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□挫折の先に見えるもの
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(もう、やだぁ…)
ぐしぐしと、溢れる涙を服の袖で擦りながら私は集英社を出た。
手には自分の描いた漫画の原稿が入った茶封筒。
自信作だった。
これで駄目だったら故郷に帰省しようと自分自身を戒めていた。
それなのに…。
『これくらいの描き手は数多といるよ』───
編集部に原稿を持ち込んで早一年半。見てもらった作品は10作以上。
もう、駄目かなぁ。
やっぱり私、才能無いんだ。
才能が無い、なんて
ほんとはとっくに気付いてた。
認めたくなかっただけ。
私は、ふっと苦笑し、持っていた原稿を丸めて近くのゴミ箱へ投げ捨てた。
───もう二度とこの道を歩く事も無いんだろうな。
などと巡る思いに耽りながらしばらく駅に向かってとぼとぼと歩いていると
「待ってくださーい!忘れ物ですー!」
背後から何やら人の足音と叫び声が近付いて来る。
気になったが振り返りもせずそのまま歩いていると
「SAIKOさーん!忘れ物ですよーっ!」
(!!??ΣΣυ)
突然大声で自分のペンネームを呼ばれて思わず勢いよく振り返る。
はぁはぁと息を切らしながらスウェットにサンダルといったラフな格好のおかっぱ頭の男の人が手をぶんぶんと振りながら走ってくる。
その人の手には先ほど私が捨てた原稿が入った茶封筒。
な、なんでっ!?てか誰この人っ!!υ
「SAIKOさん、忘れ物です」
ニッと笑いながらくしゃくしゃになった茶封筒を私に差し出してくる。
今の私には何故だかその純真無垢な笑顔が後ろめたく感じた。
「……忘れたんじゃなくて捨てたんです……」
私は無意識のうちに発した言葉にハッとし口を抑えた。
「…自分の作品をないがしろにするのは感心しませんね」
見ず知らずの人に偉そうに言われ、いっぱいいっぱいだった自分の感情がわっと噴き出した。
「な、なんなんですかっ!?あなたっ!!何も知らないくせにっ偉そうな事言わないでくださいっ!失礼ですよっ!」
涙目に涙声で目の前の知らない男性に怒鳴る自分。
最低だ。
「これはこれは失礼しましたですーっ!僕は新妻エイジと言います!よろしくです」
ビシッと敬礼をしながらその人は新妻エイジと名乗った。
新妻…
エイジ…?
「…って、もしかして、クロウの…?」
「はい、そうですケド」
……………………。
「ええぇぇっ////Σ!?」
目の前に憧れの漫画家、新妻エイジがいるという感動と想像とかけ離れた人物像である驚愕とが複雑に絡み合い私は叫び声をあげてしまった。