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□失恋の代償とマフラー
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朝晩の冷え込みがめっきり厳しくなってきた10月。


「っくしゅっ!」


落ち葉が舞う街路樹の下を歩きながら私は、大きなくしゃみをした。


「首もとがスースーする…」


私は冷たい手で首筋をそろりと撫でた。


やっぱこんな時期に髪切るんじゃなかったな。秋風が心にまでしみる────


「…ハッ、だめだめ」


私は、大きく頭を振ってそこで思考をストップして仕事場である新妻先生のマンションへと歩みを速めた。






──────────────


「おはようございます」


仕事部屋の扉をガチャンと開き、いつも通りに挨拶をする。


「愛子さんっグッドモーニングでぇすっ!……って、おおっ!?」


新妻先生が振り向きざまに私を見て驚きの表情をしている。


「髪切ったです?随分と思い切りましたね」


思い切った…。確かに腰まであった髪が一気にショートに変わればそう思われても仕方無いかと私は苦笑して答えた。


「ちょっと気分転換を…でも切る時期失敗しちゃいましたね。首が寒くて…」


私は、あははと軽く笑い飛ばして自分のデスクに着いた。


新妻先生は、じっと丸い目をして興味深そうに私を見ている。


「…あの、何か?へ、変ですか?υ」


私が訝しく口を開くと新妻先生は、いえ…、と小さく答えた後、話を続けた。


「髪は女の命って聞いた事あるですけど…何かあったです?」


いつの時代だよっΣ!、と私は突っ込みを入れそうになったのを何とか堪えて、平静を装った。


「……もしかして新妻先生、私が失恋したとか思ってます?」


すると新妻先生は、ハッとした表情で、いえそうゆうつもりじゃ…、慌てて気まずそうに視線を逸らす彼の顔には図星だと書いてある。


私は溜め息をついて、…女が髪を切るのに理由は要りますか?と尋ねた。


「いえ…すみません…」


少し罰が悪そうに新妻先生は、こめかみを指先でポリポリと掻いて一呼吸置いた後、机に向き直りペン入れを始めた。





……少し言い方がキツかっただろうか。


心無しか新妻先生の背中が小さく見える。


でも、だって、新妻先生の台詞がズバリと私の心を抉るから。


……今時、失恋くらいで髪を切るなんて流行らないけどさ。



なんて言うか…今までの自分と変わりたかったってのがあってさ。……彼の好きだった長い髪を断つ事で、過去の恋愛と決別したかったって言うか…


彼がいつも愛しく撫でていた長い髪が無くなってしまえば、私の想いも消えるなんて思ってたけど……


ヤバいな…泣きそう…


高校時代からずっと続いていた、いわば青春の全てが詰まった恋愛を無くした痛手は、なかなか消える訳が無くて…、へ…


「へっくしっ!」


涙を堪えていると、ブルッと身震いがして私は大きなくしゃみをしてしまった。



しまった…υ


私のくしゃみに新妻先生がこちらへ振り返っているのに気付き、私は気まずく謝った。




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