屍の女王の恋煩い

□それから8年
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ガヤガヤと店内は今日も賑わっている
各地を巡って集めた酒、相も変わらず不味いご飯
楽しそうに笑う声
8年経ってもこの豚の帽子亭は賑わいをみせている

「パトラ、ほいっ」

『よっ……はーいおまたせ』

メリオダスとホークに会って8年が経った
私は看板歌姫としてお店の売り上げに貢献していた
正直、歌姫として成立するか不安だったけど…ね

出会って間もない時に私の身の上は全て話してある
自分が屍人族で不老不死であること、元聖騎士であること
そしてこれから探し出す七つの大罪達には私の事を話さないで欲しいと頼んだ
メリオダスは不思議がっていたけど、これは決めていた事
私が「七つの大罪」に深く関わってしまって物語が崩れてしまったらきっと私は悔やんでも悔やみきれない
だから私が姿を見せるのはメリオダス、ホーク、そしてこれから来るエリザベスだけにしようと思う

まああくまでそうしたいってだけだし、今後戦いが激しくなっていけば結局私の存在は知られてしまう

(まあ、生身の彼らに会って、会話はしてみたいけど…)

「おーい?パートラー?」

『!!』

「お客さん達がお待ちですよ」

うっかりぼーっとしていたみたい
気が付けばお客さん達は期待するような瞳で私を見つめていた
皆が、私の歌を待ってくれている

『あら、ごめんなさい。では一曲…』






綺麗な歌声が店の中に響く
楽器がなくても十分な声量、音域と音程
やっぱり俺の目と耳に狂いはなかった
ホークも残飯食いながらパトラの歌声に聞き惚れている。勿論客も
皆飲むこともしゃべる事も忘れてパトラを見ている
きっとここに他の奴らも加われば楽しそうに酒を飲み交わしているというのに

(俺とホークの前にしか出てこない…か)

不思議なやつだなと思う
まあ人それぞれ悩みや、人に言えないことはある
だから俺は詮索はしない
それにその状況も悪くないかもな。こんな美人を独り占めできんだかんな
あ、ホークもいるか

『…七色を降らせられる、世界に――――…』

わっと拍手喝采
曲が終わったようだ
客はもう一曲!とせがんでいる
ほんと、あいつは人気者だな

けど

「悪いが今日はもう無理だ。閉店時間が迫ってるんでな」

よっ、とカウンターを乗り越えて、パトラに近づこうとする不届き者に一発喰らわせる
閉店だと言っても曲をせがむ客。嬉しいんだが、こっちもそろそろ休みたい

「ホーク」

「まかしとけい!!」

ホークは言うが早いか居残る客を一掃

「またのご来店お待ちしてるぜー」

『ありがとうございましたー』

ひらひらと手を振る
さて、とパトラは早々に片付けに戻った
8年経っても中々こいつの本心を探ることが出来ない
気心は知れてるとは思うが、なんというかパトラは弱音を吐かない
客に触られても嫌だとか何も言わないし、店が忙しい時に疲れたとも言わない
それが少し不満だ

「おいメリオダス。パトラちゃん一人に片付けやらせるなよな」

「おっと、ワリィ。腹減り過ぎてぼーっとしてたわ」

「お前がもうちょっとマシなメシつくれりゃ良かったんだがな」

「豚の丸焼きならうまく作れそうだけどな」

「俺を見て言うな!!」

どさり

何かが落ちた音がした
いや、違う。これは

「パトラ!!」

「パトラちゃん!?」

音の先には倒れたパトラ
慌てて駆け寄ると少し荒い息遣いが聞こえた
そっと額に手を当てるといつもひんやりとした体温が今はとても熱かった

「ホーク、タオル持って来い。できるだけ多めに」

「がってんだ!!」

よっとパトラを抱き上げ、彼女の部屋に向かう
そっとベッドに乗せて、ホークが持ってきたタオルを水に濡らし、額に乗せる

「…疲れが溜まってたのか」

悪い事をしたな
とりあえず、寝ずらそうなので髪を解く
リボンを外して、編み込みも解く
そうすれば肩より少し長い髪がパトラの露出した肩を隠す
髪を降ろした時の姿はあまり見る事ができないため、まじまじと見るのは初めてだ
風呂覗きとか寝室に夜這いとかさまざまな事を試したがこいつの屍の絲(トレイド・コレプス)により阻まれてしまっている
なによりスキンシップがろくに出来やしない

「ほんと、ガードかてぇんだから」

ベッドの端に頬杖をつき、寝顔観察
流石、屍人族一番の美女という所だろうか
長いまつげにシャープな鼻筋、整った唇
歩けば男は絶対に振り向いてしまうと言った所だろうか
そうしてじぃっと見過ぎたせいか、パトラは身じろぎをし、そっと瞳を開けた

「起きたか」

『…?めりおだす…?』

「体調はどうだ?」

『体…?私、なんで…』

「疲労で倒れたんだよ。ちょっとしたもんだから薬飲んでねてりゃ治るぜ」

『……ごめんね』

へにゃりと申し訳なさそうに眉毛を下げて笑う
こんな時にまで笑わなくても良いんじゃないか
因みに、ホークは町まで行って医者に薬を貰いに行ってる

「うんにゃ、許さん」

『え』

「なんで言わなかったんだよ。疲れてんならそういやぁいいだろ」

『迷惑かけると思って…』

やっぱりそんなこったろうと思った
額のタオルを取り、冷たい水に入れ、絞る
再びパトラと向き合い、タオルを額に置く

「一言も迷惑なんて思ってねえよ。逆に、勝手に倒れられる方が迷惑だぞ」

心臓止まるかと思ったと茶化せば、噴き出し笑う

「とにかく、お前はもうちっと甘えてくんねーかな。8年も一緒に居て、一回も頼られたことねーぞ」

『セクハラ変態エロオヤジを頼るのは勘弁してほしいわ』

「お前結構ひどい事言うな」

もしかしたら心配して損してしまっただろうか
取り敢えず、温くなった水を替えに部屋をでようとする
が、クンッと裾を掴まれた

「パトラ?」

『ぁ…』

無意識だったのか、心なしか顔が赤く染まる
かわいいやつめ

「なんだ〜?急にしおらしいじゃないですかパトラさん?」

『う…』

「ま、ご要望にお応えして、隣にいるよ」

『何も言ってない』

「この手が言ってるんですよ」

よっこらせとベッドに潜り込み、添い寝を…しようと思ったら阻まれたので、仕方なく椅子に座り手を繋ぐことにした

『メリオダス』

「んー?」

『私ね、少し怖かったのかもしれない』

「?」

『でも、もう大丈夫。貴方がいるから…もう怖くない。もう、無理…しな、い…』

すぅと瞳が閉じて、すぐに聞こえる寝息
俺はきゅっと握っていた手に少し力を咥える
単純に、その言葉は嬉かった

「おやすみ、パトラ」

そっと手を離して部屋を出る
取り敢えず、ホークが帰ってくるまで少し緩んだ頬を戻さねえと




それから8年


彼女が心を許した日





続く

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