異世界少女と不器用男子

□希望の光は少しずつ
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「ぅん……」

麗奈が目を覚ますと、白い天井
もう見慣れてしまった病院の天井
麗奈が何らかの原因で腹部に傷を負ってから数日がたった
今だに麗奈が覚えているのは自分の名前と年齢、好きな食べ物…という基本的なものしか覚えていない
というより人の話を聞いて覚えた
というのが正しいのだろう
まだ肝心の何かが思い出せないでいるのは分かった
時々頭の隅でちらつく何か
懐かしいはずなのに、分からない
誰かが麗奈に呼び掛けている気がするのに、誰だか分からない
何もかも分からない

「………っ!」

突然、頭が鈍器で殴られたのかというぐらいの痛みが麗奈を襲った
それも一瞬の事ですぐに収まった

「………深く…考え過ぎたみたい…」

寝ようと思い、布団の中に潜り込み目を潰ったその時

《麗奈》
「!!?」

誰かの声がしてガバッと起き上がる
周りを見渡しても誰もいなかった

「…………?」

自分の錯覚かと思ったが、はっきりと声は聞こえていたためしばしの間、周りをキョロキョロと見渡していたがやはり誰も居ず不思議に思いながらも、再度布団の中へと入って行った

(さっきの声………何処かで……)

もう一度、声を思い出そうとしたのだが、今度は分からなくなってしまった

麗奈の大切であろう人の声のはずなのに、思い出せない
これ程辛い事があろうか
だが、今の麗奈はただの人形と言ってもよいほど最悪な状態だった
もともと不動への気持ちも気づいていなかった麗奈が現在の状況で不動に気持ちが振り向くなどありえないのだ
さらに、不動は不器用な性格と来た
前の麗奈ならば照れ隠しだという事も分かったりするのだが、今不動とあってしまったら確実に麗奈の苦手対象となるのだ
 
まるで、ガラス細工の物を片手で持っているような…


「ぇ…」

その時、麗奈の瞳から大粒の涙が溢れ出した
彼女は再び起き上がり自身の瞳からあふれ出す水を不思議そうに見つめた

「何で……涙が………」

(それに…胸が締め付けられる様に…痛い…)

麗奈は無意識に胸元を押さえた
涙は留まる事を知らず、止めどなく溢れてゆく
別に悲しい事があったわけではない
この涙は、麗奈の心の奥底に眠っている本当の麗奈の感情の現れである

「止まらない………何で……っ」

拭っても拭っても止まらない涙に困惑する麗奈

その時、彼女の病室の扉が開かれた
入ってきたのは、豪炎寺だった
ここ数日、彼は部活も出ずに麗奈のカウンセリングに身を挺していた
そんな彼の優しさに触れ、彼女も少しづつ彼だけに心を開いている
そう…豪炎寺"だけ"に―――――

「豪炎寺…君………」
「!?どうかしたのか!?」
「違うの……勝手に…涙が…」
「………………」

最初麗奈の涙を見て驚いた豪炎寺だが、事情を聞き何かを悟った
そして麗奈をそっと抱きしめる
その感覚にビクッと体を強張らせた麗奈
まだ体に触れられることには抵抗があるようで手を触ったりするだけで大げさに反応する
豪炎寺はそのまま麗奈の背中をポンポンと軽く叩く

「大丈夫だ。不動はお前を見捨てない…絶対だ」
「え…?」

豪炎寺は今の麗奈にではなく、中に居る麗奈に向かって呼びかけた
そうすると、涙は止まった
当の本人は何が何だかわかっていないようだ

「落ち着いたか…」
「ぇ…え、え?」
「気にするな。それより、プリン買って来たんだ。食うか?」
「え、…あ、はい……どうも」

おずおずとプリンを受け取る麗奈は別人のようだ
目には少し隈が出来ていた

それもそのはずだ
起きてるときはまだいいモノの、寝ている時に悪夢を見て錯乱する。それを不動や木葉が止める…の繰り返しだった
十分に寝れるはずがない
同時に不動達も眠れていなく、授業中に寝ている始末だ
それでも先生達が怒らないのは、勝也から事情を聞いているからである

(…まだ、話すときじゃないのは分かってるんだがな…)

豪炎寺も豪炎寺で気が気ではなかった
その上落ち着かない
いつもの麗奈は豪炎寺の事を"修也"と呼ぶ

もともと、不動をからかう為に呼ばせたはずだったが、何度も呼ばれるうちにそれが心地よくなっていった
けっして恋という感情ではない。これは、家族を思いやるような気持ち
しいて言うなら、夕香を大切に思う気持ちと似ている
多分これを言葉に表すというなら―――…




【家族愛】




他人を家族の様に扱うのはどうかと思うが、今の答えとしてはこれしかなかった

「ぁ…の…豪炎寺…君……?」
「っあ…な、なんだ?」

どうやら物思いに耽っていたらしく、それに気づいた麗奈が声をかけたようだ
豪炎寺は慌てて笑顔を作って、麗奈のようで麗奈ではない人物と夕方まで会話を続けたのだった…




















「まだ、ダメなの?」

一人の男がそういう
その言葉にもう一人の男は言葉を返した

「まだ駄目だな。もうちょっと"アレ"をなくさないと呼び覚ませない」

その答えに男は青色の目を光らせた
どうやら不満のようだ、が口にはしなかった
そこに一人の女がやってきた

「"  "」
「あ、"  "きたの?」
「えぇ、それであの子は?」
「まだ駄目っぽいんだって。僕は大丈夫だと思うんだけど」

と、青色の目を細ませ、対人している男を睨んだ
女は少し、不安そうな顔をしていた
二人の顔を見て男はため息をついた

「はぁ……今もできるけど、一日しか出て来れない…神はそう言ってた」
「じゃぁ…!!「ただし」!?」
「それをすると、回復が遅くなるらしいぜ」

喜びに満ち溢れた顔をした男の言葉を遮り、そう言い放った
女もどうするか迷っているようだ

「でも…あの子たちがそれまで耐えられると思う?」
「…………無理だな」
「でしょー?ほら、僕の言ったとおりじゃん」
「うるせえぞ、"  "」
「うっわ、こうゆう時だけ兄貴面しないでよ…木葉

男ともう一人の男――木葉――はどうやら兄弟のようだ
そんな弟の言い草に木葉はまたしてもため息をつき、頭をガシガシと掻いた

「っあぁ〜〜〜〜〜!!!わかったよ!!やりゃいいんだろ!!」
「そうそう。それでこそ木葉だよ」
「"  "、あんまり木葉を煽っちゃだめよ?一度すねると大変なんだから」
「二人して酷くね?…ま、そーゆう事だから神に頼んでくるわ」

そうしてひらひらと木葉は手を振りながら暗闇の中に消えていった
残された二人は空を見上げた

「頑張りどころだよね…」
「そうね…」

二人は木葉とは反対方向に歩いて行った


「「頑張れ、麗奈」」


二人の呟きは空の彼方へと消えていった
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