異世界少女と不器用男子

□想い出を胸に
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「刻まれる時間は残酷にヒトを縛りつけ遊ぶ…
青々と茂る桜の葉は何も語りはしない…

白い桜の花の季節は遠く夢の中にだけ…
舞い散る花びらの囁いた忘れられない言葉…」

透き通る声が大空に響き渡る
決して強くは無い風が麗奈の銀色の髪をなびかせる
太陽の光に反射して、キラキラと髪は光る
歌っている彼女の表情はこの晴天には似合わない曇り顔であった
今は授業中
一人で考え事がしたかったがために、わざわざ授業をさぼったのだ
もともと、サボってもそうでなくても成績は関係ないのだが
麗奈の考える事はただ一つ…帰らなければ時期
神から連絡が全く来ないのだが自分の直感からそろそろだろうと思っていたのだ

「あのころからもう2か月は経ったのかな…」

確か私が来たの夏ごろだっけとひとりごちる
長いようで実は短い
自分が元いた世界では考えられなかった
それほどこの世界の暮らしが麗奈の中で大切な物となっていた
だからこそ離れなければいけない。この世界から

(イナズマイレブンに干渉しすぎた…元々はただ影から見て楽しみたかっただけなのに)

出会いは突然で、何が起こるかは分からない
人とかかわらずに神に言われたことだけこなそうとした矢先、春奈が囲まれている所に遭遇してしまった麗奈
そこから彼女の描く生活は崩れていた

「…まあ今では結果オーライだとは思ってるけど…」

イナイレのメンバー、そして不動と関わる事によって彼女の心を蝕んでいた闇を打ち消した
そして新たな希望を与えたのだ
けれど余計な感情までオマケとして付いて来てしまった
それが、不動への恋愛感情
麗奈は絵をかいていた手を止めて、胸に手を当てる
不動の事を考えると胸が苦しくなるのは、間違いなく自分がいらないと感じていた感情だった
戸惑ってもいるし、納得もした。同時に少し後悔と罪悪感があった
彼らに関わってしまった後悔と、何も伝えず置いて行く罪悪感
矛盾してると言われても、恋心は複雑でいつも矛盾ばかりだ

「辛いなぁ…」

初めはキャラとして、言ってしまえば中の人が好きで、不動を好きになった
けれど今はキャラクターだとか中の人がどうだとかどうでもよくなってしまった
純粋に一人の男性として不動が好きになってしまった
でも麗奈は決めていた
この思いは伝えずに胸の中にしまっておくと

(言う勇気がないから……仕方がないよね?)

彼女は無意識に描いていた不動の絵をそっとなぞり、自問自答を繰り返す
そろそろ授業が終わるチャイムのなる時間
皆が来るまでにはその瞳から流れ出る透明な水を止めなければならない
こんな風に考える彼女だが、心の奥では泣き叫ぶ
このままずっと此処に居たい。不動に好きって言いたい。仲間と共に同じ人生を歩みたい
けれどそうはいかない
彼らにも、麗奈にも進むべき道がある
だから帰らなければいけない

「っ…!?」

突然麗奈の体に圧迫感が加わる
背中から伝わる音はまさしく人間のソレ
麗奈は知っている。この温もりが誰のものか
振り向いて笑顔で答えたいのに、止まらない涙
止まれ止まれと念じても比例してくれない涙
いつからこんなに弱くなったのだろう?…ちがう。弱くなったんじゃない
人の温もりを知ってしまったからだ

「ふどう…?」

呼んでも返事は来ない
ただ後ろから抱きしめる腕が強まるだけ
いつもの彼女なら顔を赤くしてじたばたと暴れるのだろうが、何もしない
おずおずと自分に回されている腕に手を添えるだけ

(今だけ…今だけは、この温もりに身をゆだねていたい…そしたら今後も頑張れるから)

きっと不動は感づいているのかもしれない
麗奈が居なくなってしまう事を

「……ごめんね」

そう呟いた声は彼に聞こえたかは分からず仕舞いだ
チャイムが鳴るまでの数分…彼女達はそのままの状態で居た





「…くそっ…じれったい…」
「そう言うな…麗奈にも思う所があるんだろう」
「そうだけどよ…!……俺としては、もうアイツには何も背負って欲しくねえんだよ…」

屋上へと続く扉の前で声を潜めて話す二人
豪炎寺と晴矢
彼らは前世の記憶を共有している
特に晴矢は先祖がえりと言ってはなんだが、その血が強いようで修司の時の記憶が鮮明にある
だからこそ、誰よりも彼女を気にかけているのだ
彼女が背負ってしまった自分の死
虐待は受けていたが、それでも多少なりとは衝撃を受けた両親の死
何もかもを小さい体に背負わせて逝ってしまった自分が嫌いで、情けない
いまさら赤の他人である自分が兄貴面をされても麗奈は辛いかも知れない
そう晴矢は思う。その反面、それほど麗奈を愛しているんだとずっと思っていた
今となってはかけがえのない存在の麗奈

(もう…悲しんで泣いて欲しくない…せめて幸せな時に涙を流していてほしい)

扉越しの麗奈の背中は不動によって隠れているが、いつもより頼りないのは目に見えてわかる

「南雲、今日はやめよう」
「……あぁ、そうだな」

二人は踵を返す
他の奴にはなんて説明しようか
そんなことを考えて






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