夢の館

□ひなた
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ふわふわ

目の前を小さい蝶々が不規則に飛んでいる

ふわふわ

春の空の雲がゆっくりと

ふわふわ

視界に入るオレンジ色の髪が緩い風に揺られる
暖かな日差しの中、大きな木の下の木陰でお昼寝
提案してくれたのは翔陽ちゃん
今日はピクニックと言う名目で、丘に来ていた

頑張って早起きして作ったお弁当を持つ
約束の15分前に着いてしまった
浮かれすぎてるなぁ…とちょっと反省
けれど、私より彼の方が早かった

「あ、紗英!!早いな!!」
『翔陽ちゃんこそ』

じゃあ同じだな、そうだね、と笑い合って自然と手を繋ぐ
今日の行先は翔陽ちゃんしか知らない場所らしい。なんでも秘密の場所なんだとか
そんな場所に連れてってもらえるのは彼女の特権かな?っと一人にやにやする
目的地に着くまで色々な話をした。けれど、一番面白い話はやっぱり部活の話
一度顔を合わせた事があるけれど、部員全員個性豊かで見ていて飽きなかった
それに翔陽ちゃんが部活の事を話すとき、目がキラキラしていて見るからに楽しそう
その表情が好きって言うのもある

しばらくして、道が開ける場所に出た
そこからは自分の住んでいる場所が一望できる場所だった

『わぁっ…!!』

思わず感嘆の声を上げる
隣を見ると翔陽ちゃんが陽だまりのような笑顔で私を見ていた

「気に入ってくれてよかった!!あ、あっちで食べよう!」

荷物貸してと翔陽ちゃんは私の持っていたバスケットを取り上げる
自分で持てると言ったけど、この坂ちょっときついからとニシシと笑う
こうやって天然で気を使ってくれるから、時々心臓に悪い

『ずるいなぁ…』
「ん?なにが?」

やっぱり気づいてない翔陽ちゃんに笑い掛けて、手の空いている方を取って引っ張る
とても幸せだと身に染みて感じる

(毎日毎日翔陽ちゃんに会ってるのに、全然飽きない。飽きるどころかどんどん好きになってく)

あぁもう…ニヤニヤしてしまう


「すげぇー!!これ全部紗英が作ったのか!?」
『うんっ!…まぁ、所々失敗しちゃったんだけどね…』

と、苦笑
恥ずかしくなって、絆創膏の貼ってある手をさりげなく隠す
でも翔陽ちゃんはそんな事もお構いなしに、食べておいしいよと言ってくれた

「また作ってよ!俺、お前が作ってくれるもの好きだし!」
『っ…!!』

きゅんっ
そんな音が胸の奥から聞こえてくる
翔陽ちゃんの胃袋を掴むことは成功したけど、それ以上に私が心を掴まれた
ふと見ると、目の前の彼はコクリコクリと舟をこいでいる

(お腹いっぱいになって眠くなっちゃったのかな?)

それに今日は凄く暖かい
眠くなるのは当たり前かもしれない

『翔陽ちゃん、眠い?』
「んー……紗英も、お昼寝しよう…?」

翔陽ちゃんは私の返事も聞かずに、ガッと私の肩を掴んで自分の方に引き寄せる
がっちりホールドしたと思ったら、そのまま横に寝転がる
少しばかり芝生がちくちくと頬に当たる

『しょーよーちゃーん?眠いなら膝枕するよー?』

ぺしぺしと軽く頬を叩く
けれどすでに彼は夢の中へと旅立っていた
しょうがない…と、諦めて翔陽ちゃんの髪を撫でる
身じろぎはするものの、起きる様子はない
この分だと、楽しみすぎてちゃんと寝れずにそのまま待ち合わせ場所に来たのだろうか
かと言う私も同じような感じなんだけど

(翔陽ちゃん、試合云々で忙しくてデートできなかったから…)

電話で誘いを貰った時は凄く嬉しかった
メールじゃなくて電話でっていうのが
細かいかも知れないけど、ちゃんと喋れてない分声が聴きたかった

「ん……ぅ…紗英…」
『!!…ふふっ…』

寝言で名前を呼んでくれたのが嬉しくて、私は翔陽ちゃんの胸にすり寄る
暖かな日差し、頬を撫でる風も柔らかい
そして何より彼の体温が心地いい
寝不足な私の瞼は次第に開かなくなっていく

(いい夢が見れますように)

今日の嬉しかった気持ちを乗せて、名前を呼ぼう
ちゃん付けしないで呼んだらどんな反応をするのかな
そして言うんだ

大好きだと



END





「…おやすみ、紗英」

眠りについた彼女を柔和な笑みで見つめる日向
その表情-かお-はいつもの彼とは考えられないような大人な表情であった
日向は先ほど彼女がそうしたように髪を梳く
そしてその髪にキスを落とす
ふわりと日向が大好きな甘い甘い香りが漂う

(紗英の匂い)

日向はこの香りがたまらなく好きで、よく抱き着きに行く
その香りは、とても柔らで彼自身安心するからだ

「大好きだよ、紗英」

だから、今日よりもっとたくさんの笑顔を見せてね
そうすれば僕も笑顔になるのだから




今度こそ本当にEND

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