屍の女王の恋煩い

□憤怒の罪
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がやがや ざわざわ

今日も今日とて変わらず、お客さんで賑わう"豚の帽子亭"
いつものように酒を売り、料理がまずいと怒られ、私の歌で皆盛り上がる
目まぐるしく環境が変わるような出来事がこれからあるとは思えないほど和やかで、にぎやかだ
けれど店内で七つの大罪のうわさを耳にした途端、この平穏な日常もなくなってしまうのだろう
エリザベスが来るのはもう目前なのだ
それが嬉しくもあり、寂しくもあったりする
メリオダスとホークとの旅はとても楽しいから

「パトラー!エール3本追加だ!!」

『あ、はーい』

それでも仕事はきっちりこなさなければいけない
しっかり稼がないと怒られてしまう
カウンターに置いてあるエールを取りに歩いていると通り過ぎにまた他のうわさを耳にした

「そーいやぁよ、バイゼルに珍しい武器が運び込まれたとか聞いたぜ」

「へぇ…どんなやつなんだよ」

「東国の剣らしくてな…確か…東国の騎士…向こうじゃ武士っていうらしいんだが、その武士が使ってた剣なんだと。名前は…なんだっけな…イズミ…サダカネ…?いやカミカネサダ?」

「なんでそこだけ曖昧なんだよ」


『!!!!』

思わず足を止める
彼らが言っていた剣。多分だがそれは刀の事だろう…それも太刀だ
武士の刀に、曖昧に口にした名前
それは、組み合わせると私の知っている刀の名前になったのだ

「パトラ?」

『和泉守兼定…』

ぼそりと呟いた言葉が噂をしていた彼らに聞こえたのか、振り返って肯定した

「そーだそーだ!そんな名前だよ!!なんでも、ヒジカタとかいう武士の使ってたものなんだとよ」

『…それ、バイゼルのどこ』

「おーいパトラさーん?エール運んでく『それ、バイゼルのどこにある!!?』聞いちゃいねえな」

「え、えっと…」

バンッとテーブルに手を叩きつけて、彼らの間に割って入る
いつもは怒ったりしない私にしり込みしたのか、彼らは口ごもってしまう
これだけは聞いておかないときっと後悔する
だって、あの刀は…!!

「今はバイゼル喧嘩祭りに備えて、倉庫に保管されてるとかなんとか…」

『喧嘩祭り…景品にするつもりかよ…!!くそが!!』


「なんかパトラちゃん口悪くなってねえか」

「今日はやけに機嫌が悪いなー」

「ツッコむ所そこなのかよ!!?」

と、そんな時
お店のドアが開いた。客が来たのだろうと思ったのだが、みればそこには鎧を纏った人がいた
あちこちボロボロで、鎧も手入れされていないのか、それとも海風にさらされていたのかとても錆びついている
間違いなく、あれはエリザベスだった
そうとも知らず、客は噂の鎧が出たと大騒ぎして店を出て行った
もう少し、刀についての情報を集めたかったというのに

(それより先に、こっちか…)

私は倒れてしまった椅子やテーブルを起こしながら、メリオダスと鎧のやりとりを見守っていた

「お前誰だ?」

彼がそう問うが、鎧は何も答えない
それどころか後ろにのめり倒れた
その衝撃の際に兜が取れてしまった。中から顔を出したのは可愛らしい銀髪の少女
彼女こそ、リオネス第三王女エリザベスだ
長旅でろくに食事も摂っていないせいか顔色が悪い

