桜と誠と鬼と鷹

□第二章
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俺達が捕まってから、一週間がたった
といってもなんら変わりは無く、千鶴は部屋に引きこもり状態のまま
俺はというと、十番組組長補佐として仕事をこなしていた
といっても、左之と会うことは無く、会うとすれば夜の巡察が左之達の組の時ぐらいなものだ
実質、夕餉の時に会ってはいるのだが俺の席は総司の隣――強制的に座らされた――なので会話という会話はしていない
それでも千鶴には悪いが、一人で外出してもなんにも怒られないほど待遇は良かった
千鶴も千鶴で、事務仕事をしているので困ってはいないが、日に日に元気がなくなって行くのは目に見えていた
そんな千鶴を励ますため、俺がやり始めた習慣
それは未来の話をする事
この時代の事には触れず、俺達がどのような場所で過ごしているのかを話している
その時の千鶴は目をキラキラさせてとても楽しそうな顔をしてくれる
それが嬉しくて俺も嬉々と話をしている


『やっぱり、女の子には笑顔でいて貰いたいもんな…』


俺は今、街に出て千鶴へのプレゼントを買いに来ていた
といっても綺麗な装飾品ではなく、食べ物を買いに来ている
装飾品は、千鶴が女の子に戻ってから買ってあげようと思っているし、第一今渡した所で似合わないからと遠慮してしまうのがオチだ
そのため、なにか美味しい物を買って行こうと思い街へと繰り出した
今日は朝早く起きれたので絶好の機会だと思ったのもあるのだが


『にしても…空気が淀みすぎじゃねえか?』


いくらここの治安が悪くても、これは淀みすぎだ
それか俺が今まで住んでいた場所が平和すぎるからなのだろうか
確かに、この江戸時代の暮らしには多少戸惑ったが、それも少しだけだ。なにせ自分の家が他と違って古いため、少しずれてるのだ
それに俺が住んでいる都道府県は京都府で馴染みはある…が、住んでるのは大きな一つの村で山奥にあるから街には出ない
それでも街に出て迷う事は夜の巡察でもなかった
それより問題なのは…と自分の左越しにある太刀と脇差の柄を撫でた
これは四日目の朝、土方に叩き起こされて貰ったものだ
なんでも夜店に行って脅しながらも造ってもらったとか
柄の色は両方とも江戸紫色で、長さは一般的な90pほどと45pほどの物だ
幸い、自分の身長が170代なので格好悪くは見えていないがなにせ重い
一応体つきは女である俺にとってはきついのだが、これも慣れるしかないようだ


『振り回すのも一苦労だし……ん?』


ふと、甘い匂いがしてなにかと思い、その場所に行くとそこは団子屋だった
中に入ると、色々な種類の団子が置いてあった
中でも目を引かれたのは


『桜…?』


餡の中に塩漬けされた桜の花びらが入っていてほんのりと桃色をしていた
今はまだ一月なので季節外れではあるが、目を引かれたのは確かだ
そんな時、店員のおばちゃんが声をかけてきた


「あら、お客さん良い所に目を付けはりますなぁ」


『というと?』


「それはうちの店の季節限定品なんよ。昨年の桜の塩漬けがあまっとったからなぁ、早く出したんぇ」


『へぇ…』


口にはしなかったがあまり売れてないのだろう
季節がまだ冬な事もあって数は有り余ってる
でも、これが良いと思った
この物語を知っていると、余計に
俺はおばちゃんにいくらか聞いた。そうすると他の団子屋より安い価格だったので買うことにした
所持金は、向こうの財布の中に入っていた金がそのままここの通貨に変わっていたので問題は無い
だって、自給なしで働いてるしね…
桜の団子を10本包んでもらい、受け取った
朝早い事もあってまだ出来たてのようだった


『ありがと』


「またいつでも来てな」


『おう、今度は友達連れて来るわ』


目指すは千鶴がいる、新選組の屯所へと






『ちーづるー!!』


「わっ!!」


部屋に入るなり、俺は千鶴に飛びつく
やっぱりと言っていい反応だが、千鶴は驚いた声を出した
それでも飛びついて来るのは俺しかいないので、振り返るなり、花が咲くような笑顔で迎えてくれた
うん、可愛いな、おい←


「おかえり蛍」


『たっだいま。団子買って来たんだーしかも珍しい奴』


そういって、包みを開く
そうするとふわっと桜の香りが部屋に広がる
千鶴は団子を見て嬉しそうに笑った


「わぁ、おいしそう…これって桜?」


『そう、季節外れだけどさ、千鶴好きかなーって』


はい、と千鶴に一本渡し、俺も一本取り出して齧る
齧るとその団子の美味しさに驚いた
甘くもなく、そして味が薄いわけでもない丁度いい甘さだった
それにちゃんと桜の味がして、申し分なかった


『うまい…!!』


「ほんと、おいしい…!」


俺と同じことを思ったのか、凄い嬉しそうだった
そんな和んだ時間の中カカッと爪が床を叩く音がした
こんな音を出すのはイグしかいない
と、途中でその音は止まり、その代わりにぽんっという軽い爆発音がした


『あ、あいつまた…』


「??」


ため息を吐く俺に対し、千鶴は何のことか気づいて無い様だ
開け放ったままの障子から出てきたのは、茶色がかった黒髪の青年
服は俺と同じターコイズ色の着流しだった
俺としては馴染みのある顔で、千鶴としてはこれで二回目である


「主、帰ってたんなら声かけろ」


『悪かった…が、その姿になるの許可した覚えはないぞ。降矢』


ずかずかと入って来たのは紛れもないイグである
こいつが人間になれるのは理由は単純で、式神だから
といっても、召喚したらまた戻すことは出来ず主が死ぬまでずっと生き続けるのが特徴だ
俺達鷹族は10歳になるとかならず式神を召喚するのが決まりで、ただ少し…いや、かなりなデメリットがあって血が濃ければ濃いほど式神たちは主に対し過保護になるという
そのため、イグ…もとい鷹杉降矢は人間になると俺以外に凄い毒舌になる
だから、人間の姿にするのは嫌なんだ
しかも男のみ


『お願いだから千鶴以外の前でその姿はするなよ…マジで』


「わかってる」


降矢は、俺の隣に座り、団子を普通に取って食った
本当に分かってんのか…?

ふと、みると千鶴の座っている隣には小さな包みがあった
あれは金平糖だろうか


(そういえば、部屋で大人しくするを選ぶと近藤さんに金平糖貰うんだっけ)


そうなると進み道は土方ルートって事になるのかと考えてみる
薄桜鬼のなかで一番好きなのは土方で、好きなCPが土千だったので俺的には嬉しい
なんて考えながら、ほのぼのとした時間を過ごした





(えへへ…)

(千鶴がそんなに喜んでくれるなら、また買ってこようか?)

(え、良いの?)

(おう。季節によって違うらしいし。夏は桃、秋は焼き芋、冬は蜜柑なんだと)

(へぇ…おいしそうだね)




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