夢の館

□シャッター越しに
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パシャ、パシャリ
シャッター音が鳴り響く一室
そのスタジオには、綺麗な笑顔や決め顔、流し目…色々な表情をする一人の男性モデル
金色の髪に、空のような水色の瞳、その瞳から流れるまつ毛は女子の様に長い
勿論、女子のようなのはまつ毛だけに限らず、顔の形はどちらかと言えば中性的な顔立ちだ
金の髪の間から除く形の良い耳にはリング型の片耳だけのピアス
それが黄瀬涼太という男の特徴だ
中学時代、バスケ部に入ってからモデルの仕事は減らしていたが、それでも人気は絶えず、黄瀬涼太が表紙を飾るその月の雑誌はかならず売りきれるほどだ
もちろん、月バスでの特集で乗った時も
そんなイケメンでスポーツ万能、おまけに優しくて、バスケをする姿はとてもカッコイイ彼が黄瀬涼太と言う男だ
…勉強はからっきしなのだが、それは置いておこう

そんな大人気な彼が表紙を飾る来月のものを現在このスタジオで取っている
こうして傍観している私は、黄瀬涼太の彼女…という肩書を持っているのだが、正直恋人らしいことをした事は無い
何故なら、彼は人気者で、良く女の子が彼の周りをついて回る
女の子達に私の存在を知られれば、私どころか黄瀬にも被害が及ぶ
黄瀬は気にしないと言っているが、私は気にするのだ

(好きな人が疎まれたりするのは嫌ですからね…)

なんて一ミリも思ってないだろう彼にいら立ちを覚えたりもするが、それは完全なる八つ当たりなのでそっと抑える
そういう世間体を気にする私が、何故このスタジオに居るのか
まあ色々めんどくさい事が起こったのだが、取り敢えずスタッフに恋人であることがばれたとでも言っておこう
ただのマネージャである私が、いつの間にか恋人なのだ
驚いて、休憩時間のお茶請けにしたいのは当たり前だろう
黄瀬も黄瀬で「俺の彼女可愛いでしょ!!」とか言うものだから帰るにも帰れなくなってしまったのだ
まあ、そうしてかれこれ1時間ほどカメラの前に立つ彼を見ているわけだが

(こう見るとホント、なんで私を選んでくれたのだろうか…)

告白は私から…と言いたい所だが、なにせ私はThe チキンだ。告白なんて恐れ多い
部活のとき遠くから眺めるぐらいの、村人Aぐらいでいいと思っていたのだ
なのにどうだろうか。現実はそううまくも行くわけなく
ある時の部活終わりの自主練時間。いきなり

「俺ら、付き合わないっすか?」

と、軽々とシュートを決めながら言って来たのだ
あれは心臓止まるかと思った。ほんと
気まぐれかなと思って、今まで見ていなかった黄瀬の顔を見ると、耳まで赤くなっていた
本気、だったのだ
あれから半年は経っただろうか?随分と続くなと思う

(だって、手を繋ぐのも抱きしめるのもあっても…それ以上は何もないからね)

それを桃井ちゃんに言ったら、可愛い形相で(本人は怒ってるつもり)お小言を貰いまくった

「紗英!!」

『っ!!?』

我に返るとすぐ近くに黄瀬の顔
ビックリしすぎて椅子から転げ落ちそうになった
止めてくれ。心臓止まる
ただでさえ、最近この顔が近くにいる事に慣れ始めたばっかなのに

「ぼーっとしてたけど大丈夫っすか?もしかしてつまんない…?」

『え、違う違う!!ちょっと考え事』

しょぼくれた顔をし始めたので、慌てて首を横に振る
全力で否定した事に安堵したと同時に頭とれるっすよと笑った
余計なお世話ですよ

『今、休憩?』

「そ。で、どうだったっすか?」

『どうも何も…モデル業の良し悪しは分からないし…ただ』

「ただ?」

すっと正面を向いて、黄瀬の顔を見る
こうして真正面から見るのはあまりない
私が彼を直視できないせいもあった

『凄く…カッコいいと思った』

「……!!//」

私の言葉に、一気に黄瀬の顔の体温が上昇
あ、この顔は可愛い
いつもは彼の後ろに後光が差してあるように見えて直視できないのに
今は、ずっと見ていられる
カッコイイ彼は直視できなくて、可愛い彼は見れるのだろうか
我ながらひねくれているなと思う

「……紗英、それわざと?」

『ん?』

「もーっ…俺ばっかりドキドキしっぱなし…」

はぁぁと深いため息を吐いて黄瀬はしゃがみこむ
その姿も可愛いと思った
俺ばっかり…か

『私なんかいつもドキドキしっぱなしなのに…』

「え」

『あれ』

今…声に出しました…?
恐る恐る彼を伺えば驚いたように私を見ている
あ、声に出しましたね
死亡フラグじゃないですか

「〜っ…紗英ー!!」

『わっ!?』

ふるふると震えていたかと思えば、大型犬の様に抱き着いて来た
突然の事で理解が追いつかなかったが、ここは、紛れもなく仕事現場で
もちろんスタッフんさんも大勢いるわけで

『ちょっ…黄瀬、なにやって…!』

「だって嬉しいんすもん!」

『あーもうっ!!皆見てるの…!それに、他のモデルに見られたら……っ』

そこまでいって、ふに。と唇に黄瀬の指先が当たる
まるで、黙ってと言っているようだった

「二言目にはいつもそれっすね」

『だって…』

「俺は、こんなに可愛い彼女がいるんだーって世間に見せびらかしたいぐらいのなのに…紗英はそれも許してくれないし」

『…反感買ったら困るのは黄瀬でしょう…それに、私、黄瀬に見合うような女の子じゃないし』

「あら、そんなことないわよ」

そう言ったのは黄瀬ではなく、スタイリストさんだった
そういえば私も忘れ去ってしまったけど、ここスタジオでした
そう言って口を挟んだスタイリストさんは、無理やり私を連れ出して衣装を見繕い、化粧を施していた
あっというまの出来事で私は呆然としてしまった
そして、スタジオに戻るとわっと歓声が上がる