「この子が七つの大罪…?」

ホークはそう呟く

『…どうするのメリオダス』

「取り敢えず、この鎧脱がせねえとな…パトラ、俺の部屋に運ぶから手伝ってくれ」

『はぁーい』

「お前らほんとにマイペースだな」



メリオダスの部屋
鎧をすべて脱がせば、そこには細く白い可憐な少女だけが残る

「女の子…だぜ」

「うんにゃ」

「えぇっ!!」

否定する言葉とは裏腹にメリオダスは寝顔を見たり、体をなめまわすように見たり、匂いを嗅いだり、さらには胸を揉んだりしていた

『それ完全にセクハラ…』

「やっぱり女だな」

「みりゃわかんだろ!!」

その声で脳が覚醒したのか、目をぱちっと開け、むくりと起き上がる
メリオダスはまだ胸を揉んだままだ

「あ、あのっ…?」

『いい加減やめなさい』

「いでっ」

どすっと頭に拳を入れる
話しの内容が少し変わるけど、これは見るに耐えられない
エリザベスは戸惑っていたけど、私が大丈夫かと聞けば恐る恐る頷いた

「ここは…?…あの…私はなぜ…」

「ふらーっと店に入ってきて、いきなりぶっ倒れたんだお前」

「店…?」

彼女は首を傾げた

『"豚の帽子亭"彼の店だよ』

「貴方が…マスターさん…?」

「おかしいか?」

「い、いえ!その、背中の剣が見えたものですから…」

エリザベスが指さすのはドラゴンをかたどった剣
メリオダスはなんて事ないようにその刀を抜く
カチャリと小さな音を立てたそれは、刃がほぼ折れていた
それを聞いた彼女はほっとしたのもつかの間、喋ったホークに関心を向けて飛びついた

(なにこの可愛い生き物)

父におねだりしたというエリザベス
貰ったのかどうかとメリオダスが聞けば、寂しそうに否定した
その雰囲気を悟ってか、メリオダスは飯を食べないかと言い出した
というかそれは逆効果だろと思う
けど、あえて口に出さないのは優しさです

一階に降り、彼は料理の支度を始める
その間彼女は店内を見渡し、たどり着いた目線の先には七つの大罪の手配書
その瞳は少し、悲しそうだった
出来上がった料理を、ホークに言われ食べればエリザベスはうっと唸った

「どうだ、まずいだろ」

『胸張っていうことじゃないなー』

「…はい」

「「『やっぱり』」」

「でも…すごく…美味しい」

エリザベスはそう言って涙を流した
人の温かみの入った料理を食べたからだろうか
メリオダスのご飯は不味いには不味いのだが、どこか優しいのだ
彼自身の様に

「なあ、お前、あんな鎧姿で何してたんだ?」

メリオダスが問えば、彼女はおそるおそる口を開いた
七つの大罪を探しているのだと。その言葉に彼の顔つきがわずかに変わった
ホークは、生きてるか死んでるかもわからない亡霊のような…しかも王国転覆をはかった者たちを探しているのかと口にした
彼女が何かを言う前に、ドアが荒っぽく叩かれる

「!!」

『来たね…』

ドアを叩くのは騎士団
七つの大罪が出たとの報告で、此処に来たという
まあ、その大罪が実は可憐な女の子なんだけど

『とりあえず、この子を逃がす?それともあいつらぶっ殺す?』

「お前時々思うんだが、言葉が物騒だぞ」

「今そう言う事言う場合か!?」

騎士団が外で何かを話し合っているうちに、私達は小さな作戦を立てる
急いで考えたので、あまりうまくいくとは思ってない

『じゃあ、頼んだよマスター』

「おう。お前もよろしく頼むぜ」

メリオダスが騎士団を引きつけてる間に、私とエリザベスは裏口から出て逃げる
けれど、勿論見つかってしまう

『走るよ!ついて来て!!』

「は、はいっ」

私はエリザベスの手を引いて走り出す
とても昔に一度だけ遊んだ時の手とは、まるで違っていたけど…それでも、温かかった
走る速度はエリザベスに合わせているため、あまりスピードは出せない
騎士団ももう間近に迫っていたけど、それをホークが撃退
さすが豚足。たまには役に立つね
森を抜けて、木の上に登ろうとしたらさきにメリオダスに取られてしまった

『私だって助けられたのに…』

なんかムカついたので、とりあえず崖の端で立ち止まった騎士を蹴り飛ばす
木が密集している場所に落としたから大事は無いだろう

「あの…二度も助けて頂いて…なんとお礼を言えばいいか…」

そういうエリザベスに対して、またしても胸を揉むメリオダス

『いや…もう、怒って良いからねソレ』



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