桜と誠と鬼と鷹

□第四章
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池田屋事件から日がたったある日
俺は珍しく昼ごろに起きていた
その時間は丁度十番組の巡察時間だったようなので組長補佐として着いて行くことになった
今日は千鶴も一緒のようだ
あの時から、千鶴の働きが認められて、外出しても良い日が増えて行った
段々新選組の奴らが絆されてる証拠だな…
俺としても千鶴と一緒に出掛けられるのは嬉しい
そんな時、千鶴は左之に問いかけた


「あの、原田さん。新選組は京の治安を守るために、毎日、昼も夜も町を巡回しているんですよね?」


『夜の方が暗いから怖いけどねー』


俺は適当に相槌を打ちながら話を聞いていた


「それで……、具体的には、どういう事をしているんですか?」


千鶴がこんな質問を出来るのはきっと三馬鹿だけだと思う
何しろ新選組には気さくなやつより怖い奴の方が多い
そのため左之のような奴は希少な存在なんだろう
本人は笑いながら気軽に答える


「ま、ピンからキリまで大小様々だな。辻斬りや追い剥ぎはもちろん、食い逃げも捕まえるし喧嘩も止める」


「食い逃げ…」


『あとー…商家を脅して金を奪おうとする奴らとかも、取り締まってるっけかな?』


千鶴は意外そうな顔をして俺らをみた
そりゃまあ思ってたのより地味な仕事が多いわけだし
そうするとあの池田屋事件のような捕り物はめったにない大捕り物で、活躍して名を上げるには持って来いなのだ
そんな時千鶴は何かに気付いてその名をよんだ


「永倉さん!」


そう言えば新八も同じ巡察時間だったか


「よう、千鶴ちゃん!親父さんの情報、なんか手に入ったか?」


その問いに千鶴は首を振る
千鶴が暗い顔をすると、新八は笑って励ました
その後左之と新八は近状報告をし始めた
その中で上がったのが町人たちが引っ越しの準備を行っていたりする事
なんでも長州の奴らがここにいるらしく、町人たちは戦火に巻き込まれない様に避難してるという訳だ


「池田屋の件で長州を怒らせちまったからな。仲間から犠牲が出れば、黙ってられないだろ?」


とは言っても新選組も新選組で町の奴らから良いように思われていない。芹沢がいたころの壬生浪士隊はとても荒れていたのにも原因があるのだろう
だがそんなことを笑い飛ばしたのは新八だった


「京の人間は、幕府嫌いだから仕方ねぇって」


「どちらにせよ、俺達は俺達の仕事をする。長州の連中が京に来ても追い返すだけさ」


『ま、いざという時は吹っ飛ばすしな』


「にしても…対長州か……。もしかすると近いうちに、上から出動命令が出るかも知れねぇな」


上、つまり会津藩から命令が来るという事
そうなるとまた捕り物が出来るという訳だ
そんな時左之はお前も出てみるかと千鶴を誘った
千鶴は迷いに迷った末、頷いた


「……ちょっとだけ、参加してみたいです」








そして数日後
俺と千鶴は幹部全員のお茶を出しに広間に向かった
こちらに来てから最近俺は普通の人間と同じ時間帯に起きる事が多くなった
まあ、小さい頃はいつも剣の稽古でよく早朝に起こされてはいたが
千鶴はすっと座り、一言断ってから、中に入る
この仕草はどう見ても男と思えない動作なのだが、千鶴の性分なので黙っておく


「すまねぇなあ、千鶴ちゃん。そうやってると、まるで小姓みたいだな」


千鶴は喜んでいいのか悪いのか分からない顔をして、皆にお茶を運んで行った
俺は残りのお茶を無造作に他の奴らに渡していった


「あっぶねえな!!やけどするだろ!!?」


『平助そう思うなら、茶あげねぇえぞ』


「あーはいはい悪かったって…たっく千鶴とは大違いだな…」


『生憎俺は女じゃないんでな』


少し平助の頭を叩こうとした時、丁度戸が開き、近藤さんが朗々とした声を張り上げた


「会津藩から正式な要請が下った。只今より、我ら新選組は総員出陣の準備を開始する!」


その言葉に皆歓喜の声を上げた
近藤さんは我々を認めてくれたとしみじみ感動していた
そんな局長とは裏腹に副長は渋い顔で準備をせかした
長州側はもう、攻める準備が整っているようだ


