夢の館

□嫉妬
1ページ/2ページ



学校にて

「ん?」

前方に自分の彼女を発見
どうやら誰かと話してるご様子。いつも一緒にいる友達だろうか

「っ―――」

名前を呼ぼうと口を開きかける…が、とどまる
だって彼女と話していた人は友人ではなく、岩ちゃんだったのだ
二人は楽しそうに笑って話している
あの怒ってばかり(大抵俺のせいなのは分かってるつもり)の岩ちゃんがあんなに楽しそうに笑ってるのは珍しい
もやっと胸がざわつく

(なんで…そんな楽しそうなのさ)

分かってる。ここで嫉妬を彼らに押し付けてはダメなことは
何度目だろうか。このもやもやとした独占欲を掻き立てられるのは
そしてこれを押さえつけて彼女に接するのは

(我慢…我慢しなきゃ…俺の本気で好きになって付き合えた初めての子だから。怖がらせて、離れていっちゃうのは嫌だ)

けど

「たっく仕方ねえなお前は」

「ありがと岩ちゃーん」

「岩ちゃん呼ぶな」

岩ちゃんが仕方なげに苦笑すると、紗英は花が咲くように笑った


ブツッ…


気づいたら俺は彼女の腕を掴んでいた

「…徹、くん…?」

目の前の彼女の表情は不安そうな顔





「…徹、くん…?」

岩泉くんとプレゼントの話をしていると、ガッと腕を掴まれる
見ると、話の中心の徹くんが腕を掴んでいた
けど、いつもの笑顔はなく、怒ったような不安そうな泣きそうな複雑な表情と瞳
見覚えがあるその表情

「じゃ、俺は行くな」

「あ、うん……っ!?」

岩泉くんに返事をすると同時に、彼が進む方向とは逆方向に徹くんは進み始めた

「と、徹く「黙って」っ…」

こちらの顔は見ずにずんずんと進んでいく

(ヤキモチ…焼いてくれたのかな…?)

って、そんな事ないか
私みたいな平凡や凡人という言葉が似合う人に嫉妬はしないだろう
でも…
何度かあの表情は遠くから見えていた
もしヤキモチだったなら…

(いいな…)

なんて考えているとぴたりと徹くんの足が止まる
いつの間にか授業であまり使われない教室に入っていた
掴んだ手は離さないままくるりと振り返る
やっと見えた瞳には何も映ってなかった

「なーんてね。吃驚した?」

と、思ったらぱっといつもの笑顔に戻った
…違う。そう見せてるだけ
彼は部活などで、場の雰囲気が悪いと無理やり明るく見せる時がある
今がまさにそれ
中学の時からずっと見てきたから分かる
作り笑いはいつの間にか彼の得意分野になってしまっているのだから

「……びっくり…したよ」

「ほんと?なら大成功だねっ☆」

「…いつの間に、そんな作り笑いが上手になったの?」

「え」





ギクリと顔が引きつる
腕を掴んだことに気が付いた時から後悔した
好きな子に不安な顔をさせてしまった事に
だからわざと怒ってるように見せかけて、岩ちゃんと仲良く話してるからヤキモチ焼いちゃった。ごめんねっ☆って軽い感じで言おうとしたのに
彼女から出た言葉は、俺の核心を突いて来た

(なんで…今日に限って、そんな見透かすような目をするの)

昔っから器用だねとか気配り上手だねとか言われてた
けどホントは不器用で対人コミュニケーションが苦手で
どちらかと言うと対人コミュニケーションは岩ちゃんの方がきっと得意だ
俺が皆のポテンシャルとかを見極めて、最高のトスを上げられるのは自分がどう思われるか怖くて他人の感情に敏感になってしまっていたからだ
それを紗英はこの言葉で一気に俺の本質を見透かした

(どうしよう。何か話すにも言葉が出てこない)

「徹くん、好きだよ」

「は?」

「徹くんが遊びでも気まぐれでもなんでもいい。私は貴方が好きだ。ずっと前から。寂しいならその場しのぎでも沢山好きだっていうよ。それで徹くんが満たされるなら」

「………」

この子は、こんなに男前だっただろうか
俺の目にはふわふわとした、笑顔が可愛い女の子として映ってた
俺の知らないうちに、こんなにも強くなっていたのだろうか

(いや…違うな。元々こういう子だったんだ)

ていうか

「ちょっと聞き捨てならないんだけど」

「え?」

「俺は遊びとか気まぐれとかその場しのぎとかで君に告白したんじゃない。君が本気で好きなんだよ」

「へ」

間抜けな声を出してぽかーんとした表情をする
その顔があまりにも間抜けで思わず吹き出す

「ぶふっ」

「ちょっと、笑わないでよ…!」

「だってその顔間抜けすぎ…っ…くくっ」

なんか拍子抜け
いままで嫉妬してたのが嘘みたいに晴れやか

「…好きだよ紗英」

「っ…」

なるべく自分の中で真面目な声で告うと、かっと紗英の顔が赤くなる
かわいいと純粋に思う。この先もこういう顔や、新しい顔を見てみたい
好きとか愛してるとかいう言葉よりも、1歩お互いに歩み寄れた気がした
嬉しくなって、衝動にぎゅっと抱きしめると背中に回される小さい手と腕

(幸せだなぁ)

とりあえず、授業の始まるチャイムの音は聞かなかったことにする








おまけ


「そういえば岩ちゃんとなに話してたわけ」

「あ、徹くんの誕生日になにあげたらいいかって話を…」

「俺の話だったの…!?心配して損した…」

「ふはっ…そーいう嫉妬深い所も好きだよ」

「ちょっ…!?直球すぎでしょー…照れる」

「直球じゃないと伝わらないと思って」

「負けました…」




end
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