異世界少女と不器用男子

□知らせざる事実と過去の話
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said yumenusi


暗闇の中に私は居る。そしてこれが自分の中だという事も認識している
此処は、"私"の心の中の最奥部
いわば過去の仕舞い所といった所か
ここは居心地が悪くもあって良くもある。周りを見渡すと過去の記憶の映像が映し出される
小さいころからの虐待、小学校からの虐め
そして事件となった中学の出来事
もちろん楽しかった思い出もある
施設での日々と、仕事場での日々、この世界での日々…
特に仕事での日々はとてもやりがいがあって忙しかったけど楽しかった
先輩、後輩関係なく仲間として接していた
それがとても楽しかった

(…死に物狂いで勉強した甲斐があったってもんだよね…)

高校に入ったのは16の時
少し出遅れてしまったけど、何とか入る事が出来て、他の一年と違って年齢が一つ上で苦労したこともあった
でも木葉と時雨も同じときに入ってくれた



「本当にいいの?何も私のためにそこまでしなくても…」
「遠慮すんなよ。お前は今までずっと一人で頑張って来たんだ。これからは俺達を頼れよ」
「そうそう。麗奈は一人で突っ走って俺達を置いていくから時々悲しくなるんだよね」
「「もっと甘えな。俺達は家族だから」」
「2人とも…」



この言葉に何度救われたか分からない
家族だから、そういわれることが嬉しくて仕方なかった
だから高校に入っても怖くなかった


でも時々兄さんの事を考えてしまっていた

(私だけがこんなに幸せになっていいのかな…って)

兄さんは最後に言ってくれた
"お前はやりたい事をやって自由に生きろ。俺はお前と居れて幸せだったよ"
この言葉はきっと真実なんだろうと思う
だけど、年を取るごとにその言葉を素直に受け止められなくなってきていた
本当は私を恨んでるんじゃないのか…と

(私ってホント、歪んでるっていうか…病んでるっていうか…)

こんな後ろ向きに考えていたら兄さんに怒られてしまう
それならいっそのこと叱って欲しいとも思う
この歪んだ心を洗い流してほしい

(そんな事が出来るならどれだけいいか…)

どうやら私は思ったより兄さんに依存してるみたいだ
たった一人の家族だから…というのもあるんだろう








そうやって物思いに耽って何分…いや何時間経っただろう
遠くで彼らの声がしている気がした
不動と、修也
どうやら今、錯乱中のようでそれを止めてるようだ
本当、こんな私のために良くここまでしてくれるものだ
修也が私を気に掛けるのは何となくわかる気がする
でも不動は分からない
あの、自分勝手で、横暴で、他人の不幸なんてお構いなしのあいつが何故あそこまで…
きっと答えは分かってるのかもしれない
でもそれに気づいちゃダメなんだと心がストッパーをかけてるんだ
認めたいけど、認めたくない
こんな感情は初めてで正直戸惑ってる

告白されたのが初めてだといった時の不動の言葉

「こんな綺麗なやつ見逃すなんてそうとうバカ・・・あ」


「あーめんどくせぇ麗奈こっち向け」

そう言って私の唇ぎりぎりの所にキスした時


遊園地の観覧者に乗った時、二人で色違いのお揃いのブレスレットを付けた時

「これって普通カップルがするもんじゃねえのか?」
「確かに」


病室での柔らかい笑顔

「…あぁ、伝えとく」


練習の休憩の合間の会話

「なんにも言ってねえよ、鈍感」


全部全部大切な思い出
この思い出や過去をなくした私なんて私じゃない
戻りたい
そう思っても傷は深い。大木の根の様に
そう簡単には引っこ抜くことはできない

「以外と根に持つタイプなんだなぁ…私」

ははっと乾いた笑い声が暗闇の中に響く
それが余計私を悲しくさせる
この暗闇はまるで私を脅かすような空気を醸し出していた
気味が悪い
こうなるとすぐ、誰かに頼ろうとしてしまう
自分が弱い証拠だ

「情けないなぁ…」

仕事の時の心の強さは一体どこに行ったのだろうか
いや、あれは強くなんかない。強がってたんだ
自分は一人でも大丈夫だって思い込んで自暴自棄になってたんだ
私は、私を支えてくれる場所をずっと探してた。最初に見つけたのは兄さんの側。次は園の皆。その次は職場の皆
そして、今は……イナズマの世界
違う、少し前までは、だ
今は私に居場所は無い
暗闇の中、他人事のように自分が錯乱している姿を見て、早く救ってと願いそれと同時に逆のことも願ってる
こんな一人ぼっちの生活は、自分自身と向き合う時間が多いから嫌い。大っ嫌い

