桜と誠と鬼と鷹

□第三章
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池田屋前路地裏

俺たちは池田屋に着いても影に隠れ、動きを見張っているだけだった
それは会津藩の援軍が来ないためだ
流石に新選組の隊士たちだけではいくら幹部がいようと危険なのは間違いないのだ
だが、いくらなんでも来るのが遅すぎる
ゲームやアニメではそういうのが分からなかったが、こうやって世界観に入り込むとどれだけ辛いのか身に染みて分かる
兎に角長時間待たされるのは辛い。
さらに俺は今、目隠しをして奥の方で待機しているので余計辛い
だがしかし、取り外すことは不可能だ
俺の今の目は赤色。目隠しを取り外してしまったら羅刹を知らない平隊士でも恐がられるし、幹部の奴らも俺を警戒してしまう


(うぅ〜そろそろ周りの感覚がわかんなくなってきた…)


ちょっと外して目を慣らそうかと思い目隠しに手をかけた時近藤さんが動いた気配がした
どうやらこのまま新選組だけで突撃するらしい


(やっとか…皆が突撃した後、目隠しとって入るか…)


と、突撃用意をしていると今まで俺の肩に止まったまま一言も話さなかったイグが口を開いた


《主、くれぐれも鷹族のことがバレぬ様にな。説明が面倒だ》


『ヘイヘイ、気を付けます…ま、バレそうだけどな』


《主、貴様は自分が一族一血が濃いのを忘れた訳ではないだろうな?彼奴らを疑っている訳ではないが、もし敵側にお前の能力が伝わったら、何をしでかすか分からないのだぞ!?》


『わーってるよ。そこまで馬鹿じゃない。けどいつかは話すことになるだろ?特に一年後の俺の誕生日の日は』


《………それもそうか…》


イグはそのままなにも喋らなくなった
何かを考えているようだ。こういう時のこいつはなにしでかすかわかったもんじゃない
俺は小声でイグに釘を刺した
その時、今まで一言も話さなかった近藤さんが俺に向かって喋りかけた


「鷹杉君、念のためその鷹を雪村君の所に行かせてやってくれないか?」


『うっす』


そう言われて俺はイグを空高く飛ばす
それを見届けた近藤さんは池田屋に踏み入った


「会津中将お預かり浪士隊、新選組。詮議のため宿内を改める!」


近藤さんは高らかに宣言し、その後に俺らも続く
中からは悲鳴が聞こえた


「わざわざ大声で討ち入りを知らせちゃうとかすごく近藤さんらしいよね」


総司は楽しそうにいいながら中に入って行く


「いいんじゃねえの?……正々堂々名乗りを上げる。それが討ち入りの定石ってもんだ」


「自分をわざわざ不利な状況に追い込むのが新八っつぁんのいう定石?」


新八も平助もその後に続き、隊士たちも続く
俺はまだ外にいる
皆が入ってから、目隠しを取り、中にはいる予定だ


「御用改めである!手向かいすれば、容赦なく斬り捨てる!」


近藤さんのその言葉を合図に俺は閃光の様な速さで中に入る
基本刀を使いたくない俺は種族特有の毒爪で敵をなぎ倒して行く
そのまま二階に上がろうとするが、違う場所から激しい打撃音が聞こえた
これは多分天霧が平助の額を殴ったせいだ
そっちも気になったが、そうも言ってられず急いで総司がいる場所に向かう
そっちに向かう理由は風間と戦いたいってだけ…と言ったらまるで戦闘狂の様だ
まあ、無理な話だが総司に労咳を負わせたくない。というのもある
だが………


「がはっ!?」


その声と共に誰かが転がる音がする
俺はそれを聞き、その場所の襖を開け放ち相手が反応するよりも早く、爪を心臓めがけて振るった
だが、相手は人間ではない鬼。反射神経は人並み以上で着物を掠っただけだった


『チッ……!!』


「貴様、何者だ?」


『てめえなんぞに言うかよ、バーカ』


舌をべっと出し、刀を抜く
こいつ相手じゃ、防ぐものがないと危険だと判断したからだ
そのまま隙を見せないままに突進してゆく
風間はその俺の速さに驚くも、受け答える気満々だった


『よっくもうちの総司に手ェ出してくれたな!!この借りは大きいぜ!!』


「ふん。人間である貴様らに何が出来る」


風間は鼻で俺らを嘲笑う
それにイラッときた俺は総司がいるにもかかわらず、左手を前に出し、風間を風の力で吹き飛ばした


『吹き飛べェェェェ!!!!』


左手から突風と言っていいほどの風が巻き起こりそのまま風間は外に出される
まだ完全では無いが、完全になると竜巻のような風も巻き起こすことが可能になる
おっと、少し話しすぎたね
俺は総司を置いて、風間が飛ばされた庭へと出る
彼は俺の姿をここでようやく捕らえたらしい


