異世界少女と不器用男子

□そして光は満ちた
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不動視点

あれから数日
変わり映えのない日々が続いた
…変わったと言えば、麗奈の錯乱が無くなった事だけ
記憶は中学時代の記憶で止まったままで変化は見られない
まあ、ゆっくり寝れるのは嬉しいのだが
やはり、出会って間もない麗奈の方が良いわけで、性懲りもなく俺は毎日と言っていいほど病院へ足を運んでいる
真・帝国時代の俺には考えられないほど、麗奈に執着している
誰かに執着したりするのは初めてで、正直戸惑ってはいる
街中で見かけるカップルたちを見て、くだらないと思っていたはずなのに、あの時の俺は一体どこへやら

(ま、告白する気なんてさらさらねぇんだけどな)

そりゃそうだ。なぜなら、俺はこの世界、あいつは別の世界の住人だ
そんな二人が結ばれれて―――…と言ってもアイツの気持ちは知らねえが…―――良いはずがねえ
ただでさえ、年齢差があるというのに、いらない特典まで付いて来た
そんな奴に告白して、その後別れる…なんて、かっこ悪いにもほどがある

(そのくせ、他の野郎に取られたくない…なんて、随分とおめでたい頭してるよな。我ながら)

はぁ、と深いため息を吐いて、窓の外の空を見上げる
今の俺の感情とは裏腹な晴天。そろそろ秋も深まるというのに、この暑さはまだ下がりそうにない
そしてこの午後特有の暖かさのせいでさらに授業態度が悪くなる
くぁっと欠伸を噛みしめないでいたら先公に睨まれた。が、お構いなし

いつか麗奈と別れる日が来るのは明白
その時までに俺が出来る事なんて、殆んどないわけで
こうやって毎日嫌になるほど通ってるってことだ

(アイツにとって迷惑なのかもしれねえけど…記憶のトリガーは俺だって言われてっし…何でかは分かんねえけど)

つい先日、凩屍に言われたのだ

【麗奈の記憶のトリガーはまさしく君だ。】


何故だと聞いても奴は答えなかった
ただ、俺が身に着けているモノの何かがヒントだとは言った
そうなると、答えは簡単だった

「コイツがトリガー…ね…」

俺は呟き、右手首にはめた、紫のブレスレットを軽く掲げる
これは遊園地へ行った時、たまたま同じものを買った時に交換して付けたもの
あの時はちょっとした気分で買ったブレスレット。だが、あの時好きでもない水色を選んだのはきっと…いや、これを考えているとまた自分が空しくなるだけだ
とにかく、このブレスレットがトリガーのヒント。と言われると少し納得がいく
麗奈はあっちの世界では友人と言う友人がいなく、遊ぶ相手は施設の奴らだけだったと言っていた
なら、こういうプレゼント…というのはやった事がないのだろう

(そうなると、これがヒントってぇのも納得がいくわけだ…)

異世界で出来た初めての仲間や友人
その一人が自分の為に何かを買ってくれた
これ程嬉しい事は無いのだろう
そんな嬉しい事を簡単に忘れられることなどない
俺だって、世界大会優勝は柄にもなく喜んだ

(……伝えようとは思わねェけど…これが俺に出来る最後のことだ。だから、いい加減目ぇ覚まして俺が好きだと思う笑顔を見せろよ…馬鹿)

そうやって考えていると、いつの間にか授業が終わっていた
…そういえば現代社会の時間だったな

「まーた、麗奈のこと考えてたのか?」
「……うっせぇよ、アツヤ」

またしても俺はアツヤにからかわれることになった
最近はこんな事が多々ある
麗奈のことを考えすぎているせいか、プレーにも影響が出て来ていた
久遠監督はアイツの事情を知っているから、俺に何も言わねえが、そうじゃなかったら完全にシメられている