(う…似合ってないから驚いてるのかな)

そう思っていると黄瀬が駆け寄ってきて、私の好きな笑顔でこういった

「最高にかわいいっす!!」

その笑顔にノックアウトしかけたのはいうまでもない
でも、彼の隣に立つ自信が少し付いた…きがした
そして何を思ったのか、黄瀬は私の手を引き、監督らしき人の元へと連れてかれた

「紗英とツーショットで撮りたいっす!!」

『は…!!?』

何を言い出すんだ彼は
っていう顔をしてると自分でも思う
それほどまでに黄瀬が言った言葉は、私にとって衝撃的な発言だった
しかもそれを二言で了承してしまう監督も監督だ
あれよあれよと言う間に私は、カメラの前に黄瀬と立たされた
しかも運がいいのか悪いのか、黄瀬と共演するはずだったモデルが怪我をしたとか何とかでこれなくなってしまった
こうなるともう後戻りは出来なかった

(本当に、一生その女の人と監督恨んでやろうかな)

「表情硬いっすよー」

『黄瀬のせいですよ』

「えーっ俺は、紗英と記念にツーショット取れればいいかなーぐらいだったんすよ?」

『私がモデルなんて勤まる訳ないし…なにより、黄瀬の隣に立てるわけないじゃない…』

そういうと黄瀬はきょとんとした後、へにゃりと笑った
それは何処か呆れていた

「紗英は自分を下へ下へ下げるっすね…まあそれが美徳でもあるんすけど…俺としては自信持ってほしいって言うか」

『人気モデルでキセキの世代、海常高校エースの隣に立てるという自信がある人はよっぽど馬鹿だと思うの。私は』

黄瀬はうーんと唸った後、パンッと手を叩いた
イイこと思いついたという顔をしていた

「じゃあ今日の撮影で、紗英が俺の隣に立てるふさわしい女の子だってこと、証明するっすよ!」

『えぇ…』

「そういうわけだからいいもの撮ってね?」

黄瀬はニコリとカメラマンにそう言う
勿論カメラマンは笑顔で了承

『なんでこんな事になったんだか…』

私の呟きはあっけなく喧騒にかき消された





翌週
あの事件が発生した雑誌の発売日
クラスでは勿論その話題で大盛り上がりだった
何人かの女の子は雑誌と私を見て、ひそひそと何かを話していたけど素知らぬ顔
目の前の友達もその雑誌を読んでいた

「はー…これが紗英か…」

『どーせブッサイクですよー』

「あんた、これ見てないの?」

『見るわけないじゃん』

そういうと友達はため息を吐いて、ハイ、と雑誌を差し出す
渋々と雑誌を覗き込む
一番最初に目に入ったのは

"人気モデル黄瀬涼太、彼女とツーショットで今までで一番の笑顔"

『え』

その見だしの下には、笑顔の黄瀬と私
撮影時、黄瀬の話を聞いていつも通りにしていていいと言われた時の写真だ
雑誌で良く見る笑顔とは違って、この写真の笑顔は私が好きだって言う時の笑顔によく似ていた
その下にはスタッフのコメントが書いてあった

"今まで見せた事のない笑顔でした。その相手を愛しむような笑顔は、カメラ越しでも十分伝わってきました。大好きでたまらない!って全身から溢れ出ていて、思わず笑顔になってしまいました"

"彼女さんも黄瀬君と話している時が一番幸せそうでした。彼女さんを緊張させない様にずっと笑わせてくれている黄瀬君の気遣いにも感謝ですね。彼のあんなところ初めて見ましたから(笑)"

スタッフの目には、そう映っていたらしい
実際、この雑誌一面に取り上げられている写真はすべて幸せそうだと思った
自分の事なのに、他人事のようにそう捉えてしまう
なにより私は、彼の前でこんな顔をするのだなと新しい発見をしていた

「このあんた、凄く幸せそうだよね。なんだかんだ言って黄瀬くん大好きなんじゃん」

『っ…』

そんなわけない
なんて、いつものように言えないのが悔しい
だってそれを裏付ける様に、この写真の私は表情全てが愛で溢れている
そんな時、廊下の方がにわかに騒がしくなり、数秒後には教室の扉が勢いよく開いた

「紗英ー!!みたっすかー!?」


「ほら、彼氏のお出ましだよ」

『茶化さないでっ…!!//』

黄瀬は教室に入って来るなり、一直線に私の元へ
見上げられなくて下を向いていると、突然耳元から声が

「ね、これでも俺の隣に立てないって言える?」

『なっ…!?///』

「もしこれで分からないって言うなら…その体に教えてあげようか」

『ちょ、変な事言わないでよ…!!///』

バッと顔を上げて、黄瀬の顔を見ればこの雑誌と同じ嬉しそうな笑顔
また黄瀬に惚れ直してしまった

『馬鹿……でも、好きだよ涼太』

「へっ」

『じゃ、移動教室だから』

そそくさと出て行けば、後ろから涼太の私の名前を呼ぶ声
今、振り返れば涼太が慌てて追いかけてくる姿が見れるだろうか
それとも真っ赤になって立ち尽くす涼太が見れるだろうか



逃げる私が捕まるまで、後…?





END

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