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□笑顔の花を咲かせる為に
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ドンドンドンドン!!
けたたましく叩かれる玄関の扉に僕はすぐ誰が訪問したのかを理解した。
時刻は深夜の1時をまわったところ。近所迷惑も甚だしいです…。
玄関の扉を開けると同時になだれるように入り込んできたのは僕の幼なじみの愛子。
去年の春、青森から東京に上京してきた僕の幼なじみでもあり、
初恋の人。
「えへへー来ちゃいましたー。もしかして仕事してたかにゃ?」
お酒臭いです。しかもいい感じに酔ってるのが見ただけでわかります。
お邪魔しまーすとズカズカと部屋の中へ入っていく愛子の後ろを歩きながら僕は話しかける。
「毎度毎度夜中にドアを叩くのやめてくださいです。ご近所迷惑です。ちゃんとピンポン押してくださいよ」
すると愛子は勝手に冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しグラスに注ぎながら吐き捨てるようにこう言い返してきた。
「よく言うよ〜実家にいた時は音楽ガンガンに鳴らしながら漫画描いてた癖に。近所迷惑はエイジのほうじゃん。」
ふてぶてしいこの態度。憎たらしいですが憎めません。
グラスに注いだミネラルウォーターをゴクゴクと一気に飲み干すと僕の横をすり抜け寝室へ向かう愛子。
僕は小さな溜め息をつき愛子の後を追いかける。
寝室に入るやいなやドスンと僕のベッドにダイブする。
まるで自分の家のように振る舞う愛子。
愛子がお酒の匂いをプンプンさせながら僕のマンションを訪れる時は決まって何かしらの嫌な出来事が彼女に起きた時。
数日前に来た時は仕事で失敗して上司に怒られたとか。さて今日は何でしょうか。
「……東京って冷たいね」
やっぱり何かありましたか。
僕は黙って愛子の横に腰をおろす。
「地下鉄の階段で転んでも誰も助けてくれないし、コンタクト落としても誰も探してくれないし、仕事でミスしても誰もフォローしてくれないんだよ。冷たいよ。ほんと今更ながら東京の冷たさにはびっくりだよ。」
僕は一日だけでそんなにドジを踏む愛子にびっくりです。
「エイジはすごいね。高校生の頃から一人で東京で暮らしてるんだもん。」
僕だって全然淋しくなかったわけじゃないです。
でもこれを言うと愛子は怒ります。
「……好きな事やってますから…。淋しいなんて言ったら罰が当たります」
「そうだよねぇ。私を置いてさっさと東京行きを選んじゃったんだもん。淋しいとか言うと私が怒ってた」
やっぱりです。
「……だから今、こうして愛子の愚痴に付き合ってるじゃないですか。」
そうだね…と、軽く呟く愛子。
僕はその時ふと思った事をつい口走ってしまった。
「……合い鍵……作ります」
いいえ、今、思った事じゃないです。ずっと前から思っていた事。
「……え?」
「愛子にあげるです。これからはわざわざドアを叩かなくても勝手に鍵開けて入って来てください」
愛子は酔いが醒めたのか、キョトンとした表情で僕に確認してきた。
「…ほんとに私なんかに渡していいの?」
「愛子だからあげるんです。」
そう言うと愛子はほんのり赤い顔で、嬉しい、と答えてくれました。
その瞬間、君の笑顔の花が咲く─────
「やっと笑顔になってくれたです」
これからも愛子を笑顔にできるのはずっと僕の役目だと思っています。合い鍵をあげるもう一つの理由は、愛子が僕以外の男のところへ愚痴をこぼしに行かないように。いわば予防線というやつです。
これは愛子には内緒です。
いつしか、すぅすぅと眠りについていた愛子の頬を撫で、可愛いらしいピンクの唇に、そっとキスをして僕も隣で眠りにつきました─────
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