屍の女王の恋煩い

□バーニャエールで乾杯
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『えー…申し遅れました。私はこの"豚の帽子亭"の歌姫、パトラです。よろしくねエリザベス』

「は、はいっ」

現在、ホークママで次の町へ移動中
私達は店の中のテーブル席に座り、自己紹介をしていた
よくよく考えれば、私はエリザベスに名前を教えていなかったのだ

『何か分からない事があれば、私に聞いてね』

「は、はいっ」

『えーっと…エリザベス?』

「は、はいっ」

『そんなに私が怖い…?』

ツイーゴのせいで、彼女に首を切断されるという衝撃的なシーンを見せてしまったのは痛かった
そのせいか彼女は何処か私によそよそしい
そりゃあ、目の前で知り合った人の首が落ちて、動くのは気味が悪いだろうけど
私の種族の体質上しょうがないのだから、慣れてもらいたい所だ

「いえ、違うんです!!怖いとかそう言う事じゃなくてっ…」

『??』

「えっと、その…こんなに美人な人を前に話すのは緊張するというか…」

『えーっと…?』

「そりゃあ、コイツは"屍人の女王"って呼ばれる、種族一の美人だからな」

「メリオダス様…」

後ろから声が聞こえてきたと思えば、ぽんっと頭に手が置かれる
メリオダスは自慢げに私を見ていた
いや、なんで貴方がそんなに自慢げなの

『屍人(ゾンビ)族っていう種族があるのは知ってる?』

「いえ…」

『屍人族っていうのは、ゾンビって言うぐらいだから不老不死なんだけど…まあ、それはこの前ので分かってるね。それと、人間じゃないから血は出ないし、痛覚もない』

自分の糸を形状変化させ、指をすぱっと斬ればその部分に赤い跡が残るだけで何も出てこない

『ね?』

「今、どうやって…」

「それはコイツの魔法だ。屍の絲、トレイド・コレプス。手から出る蜘蛛の糸みたいなやつだな。色んな物質に変化できんだ」

『森に落とした騎士をひっぱりあげたのも、コレのお蔭ってね。ちなみに手と同じくらい器用な事も出来るよ』

すいっと糸をエリザベスの髪に通して、手早く編み込みを入れ、髪をまとめるようにすれば私と同じような髪型になる
うん。やっぱり似合う
基本的に私の糸は何人たりとも見る事は叶わないのだが、形質変化の時、麻縄や毛糸など目に見えなければいけない物は見える様になっている

『"屍人の女王"って呼ばれている理由は、種族一番の魔力を持っているから。魔力が高ければ高いほど、美しく生まれる…んだって』

「そういうことだったんですか…」

「パトラちゃんを拾ったのは9年ぐらい前だったな。そういや、なんであんなとこにいたんだよ」

ぷごぷごとホークは鼻を鳴らして、私を見上げる

『メリオダスを待っていたって言ったら納得する?』

「そういやぁ出会った当初にメリオダスに会うためっつってたな」

「そうなんですか…?」

エリザベスはきょとりと瞳をぱちくりさせた

『彼といれば、面白いことが起こるだろうと思ったから…実際今まで生きてきた中で一番楽しいしね』

「メリオダス様とはお知り合いで…?」

『一度会っただけだよ。元聖騎士だしね』

「え」

エリザベスは目をぱちくり
予想範囲内の反応で、私は苦笑する
そんなにも私は聖騎士という感じではないだろうか
まあ、現在の王都に女性聖騎士が数少ないのは確かだけど

『そんなにも意外?』

「あっ、すみませんっ…!」

『いーのいーの。どっかの喧嘩馬鹿にもよく言われてたから』

慌てふためくエリザベスはとても可愛らしくてついつい困らせたくなってしまう
それに気付いたメリオダスは、あんまり遊ぶなよと忠告してきた
別に遊んでいる気は無いんだけどね

『とにかく、これからよろしくね』

「は、はいっ!!」

ブンブンと首が取れるほどに振るエリザベスを止めながらふと思う
そういえば今着ている服がボロボロだという事を

『これは…着替えるべきね』

「え?」

『その服、色々切れてボロボロだし冬場には少しキツイ露出度だし…うん。メリオダス』

「はいはいここに」

私がメリオダスを呼べば彼は分かっていたかのように、布をテーブルに置く

『じゃあエリザベス、少し動かないでね』

彼女が何か言う前に、自分の絲を使って採寸を済ませる
後は、自分の頭の中にある彼女のデフォルト衣装を思い浮かべながら手と絲を動かす
そうすることわずか15分程度

「あの…この服装は…」

「うちの制服だ!!」

「こいつらの趣味まるだしでワリィけどな」

『あら、それ私も含まれてるの?』

「作ってる時点で同罪だろ」

ホークは呆れ顔をする
まあ、確かに実物に着ている人を見るとなんとも趣味まるだしな。とは思うけれど
エリザベスに似合うのだから問題ないかと

「ウエイトレスをしながら七つの大罪に関する情報や噂をお客さんから集めればいいんですよね?」

『聖騎士に関する事とかでもいいよ。それから、メリオダス、お前はいい加減にしろ』

「ぐっ…絞まってる絞まってる」

隙あらばセクハラをしようとする彼をいったいどうすればいいのやら
いっそのこと手出しできない様に縛り付けるべきなのだろうか
でもそれでは料理は作れないか

「あの、メリオダス様、パトラ様。1つお聞きしたい事があります」

「『ん?』」

「七つの大罪は…メリオダス様は本当に世間の言うような大罪人なのでしょうか…だとすればどんな罪を犯したのでしょうか」

「どんな罪、か」

『…………』

率直に言ってしまえば私は漫画、アニメを見ていた事によってなぜ彼が憤怒の罪を背負ってしまったかを知ってしまっている
けれどそれを彼女に言う義理はない
今言っても意味がない

「私は世間が誤解していると思うんです。だってあなたは正体の知れなかった私を助けてくれた…」

「実は…」

メリオダスはおもむろに口を開く

「10年前、リオネス各地で女性の下着と言う下着を盗んでまわったんだ」

「う、嘘ですよねっ…!?」

「ウソ」

ガクッとエリザベスは崩れ落ちる
メリオダスのいう事は簡単に信じちゃダメなんだよ…王女様よ…

「実は、千人以上のねーちゃんのおっ…いでっ」

『教育によくない事いうのやめましょうね。このスケベオヤジ』

「なにも叩く事ないだろー…」

メリオダスは不満げに叩かれた頭をさすりながら、私を見た
そんな目をされても何もせんぞ

「茶化さないで下さいっ…!それとも本当に人には言えないような罪を犯したんですか?」

「まあな」

「……!」

今度は表情を変えずに頷く
こういうところで素直になるから、話している相手は混乱してしまう
店内が少し静まり返った丁度その時、突然平衡感覚を失う
慌てて重心の位置を変えて、転ばない様にする
どうやら、目的地に着いたようだ

『次の情報の町…』

「バーニャの村だ」



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