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□お姉さんと呼ばないで!
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新妻エイジ。


どんな人だろう。


私と彼は、いとこ同士らしい。年も私が一つ上なだけで近い。


親曰わく親戚の集まりがあれば、小さい頃に私達は一緒によく遊んでいたらしいが幼少の頃の記憶なんて当事者にとったら皆無に等しい。


まさか、あの人気少年漫画のクロウの原作者とは。うちの親戚からそんな有名人が出たなんて、そりゃうちの親も含め親戚一同盛り上がる筈だ。


青森の彼の母親から、最近ちっとも連絡を寄越さないから様子を見て来て欲しいと、東京に住む私に言付けて来たのだ。


私だって何年も会っていないのに初対面と変わらない。ましてや相手は有名漫画家だ。


もはや変な緊張感しかない。



しかし、いいとこ住んでるなぁ。超VIP待遇じゃん。


彼の部屋の前まで辿り着き私は深呼吸して、意を決して呼び鈴を押した。


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「それで?」


「……それでって……これで終わり」


「そこからが肝心なんじゃないですか」


「だって、目が醒めちゃったんだもん」


ちぇー詰まらないです、と口を尖らせて机に戻るエイジくん。


私達が初めて出逢った時の夢を昨夜見た事を彼に話していたのだ。


初めて…では無いな…小さい頃、遊んでたみたいだし。


「ねえエイジくん、私達、小さい頃遊んでたって覚えてる?」


椅子に腰掛けようとするエイジくんに話しかけると、彼はその動きを止めた。


「それだいぶ前にも訊かれましたけど。その時僕、覚えてませんって答えたですよ」


「あそっか、そうだったね、ごめんごめん」


昨夜の夢のせいで脳の中が過去にトリップしたみたいだ。やっぱり普通は覚えてないよね。二人とも小さかったんだもの……


確か前に訊いた時もエイジくんに覚えてないって言われた時、今と同じ事を思った。


だけど、前とは何かが違う。


今さっき彼に『覚えてない』と言われた瞬間、心がツキン、と軋んだ気がする。こんな気持ち、以前には無かった。


本当は覚えてました、なんて言われたかった、などとロマンチックな事を考えている自分が居て妙な違和感。


最近、エイジくんが私の事を
『お姉さん』と呼ぶのにも寂しさを感じてならない。どうしちゃったんだろう。



「お姉さん、どうしたです?」


ほらまた、


お姉さんと呼んでくる彼に私は笑って、何でもないよ、と答えた。





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