異世界少女と不器用男子

□届かぬ声
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同時刻


病院の一室に紅い髪をした男が外を眺めていた
ついさっきまで彼は意識不明の状態だったがふっ…と突然意識を取り戻したのだった
しかしそれを知る者はまだ居ない
すると病室のドアが、ガラッと開いた
開けたのはベッドに座っている男と同様紅い髪をしている男と薄い水色掛かった髪をした男だった
その二人は、ベッドに座っている男を見て驚いた

「晴矢!?起きてて大丈夫なの!!??」
「おぉ、ヒロト。今んとこは大丈夫だ」

そう言って笑う男―――晴矢はつい先日ほどに交通事故に合い意識不明の重体だったはずだった
その事に驚いたヒロトと風介を見て晴矢は苦笑した

「何だよその顔は。まるで俺が死人見てぇじゃねぇか」
「貴様っ…!!私達がどれだけ心配したと…思っているんだ、馬鹿ヤロォォォォォォ!!!!!!」
「ちょっ、風介!!俺病人!!」
「そんな事知らん!!死ねチューリップ!!」

そう罵倒する風介の目には涙が溜まっていた
何だかんだ言って昔からの友人の窮地は心配なようだ
そして晴矢はふと何か思い出したのかさっきまで笑っていた表情を無くし真剣な顔になった

「………なぁ、麗奈は…大丈夫なのか…?」
「「!!!」」

晴矢からでた言葉は自分が助けた女の心配だった
一方二人はその話しをするべきか迷った
今現在彼女は、この病院…稲妻総合病院の精神科で入院しているのだから
だがどうせ後々ばれてしまうだろうと思い、二人は真実を告げた

「…………麗奈ちゃんは………今、此処で入院しているんだ……」
「なっ!!?嘘だろおい!!」
「私達が嘘をつくとでも思っているのか?貴様は」

そう風介に言われ、ぐっと押し黙った晴矢だが今だに信じられないと言う顔をしていた

「原因は…何なんだ……?」

そう聞かれ戸惑ってしまったがヒロトは包み隠さず全てを話した
それを聞き終わった晴矢は苦虫を噛み潰したかのように顔を歪ませた
握っていた手に力が入り、爪が皮膚を引き裂いて血がポタポタと真っ白なシーツの上に染みを作った
護ったと思った女が本当は守り切れていなかったのだから
それを見ていた風介は口を開いた

「悔しいか?女一人護れずに」
「なっ風介!?何を煽る様なことを…!!」
「悔しいに決まってんだろうが!!!」

ヒロトは尽かさず間に入ろうとしたが風介は聞く耳を持たず、話を続けた

「だったら…何をそんなに情けない顔をする必要がある」
「っ!!」
「護りたいなら自分のする事を間違えない事だな」

そう言って風介は病室を出て行ってしまった
残された二人は何を話していいのか解らず沈黙したままだった
風介が言いたかった事、それは
自分の出来る事を精一杯やる事…そう言いたかったのだ
それを理解した晴矢は何も言えず、俯いていた
すると唐突にヒロトが口を開いた

「麗奈ちゃんさ、この世界の人じゃ無いのに…華音ちゃんを自分が傷ついてまでも護ってさ…本当に偉いよね」

俺らには真似できない。そう苦笑しながら言ったヒロトの顔は哀しみに満ち溢れていた
この時の三人…いや、豪炎寺、不動、凩屍以外の雷門メンバーは麗奈が記憶喪失だと言うことを知らない
もちろんこの病院にいる剣城優一や弟の京介、それに南沢篤志も知らないのだった
今でも彼等はこの世界の住人ではない麗奈を親しく、もしくは愛しく思っているのだ
記憶喪失と聞いた時の苦痛はこの時の比では無いはず
それ程五嶋麗奈の存在は大きく肥大していた

「そう…だな」

晴矢はそう相槌を打つことしか出来なかった
ヒロトもヒロトでそれ以上言えることが無くなり、また沈黙が訪れた
いつまで経っても風介が来ないのは、多分先に帰ってしまったのだろう

沈黙はまだ続く

ふと、晴也が口を開いた

「俺は…ちゃんと、あいつの事…守れた気がしないんだ」
「え…」

意外な言葉にヒロトは驚く
いつもは俺様で、無鉄砲で、人のいう事は聞かない晴也が、少しだけ弱音を吐いたのだ
そりゃ驚く
でもヒロトは、それだけじゃないのは知っていた

乱暴なようで実は繊細で、誰よりも仲間を大切にする良い奴

ヒロトの中ではそれが晴也の認識だ
エイリア学園解散の後、誰よりも皆の体の心配をしていたのは晴也だった
リミッターを解除したジェネシスの皆は、体に負担を掛けないようにしながらも説教をしていた

"いくら父さんのためとはいえ、自分の限界ぐらいわからねえのかこのアホ共!!!カラダが壊れて一生サッカーできません。じゃ、意味ねえんだからな!!!それこそ父さん悲しませてるだけだろうが!!!"

自分たちの心配も、父さんの心配もしていた晴也
この言葉で、いままで生意気だと思っていた彼の印象がヒロトの中で変わったのだ

言い方は悪いが
世話の焼けるガキ大将から、頼れるお兄ちゃんへと


「なんか、むしゃくしゃすんだよ…刺されて精神が狂うだけじゃ、終わらねえ気がするんだよ」
「たとえば、どんな…?」


「記憶が無くなる…とか」


その言葉を晴也が紡いだ瞬間、とても小さくだが、誰かの悲鳴が聞こえてきた
だがそれは強い風と草木が揺れる音で二人の耳には届かなかった…



届かなかったのだ…


いや、届いたとしても何か変わっただろうか
多分、変わらないだろう




届かぬ声
(それは異世界から来た少女の助けを求める声)




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