夢の館

□かっこいいのは
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『なんでわかんないの!?』
「分かる訳ねぇだろ!つか、分かりたくもねえわ!!轢くぞ!!」
『はぁ!?自分の彼女様にそんな口きいて言い訳!!?切り刻むわよ!!』
「てめぇも彼氏に向かっていい口効くじゃねえか!!」

暖かなお昼時
丁度いい暖かさの陽射しが入り込む中庭には怒号が飛び交う
その声に驚き、小鳥たちは寄ってこない
もちろん、生徒たちも

今日も今日とて、この秀徳高校バスケ部3年の宮地清志とバスケ部マネージャーの早咲紗英は顔を突き合わせ口げんかをしている
しかし何を疑おう、この二人は交際をしている世間で言うカップルなのだ
いやいや嘘ではなく。嘘のように聞こえるが嘘ではないのだ

ではまず彼らの馴れ初めから話してしまいましょう
バスケ部マネージャーの紗英は高校1年のころから宮地に片思いをしていた
しかし告白など恐れ多い。そして何より自分の趣味は彼には合わないと分かっていたのだ
皆さまご存じのとおり、宮地は大のアイドルファン。つまり世に言うドルオタである
彼はアニオタをあまり快く思ってない所があり、彼女はその事を気にして告白する事は叶わなかったのだ
ここまで話せば分かるだろうが紗英はアニオタである
詳しく言えば恋愛シュミレーションゲームをこよなく愛すると言った方がイイだろう。ちなみに乙女ゲもギャルゲもどちらもいけるそうだ
そんな彼女の恋に転機が訪れるのは高校2年

「なぁ」
『攻略で忙しいなう』
「マネ仕事しろよ。轢くぞ」

居残り練とその付添い
いつの間にか宮地の自主練を付き合うのは紗英の役目となっていた

『今良い所なの。はぁ…宮地くん…奥手だと思ってたのに、意外とやるわ…』
「あ?宮地?」
『はぁぁぁまさか月子ちゃんの顔が近いからって理由で唇奪うなんて…やられたわー…萌え死ぬ』
「あー…ゲームか」

いつもはなにか嫌味が飛んでくるはずなのに今日は無し
不思議に思った紗英はゲーム画面から顔を移し、宮地を見る
彼は居心地が悪そうに、手を首に回してそわそわとしていた

『何?怪我でもした?』
「ちげぇ」
『ふーん』

対して気にも留めなかった彼女が再びゲーム画面に視線を戻した時、爆弾は投下される

「好きだ」
『は?』
「俺と、付き合ってくれ」
『…………』

耳を疑う
ハトが豆鉄砲をくらう
という表現が適切だろうぐらいに彼女は狼狽していた
どのくらいかといえば、今彼女が攻略を進めていたゲーム機を落とし、セーブデータを失ったぐらいには

「って、言っただけだから気にすんな。返事は、いい」

そう言って宮地はまた自主練に戻る
そのために急激に赤くなる紗英の顔は見る事が叶わなかった

(え、宮地が私を…?!アニオタ好きじゃないって言ってたのに…!?は!?夢…あ、そっかこれ夢か!!)

ついには現実逃避をする始末だ
だが頬を抓れば痛い。紛れもない現実である
それがまた彼女を赤く染める

『っ…』
「…早咲?」

いつまでたっても何も言わない紗英を不思議に思い、宮地はもう一度彼女の方を見る
その瞳に映ったのは、真っ赤に染まった想い人の顔
慌てて紗英は顔を覆うが、すでに遅い

「なぁ」
『………』
「脈ありって思っていいんだな?」
『ぐ……』
「早咲……いや紗英」
『〜っ…あーそうだよ!!好きだよ、大好きだよ!!悪いかばかっ!!』

そんなこんなで交際が始まったのだ
しかし、甘い雰囲気なんて月一といっても良いほど皆無
殆んどがこの言い争いである
紗英としても、本当に彼は私の事が好きなのだろうか。という疑問が頭の中をぐるぐるとついて来る
現在の言い争いをしていてもそうだ
これは果たしてカップルと言えるのか?