「このまま暗闇に溶けて消えればいいのに」

そんなことが出来ればもうとっくにやってる
その時、私がいる空間に光が差し込んだ
差し込んだ方に目線を向けると、そこには一人の男が立っていた
見間違えるはずもなく、彼は私の大切な人の一人であり唯一私の事情を知っていた人だ
茶色の癖毛に緑色のつり目。そしてお馴染みのベージュのダボっとした長袖Tシャツに黒のジーンズ
紛れもない、凩屍木葉だ
そしてよく見ると後ろにもう二人いた
一人は木葉と同じ髪の色で腰まである髪を一つに括り、目は青色
そして白色の首まである長袖のセーターとジーンズ
彼は木葉の弟の凩屍時雨だ
もう一人は女性で艶やかな黒髪が腰まであり、前髪はパッツン。目は同等の黒い目
そしてニットの淡いピンクのワンピースのしたにレギンスを履いている
彼女は私の母代わりであった、施設の管理人、宇野泉

「なんで…」

ここにいるのか
木葉が神に連れられてこっちに来たのは知っている
でもまさか時雨と泉姉を引き連れてこの記憶の中にまではいって来るなんて

「見ないうちに随分やつれたね。可愛い顔が台無しだ」
「久しぶり麗奈。あまりにも連絡が着かないものだから、来ちゃった」
「来ちゃったで来れる場所じゃないはずだけどね…」

苦笑しながら私は三人に近づく
皆最後にあった時と何も変わっていない
私が変わりすぎただけかも知れないけど

「お前、見ないうちに随分女っぽくなったな。昔とは偉い違いだな」
「木葉、それどういう意味」

ギッと木葉を睨むと本人はおぉコワと悪びれもなく言った

「まあ一理あるかもね。これも不動君のお陰かな」
「はぁ?なんでそこで不動が出てくるの?」
「………鈍感は相変わらずか…なんか妬けるなぁ」

あーぁと言って時雨は頭の後ろで腕を組む
この拗ねた顔も久しぶりだなぁ…じゃなくて

「で、何しに来たの」

いきなり本題を切り出すと、三人は聞かれると分かっていたのか驚かずに口を開いた

「お前を助けるため…ってか」
「…なんとなくそんな感じはしたけど、そう簡単に行くと思ってるの?」
「まさか。本題は一つ報告したい事があったんだよ」
「報告したい事?」

私は首をかしげると、泉姉は微笑んで答えた

「貴方のお兄さん…修司さん…この世界に居るそうよ」
「え…」

思わず目を見張る
そんなはずがないと考えた
だって兄さんは私の目の前で確かに死んでしまった
なのに、生きてて、この世界に居るのはおかしい

「どういう…こと…?」

私は震える声のまま、三人に問う
三人は顔を見合わせ頷く
そして泉姉が口を開いた

「貴方のお兄さんは五嶋修司さん。当時15歳…生きていれば28歳…よね?」
「……うん」
「彼はサッカーのジュニアチームのエースで近々海外のプロユースに行く予定だった…でも彼は貴方を守って他界…そこまでが貴方の知っている事」

私は無言でうなずく

「でも彼はまだサッカーがやりたかった…そのため、死んで成仏するはずだった彼の魂は別次元の世界へと引き込まれてしまった…
それが――――――――」


「イナズマイレブン(ココ)の世界…」

私は言葉を失った
まさか兄がこの世界に転生するとは思わなかった
あの時の兄さんの言葉は”自分のやりたいようにやれ、俺の事は気にしなくて良い…自分の人生を突き進め…俺の分まで…楽しく…”そういった
そうだ、兄さんにも夢があった…サッカー選手になって世界中の皆を笑顔にしたいと言っていた
そんな夢をあきらめてまで私を励ましてくれた
兄さんは私を大事にしてくれた…それなのに私は…

「私は………ここで…塞ぎ込んで……」
「麗奈、自分を責めないで…」
「違う、そうじゃない…こうやって塞ぎ込んで殻にこもって頑なに出てこない自分が情けなくて馬鹿で…イライラしてきたんだよ…」
「麗奈?」
「話しを続けて…最後まで、聞きたい」
「……………彼は、彼の魂は一つではなく二つに分かれて転生を遂げた」
「此処からは僕が説明するよ」

時雨が泉姉の言葉を遮り、真剣な顔で話しを続けた

「一つは性格、容姿を…もう一つは生きざまを受け継いで生まれてきた…一人は予想ついてるんでしょ?彼なんじゃないかって」
「………………」

信じたくなかった
彼が兄の生まれ変わりなんて…
彼が――――――――

「容姿、性格を受け継いで生まれたのは…豪炎寺修也。そして生き様を受け継いで生まれたのは…南雲晴矢」
「!!!!!晴矢が!!?」

修也がそうなのではないかと予想はしていた
だけど、晴矢が兄さんの生き様を…
だからあの時、過去を話した時ポツリと「俺と同じだ…」とつぶやいたんだ

「さぁ、どうする…麗奈」
「……………………………」
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