドドクン…、
心臓が変に脈打ち、私は、その眼光に思わず息を呑んだ。
逸らせないそれに、数秒の時が経ち、ようやく彼の口から発せられたのは、
「…僕にとっては、今が初恋のようです」
「……え?」
私の目を見詰めながら、そんな台詞を吐くなんて、……それってつまり……?
「愛子さんと一緒だと毎日楽しいです。でもそれはドッジボールを一緒に楽しんでいたあの頃の『楽しい』とは違う…。愛子さんが帰った後は淋しい、胸がきゅうって苦しくなるです…こんな事、昔には無かったです…」
ああ、嘘、
まさかそんな────
「誰かから聞いた事あるです。恋って会えないと不安になる、胸が苦しくなる、頭の中がその人の事で一杯になるって…」
その気持ち、私もよく知っている…
だって私はいつも、
「僕、愛子さんの事───」
「好きです…」
………え?、新妻先生が目を大きく見開いて驚いている。
訳も無いか。だって私が、彼の台詞を横取りしたんだものね。
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