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□だんでらいおん
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ぽかぽか陽気の心地よい空気に春の訪れを感じる穏やかな午後
窓を開けると暖かな風がふわりと部屋中に広がる。
「気持ちいいね〜もうすっかり春だね」
「…そうですね」
カリカリと原稿を描きながら素っ気なく返事をするエイジ。私はそれがなんだか面白くなかった。
「こんな日に部屋に閉じこもって漫画ばかり描いてるの勿体無いね」
私は少し意地悪な事を言ってみた。
「…仕上げとかないと夕方にはアシスタントさん達が来ますから」
またもエイジのツンとした言葉は私がこの場にいるのを煩わしく感じているようにもとれた。
エイジと私は幼なじみ。小さい頃からずっと一緒。エイジがデビューして東京に来てからも私も東京の大学を受験し就職もこっちで探した。
思えば私が勝手にエイジを追いかけてきた。私はエイジが好きだけどエイジは?
そう言えば好きなんて言われた事無いな…。私の自惚れと自意識過剰か。
私の東京行きが決まった時、物凄く喜んでくれてたからてっきり…
両思いなんだとか思ったんだけど
『これからはずっと一緒にいられるですね』
私が上京した時、駅まで迎えに来たエイジが言ってくれた言葉。覚えてる?
その時も今みたいな穏やかな春だった─────
そう言えば、
「……ここら辺にはタンポポ…咲かないのかな」
ぽそっと呟く私にエイジはペンの動きを止める。
「小さい頃、春になるとよく二人でタンポポ探したね。綿毛になったタンポポどっちが先に見つけてたくさん飛ばせるか競争した事もあったよね〜懐かしいなぁ〜」
「…そうですね」
またも返される冷たい返事──あ、やっぱり私の思い込みか。
「……私、なんか、邪魔みたいだし帰るね…」
エイジがふとこちらへ顔を上げたようにも見えたが気付かない振りをしてエイジの横をすっと通り玄関へ向かった。
「やっぱり東京にはタンポポ咲かないんだね…」
私は泣きそうになるのをこらえて靴を履こうとした。
「…東京にもタンポポは咲きますよ」
背後から突然、声を掛けられ私の心臓はドクンと跳ねた。
「エイジ…」
振り返った拍子にうかつにも、目からたまっていた涙がこぼれる。
「Σ!?泣いてるですかっ!?」
しまった、と後悔しながら私は手で涙を拭う。
「…擦っちゃだめですよ」
次の瞬間、頬にエイジの指の温もり。
「ごめんなさいです。今描いてる原稿早く済ませて愛子と散歩に行きたかったので…ちょっと素っ気ない対応をしてしまいました」
「え…///」
先ほどまで翳っていた私の顔がみるみるうちに熱を帯びてくるのがわかる。
「帰るだなんて言わないで下さい。もう少しで終わりますから、僕の傍で待ってて欲しいです」
そっか、そっかぁ…
「…わかった。ずっと待ってる」
「よかったです!すぐ終わらせるです!」
エイジの顔にも笑顔が戻る。
私達は部屋へ戻った。
「そう言えばエイジ、さっき東京にもタンポポ咲きますって言ってたけど見たことあるの?どこで見たの?私も連れてってよ///」
そう尋ねると椅子に腰掛けようとしていたエイジは動きを止めてゆっくりとこちらへ振り返り
「はい毎日見てるですよ。それは愛子の事ですから」
そう言ってニカッとするエイジに私の心臓は激しく反応した。
「なんだ…///」
「愛子、もしかして照れてるです?キュートです///」
そう言いながら机に向かうエイジの顔もまた赤らんでいた。
今日はぽかぽかして暖かすぎるです〜などと言いながら照れ隠しをするエイジを見て私は思った。
好きなんて言葉は、私達の間では、わざわざ発しなくてもいいのかもしれないと。
私にとってのタンポポもエイジだよ─────
私はエイジに聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟き、窓から入る心地よい春の風にあたりながら外の景色を眺めていた。
→あとがき