異世界少女と不器用男子

□降り懸かる悪夢
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何もない空間に麗奈は一人佇んでいた
周りは疎か自分さえ見えない暗闇の中
麗奈は彷徨っていた
声を出そうとしても出てくるのはヒュウッという息だけ
暗闇で感覚がずれてきたのか自分という者が存在しているのかでさえ危うくなった

(誰かっ…!!)

麗奈は走る
進んでいるのかも分からず只々走る
しばらく進んでも息が切れるだけで何も見えてこない

(私は死んだのかな…)

走ることを止めて麗奈はその場に仰向けに倒れこむ
上を見てもやはり暗闇
徐々に自分の存在が無くなって行く事が分かった

(もう…居なくなればいい…私なんて……)

麗奈は眼を閉じる
生きることを諦めたかのように

《――――――っ!!》

ふと誰かの声がした
この声は麗奈の知っている声だった

(………不動?)

不動の声がするはずもない
麗奈は空耳だと割り切った

《――っ!!目を覚ませ!!》
(今度は修也……?空耳じゃないの…?)

麗奈は起き上がって周りを見渡す
だけど誰もいない
それでも声は続く

《麗奈ちゃんっ!!》
(ヒロト…)
《麗奈!!》
(風介…)
《目を覚ませよっ麗奈!!》
《麗奈ちゃんっお願いだから…っ》
《麗奈…》
(アツヤ、華音、アフロディ…)

皆の声がはっきりと聞こえてくる
少し見えた光に麗奈は手を伸ばしたが…止めた

(今更掴んだって…無理に決まってる)

伸ばしかけた手を下ろそうとしたその時

「ふざけんじゃねぇ!!!勝手に諦めるな!!」
「そうだ、お前はまだ死んでなんかいない!!」

不動と豪炎寺に手を引かれて光へと進む
麗奈の視界が明るくなり目を瞑る
次に目を開けた時視界に飛び込んできたのは不動と豪炎寺の泣きそうな顔だった

「ぁ…れ…?」
「「麗奈っ!!」」
「不動…修也…なんで泣いて……」
「お前っ…心配かけんな…っ」

麗奈が周りを見渡すと部活のメンバーが心配そうに見ていた
いまいち状況が理解出来ないでいた

「私は……いたっ」
「動くな!!傷が開く」

そう言われて麗奈は状況を理解した
あの時麗奈は1人の女に刺されたのだった
それを思い出した瞬間麗奈は息が浅くなり始めた
それと同時に昔の事がフラッシュバックしてきた

「はっ…はぁはぁっ…ぅ…ぁ……っはぁ…」
「麗奈!?どうした!!?」

最初に異変に気付いた不動は麗奈の肩を触ろうとした
だがそれは本人によって退けられた

パシッ

手を退けられた不動は目を見開いた

「はっ……?」
「っ…出て行って……はっ…」
「お前何言って「早く出て行って!!目障りなのよ!!」

麗奈は声を張り上げた
それを聞いて不動以外の部員達は麗奈の気迫に押されて病室を出て行った
病室に残った不動を麗奈は睨みつける
だが不動は怯まない

「あんたも…出て行って……っ」
「………」
「出て行ってって何度言えば…うっ……」

浅い呼吸の中大声を出したせいで麗奈はその場に蹲った
それを不動は心配しないワケで、駆け寄ろうとする
またしても近づいてきた不動を今度こそ追い払おうと精一杯叫ぶ

「出て行きなさい!!!」
「っ!!」
「いい加減…もうウンザリなのよ……お節介も甚だしい…」
「お前……それは…本心か…?」
「当たり前でしょ…!!あんた達なんて…………大っ嫌いよ!!!」
「……そうかよ」
「ぁ……………」

言った瞬間麗奈は後悔した
でも今更謝る事も出来ず無言で立ち去る不動を見つめるだけだった
残されたのは麗奈ただ一人

「……………………………ごめん…不動」

あの時思い出したのは彼女がまだ高校生の時の事
今回の出来事と同じような出来事があり学校だけではなく施設でも外でも人間不信になってしまった事があった
それでも彼女がまだこうしていられるのはたった一人だけ虐めの件を知っていた奴が彼女を支えてくれたから

(木葉…ごめんね……また人間不信になっちゃった………)

自分を支えてくれた彼の名をぽつりと呟いて麗奈は目を閉じた
きっと今から見る夢は残酷なんだろうと考えながら……



不動視点

「くそっ…」

病院の廊下に出た瞬間扉を背もたれにズルズルと座り込んだ
麗奈の言葉には正直言って驚いた
まさかあんなに怒鳴るなんて思いもしなかったからだ
アイツの顔は何かを恐れているような顔だった

「何を…考えてんだよアイツは…ワケわかんねぇ…」

出て行けって言われた時はガラじゃねぇのに頭が真っ白になった
それに加えて拒絶されたから尚更

「何で…今更気づくんだよ…っ……今気づいて何の意味があんだよっ……!」

アイツの笑顔を見るたびに高鳴る鼓動
アイツが近くにいると帯びる熱
他の誰かと話していると締め付けられる胸
悲しい顔をされると守ってやりたいと思う感情
俺以外見て欲しくないという感情
これらの症状はまさしく愛しいと思う感情で…
つまりは――――…

「俺は…アイツの事が―――――…」

好き…いや、心から愛してるんだ麗奈を……

「でも……俺はどうしたら…」

麗奈を俺が救えるとは思わない
多分アイツの傷は心の奥まであるから
それなら俺は自分に出来る限りの事をしよう
それがアイツにとっては迷惑なだけだろうと

「ハッ悩むなんて俺もらしくねぇ」

俺は自分のやりたいようにやらせて貰うぜ
だから覚悟しとけよ…麗奈
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