『蘭丸のかっこよさがわからないなんてどうかしてるわ』
「知るかっての。埋めんぞゴラ」
『はぁ!?それ、あんたの大好きなみゆみゆの可愛さを知るかって言われてるのと同じよ!?』
「二次元と三次元を一緒にすんな!!」

お互い減らず口のせいで中々止まらない口げんか
一応、今日は付き合って一年目
紗英は折角だからとプレゼントまで用意したというのに渡せず仕舞い
そんな事もあってか、今日の彼女の思考回路はマイナスへと落ちて行く

「つーかキャラばっかかっこいいつってるけど、実の彼氏である俺にはなにもいわねえじゃねえか。どーいう事ですか彼女サマ?」
『それ、は…』

紗英は言葉に詰まる

(痛い所突かれたなぁ…)

彼女が彼を誉めないのは照れ隠しが大半
けど、彼はそんな事しるよしもない
ふとした瞬間にかっこいいと思って、惚れ直すことも彼は知らない

『興味が、ないから』

出た言葉は棘がある
流石にこれは不味いと我に返る
いつも失敗して、どんどん心が離れていく
やっぱり振ればよかったと後悔してしまう
友達の方が楽だった

「……そーかよ」

言い争いはこれでおしまいというように宮地は背を向ける
けれど今の紗英には捨てられたように見えて

『…あ……や、やだっ…!!』

焦った紗英はその背に飛びつく
彼が何か言う前に、彼女は畳み掛ける様に言葉を重ねる

『嘘、嘘だよ。ほんとは好きで、大好きで、いつもいつも何かあるたびにかっこいいって惚れ直して…言えないのは、興味が無いからじゃないのっ…本当にみや…清志がっ…私の事好きなのか、とかっ…思って…自信なくて…』

いつの間にか自然にあふれていた涙を拭わずに、全てを吐き出す
だからお願い。見捨てないでと言うように宮地の背に縋りつく
対する宮地は、いきなりの紗英の本音に戸惑い、同時に嬉しくもあった
縋りつく腕を掴み、自分と向き合うような形にし直す
そのまま宮地は彼女の唇を奪う
付き合ってからそう何度もしていないキス。両の手で足りるぐらいしかしていないかもしれないと頭の片隅で考える
そっと唇を離せば、間近に見える紗英の顔

「正直、俺は好かれてないと思ってた」
『ご、ごめ…』
「好きとか惚れ直すとか、嬉しいこと言ってくれた割に、最後の方は消極的だな?」
『え…』
「本当に私の事が好きなのか。んなの好きに決まってんだよ焼くぞ。つか、逆に問いたいぐらいだ」
『っ、私は…高1からずっと、宮地しかみてなかったし…好きな人が出来るのも、初めてだし…』

もごもごと頬を染めながら、視線を外しながらもちゃんと言葉にする彼女の姿に、少なくともクラッと来てしまった宮地
抑えられずに、もう一度キスをする

『……キャラがカッコいいのは当たり前だけど……清志が一番、カッコイイと思うから…それだけは覚えといて…?』
「お前も覚えとけよ?」
『…?』

ニヤリと笑って、宮地は

「今夜、俺に抱かれるってことをな」

(そんな顔をもかっこいいなんて思う私は、君が思ってるよりずっと溺愛してる)









『ていうか、えっ!?』

「じゃ、教室もどんぞ」

『あのっ、今のっ…!?』

「あぁ?抱くって言葉に他の意味があるか?それに今日で一年目だろ?いい加減、お前が欲しい」

『えぇぇぇぇ…』

「存分に可愛がってやるから、心配すんな」

『そうじゃなくてっ!!』

プレゼントは明日渡すことになりそうです




END

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