人魚とシャチの恋模様

□Rage summer
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それは、日常生活で使う物だったり
あるいはプールや海だったり
水は様々な姿形をしている
水を恐れることなどない。抗わず、身体を水と同化させる
そうすれば自然と答えてくれる
水を……受け入れる…!

『なんて、我が弟は小さいながら変な哲学を持ってたわね』

小さい時から、変に小難しい事を考えていた私の弟、遙
今では水泳を辞め、早くただの人になりたい…と、どこぞの妖怪が人間になりたいと旅をしているアニメだ。と思いながら、毎日を過ごしている
なんの変哲もない、日常
けれど今年の夏はどこか違うようなのだ

『それより、いつまでお風呂の中なのかしら…今日から新学期なのに…』

私は役員があるので、遙より先に出なくてはいけない。時間はまだたっぷりあるのだけれど、あんまり長風呂してしまったら、朝ご飯も食べられなくなる
どうしようかと考えていると、裏の方の扉が空く音がした
幼馴染であるまこちゃん…橘真琴が来たようだ
どうやら物思いに耽って、インターフォンに気づかなかったみたいだ

『まこちゃんが来たなら大丈夫ね…』

私は、遙の分の朝食を置いて、身支度を整え、先に家を出る
外はまだ肌寒くて、寒がりの私にとってマフラーは必要
首に巻いたマフラーに顔を埋めて、歩き出した

しばらくすると浜辺へと出る
その海を眺めながら、思いを馳せた。遠い向こうに居る幼馴染を思って

『凛…今頃どうしてるのかな』

なんとなく今年は会えるような気がした
そしてそれが、感動の再開とは行かないのも
理由は単純で、遙が中学の時の冬、沈んだ顔で帰って来たからだった
普段は私にも見せないような表情を見て確信した。凛に会って、何かあったのだと
どういった経緯でそうなったのかは分からない。遙も何も言わないから、私はただ待つのみ
無理やり聞いても遙の心の傷に塩を塗るだけだから

『今年の夏も、熱くなりそうね…』

それと同時に、荒れ狂うような目まぐるしい夏がやってくるのだろうと私はその時薄々と感じていたのだった…



「あれ、彼方は?」
「先に行ったみたいだな…姉さん役員だし」

ハルをお風呂場から引きずりだした後、俺達は居間の方へと向かった
キッチンには俺の幼馴染…であり、密かに思いを寄せている、七瀬彼方の姿が見えなかった
そう言えば役員があって今日は一緒に行けないというメールが来たのを、ハルの一言で思い出す
朝一で彼方の顔を見れないのは少しばかり残念な気がしなくもないけれど

「真琴、残念だったな。姉さんがいなくて」
「なっ…!?何言ってるんだよハルっ…!///」

どうやらこっちの幼馴染にはバレバレのようだ
…と言っても、多分渚も分かってる
顔が赤くなるのを感じながら、ハルを見ると、水着の上からエプロンを纏って鯖を焼いていた
テーブルの上に、食べてねと書置きが残された朝ご飯があるのは見なかったことにしたい

そのあと、俺らは支度を終えて、学校へと向かった
因みに、彼方の作った朝ご飯は残すのがもったいなかったので、俺が食べた
その後、他愛もない話をして、学校へと到着した

「卒業か…」

そう、俺は一人呟く
彼方は今年で受験生。来年はここの学校から巣立ってしまう。そうなると会える回数も減るって事で
だからそろそろ覚悟を決めなくてはいけないのかもしれない。この思いを伝えるのを

(そう考えるだけで緊張するのに、俺大丈夫かなぁ…)

そんな一抹の不安を覚えながら、新任の先生の話を右から左へと受け流していたのだった




夏はもう、すぐそこまで迫ってきていた


つづく

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