異世界少女と不器用男子

□絶望の谷間に
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豪炎寺たちが話している時
一方麗奈は……



稲妻総合病院


「ん……」

麗奈は目を覚まし辺りを見渡す
目に光は戻っては居たものの動きが挙動不審だった
そこに丁度勝也が病室に入ってきた

「起きたか」
「ひっ…」

勝也を見た瞬間麗奈の顔は青ざめ両腕を抱き抱えるようにして後ずさった
麗奈を見て勝也は成るべく優しく声を掛ける

「大丈夫だ。私は君の味方だ」
「ぁ…み…かた…?」
「あぁ、君の傷を治そうと思ってな…具合はどうだ…?」
「き…ず…?……ぁ、はい…大丈夫…です………ぁの…」
「ん?」

麗奈は困惑しながらも傷は大丈夫だと答えたがその後に出てきた言葉は残酷なものだった
今の彼女の現状を突き付ける様に

「わた…しは……誰…………ですか…?」

か細くながらも彼女は自分が誰なのか尋ねる
勝也はその現実に皺を寄せたがすぐ優しい顔つきになってこう言った

「君は五嶋麗奈。雷門高校の生徒で部活はサッカー部だ」
「さっ……かー……?……それって…男の子が…やる……」

状況を理解できていない今の麗奈では一気には教えられないと踏んだ勝也は後でまた話すと言って
病室を出て行った。残されたのは病室のベッドに座る麗奈のみ

「五嶋………麗奈……?……私の…名前…」



そう彼女はこの世界で人間不信と…


記憶喪失になったのだ

麗奈が誰か、友達が誰か、今まで何をやって来たのか…自分がこの世界の人間では無い事…全て忘れ去ってしまったのだ
彼女はそんな事なんて露知らず、これから来るであろう人達を絶望の淵へと連れてゆくのは容易ではない…
ただ、彼女にとって少し気掛かりな事があった

「これ…は……?」

麗奈の腕に付いていたアクアマリンのブレスレット
それは不動達と共に遊園地に行った時不動と御揃いで買ってしまったものだ
麗奈はそれを繁々と見つめていると脳裏に何かが映った
だがそれは一瞬の事で麗奈は特に気にしないでいた

「これを、見てると…何か懐かしい…」

その正体も分からないまま麗奈はベッドへと潜り込み目を閉じた

絶望はこれだけでは…終わらなかったようだ…







数時間後

「いやぁぁぁぁぁ!!!!」

再び麗奈の病室から悲鳴が聞こえてくる
もちろんその声は彼女の声である
勝也はその悲鳴を聞いてすぐに駆け付けた

「麗奈君!!?」
「いやっ…あぁぁぁぁっ…来ないでっ、来ないで…いやぁああ!!!」
「しっかりするんだ!!落ち着いてくれ!!」
「あぁぁぁぁぁぁああああぁぁっ!!!」

勝也の声は前のように彼女の声には届かない
涙を流しながら目を見開き体を掻き抱くようにしている姿は狂気の沙汰にまでゆくような光景だった
勝也も負けじと麗奈を呼びかける
それでもやはり麗奈の悲鳴は途絶えなかった
今は、午後4時
昨日麗奈を止められた豪炎寺は此処には居なく学校に居た
流石にこの事で呼ぶわけにもいかない
だが、麗奈を止めるには彼しかいなかった
と、その時、病室の扉が開き誰かが入ってきた

「麗奈!!」
「くそっ、遅かったかっ…!!」

そこに立っていたのは木葉と不動
木葉は麗奈を見て顔を歪めて壁に拳をぶつけた
不動が何故いるのか…それは彼に今の麗奈の状態を分からせるために木葉が連れてきたのだ
不動は狂っている麗奈に駆け寄り彼女を抱きしめた
そうすると麗奈は少しだけ動きを止めた

「っ…あぁ……」
「麗奈…大丈夫だ、俺がいる。…だから落ち着いてくれ…」
「ふ…ど………ごめ……っ…」
「!!?どうゆう事だ…彼女は記憶が無いのでは…」

勝也は麗奈の紡いだ言葉に驚愕した
麗奈は記憶を失い不動の事は知らないはずだった
だが、彼女は確かに呼んだのだ"不動"と
その呟きに木葉は答える

「多分ですが、ああして狂っている時だけ記憶が戻るんじゃないでしょうか」
「…………」
「今、彼女が見ている夢は彼女の古傷ともいえるモノですから」
「……そうか」

木葉はそれだけ言うと麗奈の元へと歩みを進めた
麗奈はまだ意識があり、丁度理性を取り戻した所だった
木葉は麗奈の手を取り、ギュッと握った

「お疲れ…って所か」
「こ…のは……?………なんで…ここ…に」
「…もう眠れ。傍に居てやっから」

木葉は麗奈の問いには答えず優しい笑みを湛えただけだった
それを見た不動は出来るだけ優しい声で麗奈を寝かし付けた
その声を聴いて麗奈は糸が途切れたようにパタリと眠ってしまった
寝息は息苦しいモノではなく安心した寝息だった
それを聞いて2人はホッと息を吐く

「何とか…成ったみたいだな」
「あぁ」
「やっぱりこの役はお前が適任のようだな」
「ついさっきまで、お前じゃコイツを助けられないとか言ってなかったか?」

不動は不機嫌そうに米神をピクつかせながら木葉を睨んだ
睨まれた木葉はバツが悪そうな顔をした

「説明不足で悪かったな。俺が言ったのは記憶が無い時の麗奈に対して、だ。お前だと絶対怖がらせるからな」
「はっ、賢明な判断だな」
「どーも」
「くくくっ」
「ははははっ」

と、険悪なムードを漂わせながらも2人は心底麗奈を心配していた
木葉は大事な家族として、不動は大切な女として
感情が違えど結果は同じ
麗奈を守りたい。その一心だった
ある意味この2人は似ているのかもしれない
そんな2人の間に今まで喋らなかった勝也が口を開いた

「すまないな。迷惑を掛けてしまって」

それは咎める事ような言い方ではない嫌味でも無い、ただ心からの謝罪だった
その言葉に2人はニッと笑い言った

「「大切な女(家族)の為ですんで」」
「……そうか。それなら、彼女の事は君達に任せよう」
「え、それって良いんすか」

木葉は勝也の言葉に目を見開く
不動も少なからず驚いていた
そんな2人に勝也は補足を付けたす
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