「……本当、戻ってきたらシメる」
「…そういや、まだ傷治んねえのか?」
「あ?あぁ…」

そういえば俺と鬼道クン、豪炎寺、南雲以外は麗奈が記憶喪失なのは知らないのだった
と、今のアツヤの発言で思い出す
俺は曖昧に答えを促す

「たっくよぉ…お前が面会謝絶だーって言って、麗奈と会わせてくれないせいで、こっちには気分ブルーなやつが多発だってぇの」
「はぁ!?いつだれがそんな事言ったんだよ!!」
「鬼道が言ってたぜ?」
「あのゴーグルシスコン野郎…」

あの時の冗談がまさか本当に採用されるとは思わずにいたため、不意打ちを食らった
深いため息を吐き、後で一発殴る事を決意した時、丁度次の時間のチャイムが鳴ったのだった





「おい、鬼道クン、ちょいと面かせや」
「会って早々の発言がそれか」
「鬼道クン…よくもまぁ、あんなデマ広げてくれたよなぁ?」
「む、俺は何のことか知らんが?」
「すっとぼけんじゃねェよ、シスコン野郎!!知ってるって顔にありありと書いてあんだよ!!」
「俺はシスコンではない。ただ妹が大事なだけだ!」
「それをシスコンって言うんだよ世間では!!つーかツッコむ所そこかよ!?」

「不動のやつ、今日は元気だな!!」
「円堂にはそう見えるんだな…;」
「ん?何か言ったか?風丸」
「いや、なんでもない」

という会話が聞こえたが、あえて無視しといた
そんな時、こちらに向かってくる人物が一人いた
神宮寺だ
コイツは改心してからと言うもの、麗奈にべったりだった
そのため、記憶喪失と言う事実を言えずにいたのだが、ある意味正解だったようだ
怪我をして入院をしているだけだというのにコイツの落ち込み様は半端じゃなかった

「神宮寺、どうした?」
「あ……あのさ、麗奈ちゃんまだ退院出来ないの…?」
「まぁな…」
「でも…もう、退院しても良い頃でしょ…?それなのにどうして…」
「「…………」」

神宮寺の言葉に俺らは口をつぐんでしまった
これではまだ何かあると言っているようなものだ
麗奈を心配する気持ちはよく分かるが、真実を教えて余計に落ち込まれるのも嫌なのだ
とは言えず

「麗奈にはな、この前付いた傷の他に古傷があるんだ」
「え…?」
「!豪炎寺」

何も言えない俺達に助け舟を出すように、豪炎寺が近くに寄ってきた
豪炎寺はそのまま、言葉を続ける

「麗奈が、いじめを受けて今回の事と同じ事が起こってるのは知ってるな?」
「うん…」
「その時の傷は麗奈の心の傷として、残っているんだ。それを直さないと今回出来た傷が古傷として残ってしまうんだ。麗奈がまだ入院しているのはそういう理由だ」
「そう…なの…?」
「あぁ」

豪炎寺は頷いた。神宮寺は少しばかり納得のいかない顔はしていたが、一理あると思ったのか、変な事を聞いてごめんと言ってベンチの方に戻って行った
だが、今の話は初耳だった

「豪炎寺、お前、なんでそんな事を知ってやがる?」
「…それは、俺が―――「おーっす」!」
「「!!南雲!!」」
「お?よー、お前ら。元気にしてっかー?」

豪炎寺が何かを言いかけた時、突然聞き慣れた声が聞こえ、振り返ると、点滴の吊るされた支柱を持った南雲がいた
…こいつこの前まで意識不明の重体だったよな…
南雲は俺達の方に歩み寄る…はずだった

「この馬鹿者ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
「ごふぁっ!!?」
「Σ風介!?晴矢はまだ怪我人だよ!?それも重症の!!」
「そんな事は知っている!そんな重症人が何故此処に居るのかが疑問なんだ!!」
「わかった、わかったから晴矢離してあげて!!死んじゃうから!!」

南雲を蹴り飛ばしたのは、涼野だった
涼野は容赦なく南雲の肩を揺さぶり続けている
基山はと言うとおろおろしながら必死に涼野を止めていた
だんだんと白目をむいて来た南雲は大丈夫なのだろうか
そんな事をしているうちに練習は始まってしまった


豪炎寺が一体何を言いかけたのか、聞き逃してしまった
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