イナゴ

□美術部員の憂鬱。
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「…あの、雨宮さん…?」
「ん?」
「なんか…近くないですか」
「気のせいじゃ無いかな?」
「ちょっ、ほんとに近いっ…て、あんた病人でしょうがぁぁあぁあぁぁ!!!!」

どうも皆さん新雲学園美術部副部長水無月レオンです
只今、うちの学校のサッカー部キャプテン雨宮太陽のお見舞いに来ています
何故、こんな接点の無い私達が仲良くしているのかは単純で、私が友達に連れていかれたサッカー部で知り合った

〜回想〜

【早く早く!!】
【ちょっと引っ張らないでよね!!】

私とおなじ美術部の親友がサッカー部を拝みたいと言うので渋々ついて来たのが数分前
今更ながらそれを凄く後悔した
そのワケは……

(土佐丸の所に行きたくねぇぇえぇぇ!!!)

これでお分かり頂けただろうか
土佐丸とは佐田土佐丸の事で、新雲学園サッカー部GKであり、私の幼なじみである
コイツとは兄弟のように一緒に育って来た為遠慮など皆無なほど言いたい事を言える仲である
曰く、犬猿の仲
周りからは、私達の言い争いなど"夫婦喧嘩"ていう認識しか無い
これが非常に不愉快で仕方が無い

【ほら、着いたよ!!】
【いやだぁぁぁぁ】
【あ、太陽君がいる!!でも雛野のほうが美人さん!!】
【人の話を聞けよ、ばかぁぁあぁぁ!!!!】

この親友と雛野金輔は俗に言う恋人
これまた何の因果か金輔とも幼なじみである
二人とも、お互いが好きで良く私や土佐丸に相談してきた
あの時は骨が折れた←
付き合ったら付き合ったで今では校内公式のバカップルである
お陰で私と土佐丸は慰め会も兼ねて登下校も一緒だ

と、物思いに耽っていたら頭にナニカがぶつかった
下を見るとサッカーボールで、投げたのはきっと土佐丸

【何やってんだよ馬鹿!!】
【投げて第一声がそれって結構傷付くんですけどぉぉ!!ブロークンハートですけどぉぉぉぉ!!?】
【キメェ】
【んだと、コノヤロォォォォ!!!】

下に置きっぱなしのボールを力一杯土佐丸に向けて打つ
威力は…必殺技ぐらい(テヘッ☆
まぁ、流石に咄嗟の事だったのか化身も出せず吹っ飛ばされた

【土星が…散った★】
【ちょっ、レオン何やってんの!?佐田ぁぁぁあ!!大丈夫ぅぅぅ!!www】
【そう言いながらも笑うんじゃねぇよ溝辺!!つーかレオン、土星って俺の事じゃねぇよな!!?】
【他に誰が】
《ブフッ》

私が肯定すると部員全員が噴き出した
だって…ねぇ?
土佐丸の髪型が似てるからいけないっていうか…ねぇ?

【てめっ、表出やがれ【出てるし】うぐっ】
【相変わらずレオンには頭が上がらないよな。佐田って】
【うるせーぞ雛野……って太陽?どこ行くんだ?】

太陽と呼ばれた少年はコチラに向かっていた
え、コチラって?私達の居る所だよっ!!
そして彼は私の手を取った

【え】
【君、今の凄いね!!どっかのサッカーチームにでも入ってるの!?】
【え、えーと…;;;】

【でた、太陽の悪い癖】
【キャプテンは松風君と同じくらいのサッカー馬鹿だからね】

【そこぉぉ!!私を助けろや!!】

そんな私の叫びも虚しく、雨宮君は質問を止めない

【君、名前は?】
【え、あの、ちょっ】
【レオン、水無月レオンです】
【ちょっ、何教えてんの金輔ぇぇえぇぇ!!!??】

【レオン、サッカー部入って!!】
【誰が入るか!!私美術部ですからぁぁぁ!!】
【じゃ、僕達の絵描いても良いから!!】
【そーゆう問題じゃねぇぇえぇぇぇぇ!!!】


〜回想終了〜


とまあこんな感じで雨宮君と知り合ったわけですが
翌日練習見に行ったら(というか行かされた)雨宮君はぶっ倒れて入院中だとの事で
最初は物凄く驚いたのだが、今となっては慣れてしまった
だってほら…

「ねぇねぇレオン、サッカーやろうよ!!」

こんなじゃん?
ていうかお前さん病人だよね、なんでそんな元気なの
この前も試合してて倒れて死にそうだったのになんでそんなにきらっきらの笑顔なの
どこからそんな力が出て来るの

「はぁ…あのね雨宮君、前も言ったけど私はただ土佐丸達の練習に付き合ってたから初心者よりは出来るけど…ルールなんて知らないのよ?」
「うぅ…」
「雨宮君は十人に一人の天才なんでしょ?私みたいな初心者とサッカーやっても意味な「そんなことない!!」え」

雨宮君は私の言葉を遮る
現在、雨宮君の絵をスケブに書いていた私は顔を上げる
そこに居たのは怒ってるような拗ねているような顔をした雨宮君だった
私は真実を言ったまでだ。なのに何故そんな顔をするのだろうか

「まさかレオン、僕が君とサッカーやりたいから毎回無理してでも君をここに呼んでると思ってるの?」
「…違うの?」

しれっと言った私に対して雨宮君はため息を吐いた
何か悪い事でも言っただろうか

佐田が鈍感鈍感言ってたけどここまでとはなぁ…
「…?何か言った?」
「んー?」

雨宮君は何か思いついたらしくて遊戯好きな子供の目をしていた
こんな時はろくな事を言わないのだが

「あはは、そんな嫌そうな顔しないでよ。心外だなぁ」
「君の日頃の行いが悪いの」
「…手厳しいなぁ……僕はね、君と一緒に居たいから、いつも無理してるんだよ?」
「え…」

え、今なんと
一緒に居たい…?…誰が…誰と……
雨宮君が…私と…?

「へっ?!」

時間遅れでようやく理解し、ボフンッと顔が一気に赤くなったのが分かった
それでも雨宮君は笑顔のまま
ていうか、それって…!!

(私に気があるみたいじゃない…!!)

この鼓動をどうにかしたくて、こんな顔雨宮君に見られたくなくて、私はそそくさとスケブ等をバックに仕舞い、席を立った

「わっ、私、ちょっと飲み物買ってくるから…!!」
「え、ちょっ…!!」

雨宮君が何か言いかけたけどそんな事にかまってられるはずもなく、勢いよくドアをあけその場を去った

(あーもう…沈まれ、私の心臓…!!)

この熱が冷めるまで当分戻れそうには無い様だ



「あーあ…逃げられちゃった………でも、次はこうはいかないからね…レオン」

そんな事を言いながら雨宮君が私のバックをチラリと見て笑った事を私は知らない




美術部員の憂鬱。

(あれは何かの間違いよ…自意識過剰になっちゃ駄目よ私…!!ていうかなんでバックおいて来たの自分!!)

(可愛いなあ…律儀にカバンまで置いてくなんて…期待しても良いのかな?)


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