「貴様…まがい者か」


『あいつらと同じにされると困るんだよなぁ?鬼さんよぉ?』


「何故それを貴様が知っている」


『さぁて何ででしょうねぇ?』


俺は嗤って誤魔化し、刀を振るった
女の俺にとって唯一救いなのはこの血の能力だ
これがなければ俺はきっと即死していたに違いない
上手く風を利用し、速度を変えながら素早く切り替えをしていく
だが、甘かった


『グフッ!!?』


突然風間が姿を消し、しまったと思った頃にはすでに遅く、あいつの剣が深々と俺の腹を貫いた
痛いという感覚よりも熱いと感じてしまうほどだった
だが、俺は"人間ではない"身のため傷は治ってゆく
風間が油断した隙を狙い、俺も風間の腹へと毒爪を突き刺す


「グッ!!」


『はっ!!これでお会いこだ』


俺は風間を蹴り飛ばし自分の腹とこいつの腹に突き刺さっていた剣を抜いた


(あー…血出しすぎたな…頭クラクラする…)


幸い、今は周りに誰もいず、技を使うのには持って来いだ
俺は風間と距離を取り、刀を地面に突き刺してから右手を天に掲げた


『あらゆる風の神々よ。鷹牙の末裔である我に力を貸せ…我の目の前に立ちはだかる悪しきものたちを吹き飛ばす竜巻を起こせ!!』


そうして俺の右手に風が集まり、暴発する程にデカくなったところで右手を振り下ろす
……………はずだった


『!!?』


「天霧…」


俺を止めたのは天霧の手だった
そのせいで俺が集めた風たちは霧散して逃げて行った
天霧は睨む俺を平然と見ながら、風間に静かな声音で言い放った


「風間、もう良いでしょう。戦も終わったようですし」


「………あぁ、そうだな」


風間は剣を鞘に収めて俺を見た
同じ赤い瞳が交差する


「貴様、名前は」


『鷹杉…鷹杉蛍だ。晋作の方じゃねえから間違えんなよ』


「そうか。…一つ聞く。貴様は羅刹か?」


『違う。あんな奴らと、一緒にされちゃ困る』


俺が否定するとあいつは一つ頷き、暗闇の中へと消え去った
天霧のいう通り喧騒は静まり静寂が訪れていた
戦は終わり、新選組が勝ったようだ
俺は部屋に置き去りにしていた総司の事を思い出し、二階へ飛び乗った
襖を開けると総司は壁に横たわって身体を休めていた
俺に気が付くと驚いたような、泣きそうな顔になり、俺の元へと駆け寄ってきた


「蛍、大丈夫なの?怪我は!?」


『大丈夫だから心配すんな。って、俺の心配より自分の心配しろよ…』


俺は総司をギュッと抱きしめるような形で骨や内臓に異常が無いか確認をしてみた
本人は何が何だか分かってないようだったが、俺のしたいことが分かったのか大人しくしていた


『身体に異常はないようだな。胸部を思いっ切り蹴られたから今後何が起こるかわかんねえがな』


「その時はその時でしょ?……それより蛍」


『んー?』


「君は、一体……!?」


何者なのと言われる前に人刺し指で唇を塞ぐ
俺は取り敢えずまた後でと誤魔化した
不服そうな総司を無視して、担ぎ上げると、そのまま部屋を出る


「ちょっと蛍!!?自分で歩けるって…‼」


『怪我人が無理すんなー』


「だからって横抱きは可笑しいでしょ!?」


『はいはい、黙ってろ』


ギャーギャー煩い総司を無視して、俺は外に出る
外にはもう皆集まっていた
その中には平助が横たわっていた。こっちも重症をおったようで意識は無い
土方はお偉いさん方と揉めていたのがひと段落ついていたようで、千鶴の隣にいた


『お疲れ様。どうだった?』


「……………………」


『?土方?』


「蛍、そいつ降ろしてやれ…」



「珍しいこともあんだな。まさか総司が抱えられてるなんてな」


「だな。こりゃ、平助が起きた時に良い酒の肴になりそうだ」


その二人の言葉で土方が何を言いたいのかを理解した
本音をいうと降ろしたくないんだけど、これ以上このままで総司を怒らすのも何なので、降ろしてあげる事にした
総司はすっかり不貞腐れてしまったようだ
ふと千鶴を見てイグがいない事に気付く
それと同時に足音がした


『…………………まさか…』


嫌な予感がし、足音のする方向へ振り向くと見慣れたこげ茶の髪が見えた


『うげっ』


「蛍、どうかしたか?」


『い、いや?ちょっと、そこらへん見回ってくるわ』


「あ、おい!!」


土方の制止も聞かず、俺はイグであろう足音の方向へ向かって行った
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