異世界少女と不器用男子

□愛する者の為に俺が出来る事
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始めの出会いは鬼道クンの妹を探している時だった
出会いは最悪かどうかは分からない
でも笑っているアイツの目の奥には深い悲しみ
と憎しみが宿っているのを感じ取った

それは俺も経験している感情だから

教室で改めてアイツに出会った
その時のアイツは外で出会った時よりも冷めていて、周りの奴らも拒んでいるようだった

やっぱり似ていた

部活にアイツが顔を出した時は驚いた。そしてキャプテンたちに謝った事も
本当は……あー……ガラじゃねえけど……
笑顔が似合う…可愛い奴だと…そう思った

だけど、目の奥だけは未だに悲しんだままだった

アイツに惹かれたのは何時だったか分からない
自覚したのはアイツが病院に運ばれ、目を覚ました時
…アイツに初めて拒絶された時

【当たり前でしょ…!!あんた達なんて…………大っ嫌いよ!!!】

大嫌いなんて言われ慣れてる筈なのに、あいつの言葉は俺の心に深く突き刺さった
震えていたアイツはきっととっさに思ってもない事を口に出してしまったのだろうと思う
けど俺は、落胆したという表現が似合うほど傷ついていたようだ
その時だ…この思いに気付いたのは

それからは、自分に出来ることを探していた。けど、何もできない事が明白に分かっていて、悔しかった
そんな時だ…凩屍木葉が現れたのは
木葉はアイツの小さい頃からの幼馴染であり、家族だという
そんな奴に、言われた事実。それが記憶喪失
そして悪夢のせいでうなされている事
不本意だが、それを言われて俺の出来る事が見つかった
もう一度あの笑顔が見たくて、俺に笑い掛けて欲しくて、ひたすら頑張った

それから一日限りでアイツの記憶が戻ってきた
変わらない笑顔に胸が高鳴った
それを隠すように、めいいっぱい笑わしてやった
サッカーの腕は落ちて無くて、久しぶりに胸が躍った
まぁ、気に入らない展開もあったがアイツが笑ってるから良い。と、もうべた惚れで駄目な俺がいた
その後、俺とアイツは二人きりの病室でアイツが眠るまで一緒に居た
そんなに喋る事は無かったが、それでも居心地は悪くなかった
眠る最後に見た笑顔は大人びていた…



只今、授業後半
昼飯の後だから余計眠い
俺は欠伸を噛みしめながら、隣の席を見やる
隣は空席。ここはアイツの席

授業中は先公の話などろくに聞かず、筆箱と積み上げたその時の教科の教科書でノートを隠しながら、いつも絵を描いていた
覗こうとしてもすぐに隠される。見られるのは恥ずかしいと言って見せてはくれない
だが、あいつがいない間にちょっとだけパラパラと捲った事がある
そこに描かれていたのは俺らイナズマジャパンのメンバーや世界代表…けど多かったのは俺の絵
そう言えば、俺らはアニメのキャラクターで、その中でも俺が好きなんだとか言ってた記憶はある
それでも自惚れたくなってしまうのが恋心という訳で
もちろんその後戻ってきたアイツに見つかって怒られた
真っ赤な顔で必死に取り返そうとしててさ…可愛いなって思ったんだよな

「…ぅ……どう…不動っ!!!」
「っ!!」

昔の事を思い出していると、突然聞こえてきた呼びかけに現実へと引き戻される
俺を呼んでいたのは源田だった
どうやらもう放課後らしい

(どんだけアイツの事考えてんだよ…俺は…)

俺はため息を吐いて出しっぱなしにしていた5時間目の教科書をしまう
源田がこっちに来たのは、部活が始まるから呼びに来たのだろう
俺は筆箱をカバンの中に入れて、立ち上がる
と、あいつの机の中に何かが入ってるのを見つけた
引っ張り出してみるとさっきまで思い出していた、ノートだった
パラパラと捲ると絵の枚数は更新されていた
基山が技を繰り出している絵だったり、普通の学校生活の絵だったり…そして俺単体の絵だったり

「どんだけ描くんだよ…俺の絵…」
「不動?どうかしたのか?」
「いや?なんでもねぇよ」

俺はノートをカバンに仕舞って歩き出す
このノートは家に帰ってからじっくり見る事にした
後々アイツに怒られることは承知の上で




「今日は随分とぼーっとしてたみたいだけど…どうかしたのか?」
「別に…いつも通りだろ」

部活の休憩中にアツヤが話しかけてきた
今更だがこいつも一応同じクラス
といってもほとんど授業は受けていない…というか寝てる
だからアイツが転校して来た時も、アイツはアツヤが同じクラスなのを知らなかった
まぁ、窓際の一番後ろっていうのもあるが…
俺は顔をそむけて、返事をする
露骨に肯定してるが今はコイツの目を見たくなかった

「はぁ…どうせ麗奈の事だろ?」
「っ…」
「図星か」

はぁとため息を吐いてその場に座る
ため息を吐きたいのはこっちなんだが

「お前って本当分かりやすいよな…いや、麗奈が来てから分かりやすくなった…か?」
「うるせぇよ馬鹿が」
「てめぇな…」

アツヤは青筋をピキッと浮かび上がらせながら、俺を呆れた目で見る
器用なやつだな
俺はアツヤの言葉を右から左に受け流しながら、空を見上げる
アイツとこの空の下でサッカーをしたのは10日前…もう長い事アイツとサッカーをしてないような感覚に陥ってしまう
アツヤに指摘されてからもまたアイツの事を考え始める俺はきっと重症だ
まさかこんなにも惚れこむ奴が出来るなんて思ってもみなかった
そんな思考を巡らせてる俺を休憩終了の笛が現実へと戻した…



そして放課後、俺は病院を訪れた
今日は初めてあっちのアイツに会う日
といっても大体寝ている時間が多いと豪炎寺から聞いてるため、顔を見て帰ろう…ぐらいの感覚だ
病室前まで来ると中から歌声が聞こえてくる。豪炎寺ではない…この声は……

「麗奈……?」

俺はそっと扉を開ける
そこには今までと変わらない風景と、一人静かに歌う女の姿
紛れもない麗奈である

「目を塞ぎうずくまる姿にその人は驚いて
『目を見ると石になってしまう』というとただ笑った
『僕だって石になってしまうと脅えて暮らしてた。でも世界はさ案外怯えなくても良いんだよ?』
タンタンと鳴り響いた心の奥に溢れてた想像は世界に少し鳴り出して
ねえねえ突飛な未来を教えてくれたあなたがまた迷った時はここで待ってるいるから。」
「……………」

確かこの曲は…空想フォレスト…以前麗奈が教えてくれた。といっても俺は最後しか覚えていないが
アイツが歌いだす前に、自然と俺の口は動いた

「夏風が今日もまたあなたがくれた服のフードを少しだけ揺らしてみせた。」
「………!!?」

アイツは自分以外の声が聞こえて驚き、俺の方を振り向いた
振り向いたアイツの容姿は少し変わっていた
髪は銀色で、目は黒曜色だった
アイツの目が俺を捕えた瞬間、俺は怯えた顔をするアイツを想像し、身構えた
だが、アイツは微笑んで言った

「歌、うまいんですね」


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