「ったく……。てめえらの尻に火がついてから、俺らを召喚しても後手だろうがよ」


『土方、気持ちは分かるけどさ…今愚痴を零してもなんも始まらねえだろ?それに英雄は後から来るのだ醍醐味だ』


俺はそう言って笑った
ま、その英雄も果敢に挑んで負けたりしたら恰好がつかねえけどな

それと総司と平助は屯所待機のようだ
まあ二人とも外傷はねえ………んだけど(そう言う事にしておく)、新選組のオカンが過保護だからしかたねえ
それに総司はそろそろ労咳が発病しても可笑しくは無い


「そういえば、千鶴ちゃん。もし新選組が出陣する事になったら、一緒に参加したいとか言ってたよな?」


「……え?」


突然話を振られた千鶴はきょとんとした
くそ、可愛いな←
千鶴が何かを言う前に近藤さんは笑って承諾してくれた
それからあれよあれよという間に千鶴の出動が決まった
反対もいたのだけれど、近藤さんが全責任をもつと言って皆折れたのだ



そして俺らは大急ぎで伏見奉行へと向かった
だが、そこの役人は要請という通達は届いてないといいだしたのだ
まあこんな慌ただしい中、届くのが遅くなるのは当たり前だが、流石におかしい
今は一刻の猶予を争う時なのに、だ
近藤さんは正式な署名もあると言ったのだが


「取り次ごうとも回答は同じだ。さあ、帰れ!壬生狼如きに用は無いわ!」


その言葉に俺の中の血が一気に湧きあがった
ここで争っても意味がないと分かってはいるのだが、この苛立ちは隠せない
なんとか心を鎮めようと試みるが何分血の気が多いタチなのだ
当分下がらない。その殺気に気付いた一は俺の肩に手を置いた


「蛍、今争っても意味は無いぞ。冷静になれ」


『分かってんだよ、んなこと。でもなそれでも冷静で居られねぇんだよ…仲間が貶されればな』


「俺も同じだ。だが、今はそんな事をしている場合じゃない…分かってくれ」


『あぁ…』


俺はなんとか正気を戻した
その後一の提案で、会津藩と合流する事になった
会津藩邸に向かって、連絡不備について尋ね、どのように動けばいいのか聞いた
その結果が九条河原だった
だが、そこの藩士も連絡は来ていないとの事だ
流石に二回目の問答に俺はつっかかった


『あ゛ぁ!?てめえらんとこの藩邸がここに行けっつったんだよ!それともなにか?てめぇらの上司が嘘をついてるとでも思ってやがんのか?そんぐらい考えやがれってんだ!!だいたいなぁ、俺らはて・め・え・ら!!の上司!!に正式に要請預かってんだ。たとえ連絡来ようがこまいが受け入れるのが筋ってもんだろぉが、あぁ!?』


ノンブレスで全て言った俺にここにいる藩士全員が黙った
対する新選組の奴らは呆然としてる奴もいればよくやったという顔をしてる奴もいた
なかには呆れた奴もいる。ま、当然か
そこに近藤さんが大らかな笑顔で口を開いた


「陣営の責任者と話がしたい。……上に取り次いで頂けますかな?」




そして俺らは九条河原待機を許された
相談から帰って来た近藤さん達は疲れた顔をしていた
どうやらここは主戦力ではなく予備兵の待機場所のようだ
主戦力は蛤御門の方に居るそうだ。つまり俺らも予備軍って事になる
とにかく待つしかない俺達は、気が抜けない中、出る準備をしていた
そんな中千鶴が目をこすりながら眠気を覚まそうとしてるのが見えた
俺は近づき、千鶴に少し眠る様にいった


「ううん。大丈夫だよ…皆さんも寝ないで頑張ってるのに私だけなんてできっこないもの」


『でも、今のうちに寝といた方が良いよ。それに貴方は女の子なんだからね?』


見てるユーザーの皆様
誰コレとか思わないでな?俺だからな?
優しい口調で言おうとしたら女に戻っただけだかんな?
そういうと千鶴は渋々俺の肩で眠り始めた
朝から疲れてるのに、ここまでよく無理するものだ
俺は笑って、千鶴の顔にかかった髪を払って、周りに集中した
皆、会津との押し問答で疲れているようだ


(ま、そりゃそうだよな…)


ここに来るまでに多くの時間がかかった
九条河原に着いた頃がもう日が傾いていた頃だった
今はそろそろ真夜中が明ける頃
それでも皆厳しい顔して重たい空気が漂っていた
こーいう空気になるとぶち壊したくなるんだよなぁ…
でも今そんなことしたら絶対しばかれる。主に土方
そして肩に頭を乗せていた千鶴が目を覚ました
その直後だった


