屍の女王の恋煩い

□聖戦の脈動
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「おい、誰だっつってんだよ♪」

『ぐっ…』

語尾に音符付けるくせして、拘束する力はものすごく強い
普通の女の子なら腕折れてるでしょうと思うぐらいの強さ…だと思う
痛覚がないから、よくわからない
とにかく早く逃げないと、彼の記憶に私が写ってしまう
今逃げれるならば私はただの泥棒というくくりで収まるのだ

「無視すんなよ♪」

『……うるさい』

「!!」

糸を束ねてバンの目を塞ぐ
突然の事に少なからず動揺したバンは拘束が緩まる
そこを見計らって、私は彼の拘束から逃れて窓から飛び降りる

『じゃぁね。強欲さん♪』

「…まてっ…!!」

窓を飛び降りてからは、絶対に追いつかれないように全力で走る。とにかく走る
足の長さでは確実に彼が有利だから
ちなみに、屋根裏に続く扉はきちんと閉めてある。何かが起こった時用にあらかじめ閉めておいて助かった
漸くバンの気配を振り切れる頃には、かなりな山奥まで入ってしまっていた

『撒けた…かな』

そこでやっとホッと一息がつけた
しばらくは帽子亭には戻れないと判断して、この山奥で時間を潰すことにする
服を作ろうにも材料はあの屋根裏に置いて来てしまったので作業は出来ないが
近くにあった切り株に腰を下ろして、ぼんやりと空を眺める

『かっこよかった…』

考えるのは先ほどの事
中々にピンチではあったけれど、間近でバンの顔を見れたことが素直に嬉しい
これでディアンヌの顔も間近で見れたら本望なんだけれど、流石にそこまでの無茶は出来やしない
思えばあれが彼らに触れ合える最初で最後の出来事ではなかろうか…とも考えたのだけど、どちらにせよバイゼルの喧嘩祭りに参加する手前会うのだったと思い出す
バンが私の事を覚えてるとも限らないだろうし、ばれないだろうと……思う

(夜中だったから部屋暗いし…拘束のされ方がうつ伏せだったし…顔を見られた確率は極めて低いよね。うん)

とりあえずそう自己暗示をしておくことにした






暫らく俺は開け放たれた窓の外ををぼーっと眺めていた
先ほどまで俺が捕えていたのは間違いなく女…だったはずだ
けど取り逃がした上に、去り際の言葉はまさしく俺を知っている口ぶりだった
つまりだ。逃げた女は王国側の奴だったりするのかとも考えたがやめた
だってめんどくせぇしな
それにどうなろうが俺はどうでもいい

「けど、取り逃がしたのは盗賊の名折れだな♪」

今は大罪人という名を背負ってるけどな

「おいバーン!いつまで寝てんだよ。もう宴はじまるぜー!」

下から声が聞こえてくる。紛れもない、つい先程再開を果たした、俺ら七つの大罪の団長メリオダス
そういや、宴がどうのって団ちょが言ってた気がしなくもねえ
下に降りると団ちょが待っていた

「遅いぞ」

「わーり♪寝てたわ♪」

「たく…つかお前、上半身裸で行くのかよ。一応リオネスの王女がいるんだぜー?」

ちゃんとしろよーと団ちょは昔と変わらない笑顔で笑う
つっても服なんて持ってねェしなー…ま、どっかに落ちてんだろ♪

「団ちょー」

「んあ?」

「さっき不法侵入したやつがいたんだけど、逃がしちまった♪」

「おいおーい…それ割と一大事だろ」

どんな奴だったかと聞かれたから、見たままを話す
暗くてあまり顔は分からなかったが、髪は黒に近い色で、顔に形は整ってる…はずだと

「あー………うん。問題ねえな」

「あ?いいのかよ♪」

「そいつは被害を加えるようなやつじゃねえかんな」

話しはこれで終わりだというように団ちょは歩き出す
俺も俺でそこまで興味のある話ではなかったがためにあまり気にしなかった



後日
そいつと思わぬ形で再会するなどと
その時の俺は思いもしなかった





『天を流星が十字に切り裂く時 ブリタニアを至大の脅威が見舞う
それは古くより定められし試練にして 光の導き手と黒き血脈の
聖戦の始まりの兆しとならん――…』

パトラは十字の流星群を眺め、ぽつりと伝承を謡うように紡ぐ
この先の未来、何が待ち受けているかを彼女は知っている…が、そこに自分がどのように介入するかなどは一切分かりはしない
パトラは星空から目を背けて、帽子亭への帰りの道のりへと歩いて行く


一抹の哀愁をなかったことにして…





つづく…
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