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□失恋の代償とマフラー
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「すみません…風邪ですかねぇ…気をつけます」


「…髪切ったから寒いじゃないです?おおっ!ちょっと待ってて下さいです!いーものあるですっ!」


新妻先生はポンっと両手を合わせて、椅子から立ち上がり、ひらひらと仕事部屋から出て行った。


いいもの…?カイロか何かでも持ってくるのだろうか…、


暫くして仕事部屋に意気揚々と戻って来た新妻先生の手には、くたびれた感のあるチェック柄のマフラーが持たれていた。


「首にこれ巻いとけばいいと思いますケド!あったかいですよ!昔から使ってるのでちょっと見た目ボロっちいですケド」


「え…でも…」


私が躊躇っていると新妻先生は、どーぞです!、と私の首にふわりと、くたびれたマフラーを巻いてくれた。


風圧に乗ってタンスの匂いと…新妻先生の匂いが微かに香る…。


よく見るとマフラーは所々ほつれていて、小さな虫食い穴まであいている。


でも、ちゃんとあったかい────


…じわりと胸と目頭が熱くなる。


今の私に人の優しさは胸にしみる…。特に相手が男の人なら尚更…


「首あったかいです?」


新妻先生に訊かれて私は、ハッと意識を戻し、新妻先生を見上げた。


「あったかいです…とても…///ありがとうございます」


私が微笑むと、新妻先生も、ニカッと満面の笑みを浮かべて応じてくれた。


「よかったです!今日はそれ貸してあげるですっ!首を温めると全身が温まるって聞いた事あるですから」


新妻先生は、最後にまたニッと笑ってシュタタッと自分の椅子に飛び乗り、また作業へと戻った。


音楽が流れてもいないのに鼻歌混じりに身体を揺らしながらペン入れを続ける新妻先生の背中は、さっき小さく感じた背中とは違って見えて…


「…短い髪も似合ってるですよ」



背中を向けた儘、ぽつんと放たれた新妻先生のその台詞に私は一気に身体が熱くなった。







───あ、そっかぁ…





そうなのか…///






私は、少し予感があった。






それが、私の自惚れなんかじゃ無かったと証明されたのは、






この三日後、新妻先生からお洒落なマフラーをプレゼントされてからの事。






貰ったマフラーを首に巻くと、首だけじゃなくて、心まであったかくて、



無くした長い長い恋と髪の代償に、私は今度こそ本物のかけがえの無い愛を見つけた。




─END─

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