ドォオンッ


『っ!?』


明け方には似合わない、砲声が響く
争いの合図―――――…
俺達は頷きあい、立ち上がって砲声のする方に向かう
だが、そこを止めたのが会津藩士。彼らはまだ出動命令が来ていないから動くなと言った
その言葉にさすがの土方も限界が来たのか、怒鳴った


「てめえらは待機するために待機してんのか?御所を守るために待機してたんじゃねえのか!長州の野郎どもが攻め込んで来たら援軍に行くための待機だろうが!!」


「し、しかし出動命令は、まだ……」


『だぁぁあぁっ!!もう我慢できねぇ!!てめえらな、よく考えてみろ!!こうしてる間にも幾多の命が奪われてんだぞ!!幕府のために、守るもののために!!てめえらにはそういう意地ってもんがねえのか!!!?』


俺は一気にまくし立てて、そのまま走り去る
ああいう命令の言葉だけで動くやつが一番嫌いだ。命令に込められた本当の意味もろくにかんがえないやつも、そしてその場で何事にも対応できずに狼狽える奴も全部全部大っ嫌いだ
戦うってことは戦えない奴らの命を背負ってんだ。その命のためにも、その人達の生活のためにも戦うのが俺達だって言うのに


『ほんと幕府の忠犬どもは腐ってて嫌だね…胸糞ワリィ』


俺は一度走る足を止めて、式神の術式を発動させる
もちろん、イグを人間の姿にするためだ


『"我に仕える式神よ、その姿を変形し、我の元へと現れよ…!!降矢!!"』


「およびでしょうか、主様」


イグ…降矢は俺の前に傅いて、頭を垂れた
こいつ自身の力でも人間になる事は可能なのだが、俺自身が呼ぶと、力が分け与えられ、戦力が増すのだ
俺は再び走り始めながら言い放った


『戦闘だ。行くぞ』


「仰せのままに、主!!」


俺が付いた頃、まだ戦闘は続いていた
だが薩摩の手助けで長州が押されていた
撤退するのも時間の問題だ
その時――――…


「貴様もここにいようとは思ってなかったぞ…鷹杉」


『……風間』


声を掛けたのは鬼の頭領である風間だった
そりゃあ薩摩がいればこいつもいるんだろうが…
はっきりいうと今こいつと会いたくなかった


「ふん、そんな露骨に嫌な顔をせんともなにもしまい…俺はただ、情けを掛けただけの事」


『はぁ?』


「せいぜい無駄死にはするなよ…貴様は俺が倒す」


そう言って風間は去っていった
…あいつの考えてる事未だによくわかんねえなぁ…
というか最終的に戦うの土方だし

その後に、新選組の皆が到着した
だがその時にはもう、蛤御門での戦闘は終わっていた。俺は近状を報告し、あとから集められた情報をすべて話して土方の判断を待った
そして無表情だった口角が上がった


「……忙しくなるぞ」


その言葉に皆鼓舞されたように湧き上がった
ああもう…そんなんだから俺も惚れるんだよ…
かっこいいな畜生!!
そして土方は的確に指示していく


「左之助。隊を率いて公家御門へ向かい、長州の残党どもを追い返せ」


「あいよ」


「斉藤と山崎には状況の確認を頼む。当初の予定通り、蛤御門の守備に当たれ」


「御意」


「それから大将、あんたには大仕事がある。手間だろうが会津の上層部に掛け合ってくれ」


その言葉に近藤さんはむ、と不思議そうに首をかしげた


「天王山に向かった奴ら以外にも残党兵はいる。商家に押し借りながら落ち延びるんだろうよ。追討するなら、俺らも京を離れることになる。その許可をもらいに行けるのは、あんただけだ」


「なるほどな。局長である俺が行けば、きっと守護職も取り合ってくれるだろう」


「源さんも守護職邸に行く近藤さんと同行して、大将が暴れない様に見張ってておいてくれ」


「はいよ、任されました」


土方の軽い冗談に、小さい笑いが漏れる
否定しないのはその心配が大いにあるからなのだろう


「残りの者は、俺と共に天王山に向かう。それから…」


土方は千鶴を見やる。千鶴は隊士ではないためどこに行かせるか悩んでいるのだろう
建前上土方の小姓なんだし、土方の所が妥当だと俺は思うのだけど


「……お前は、好きな場所に同行しろ。だが、近藤さんについていくのは無しだ」


「あ、はいっ、ええと……じゃぁ――――」
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