イナゴ

□勘違いしてから回った恋心
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俺は酷く馬鹿だと思う
何故って、理由は単純で
俺が思いを寄せている奴には別の好きなやつがいるから
それも俺が認めて欲しいと渇望した相手
―神童
敵わないとは分かっているのに、思いを断ち切ることは出来ないでいた

ほら、また目で追ってる

「馬鹿か俺はっ…」

ぼそりと呟く
今は練習中だというのに、自然とベンチの方へ目が行ってしまう
そこにはいつものマネージャーたちがいる
もちろん、あいつも
あいつは楽しそうに空野と話している
その笑顔も好きなんだと、また自覚して、また苦しくなる
今はサッカーに集中しようとしていても、意識がそっちに行ってしまう
そうやって意識が逸れていたからだろう

「井吹、危ないっ!!」
「っ!!?」

キャプテンの声が聞こえたと思ったら、顔面にボールがヒット
しかもノーマルシュートではなく剣城の必殺技シュート
もろに喰らった俺は、抵抗空しくそのまま意識がブツリと途絶えた
最後に聞こえたのはチームメイトの心配する声







「井吹、危ないっ!!」

天馬君の焦った声がすると思って、作業を止めてみると、井吹君の顔面に剣城君のシュートが綺麗にヒットしてる所だった
これが狩屋や浜野なら笑っていたのだけど、今回はそうも行かなかった
だって彼はつい前までサッカーをしたことのない初心者で、必殺技なんて受け慣れてない
案の定彼は気絶した

「井吹君っ!?」

私は慌てて駆け寄って、安否を確かめる
鼻血が出てないだけ良かったけれど、脳震盪を起こしていたら困る
オロオロとしていると、拓人も駆けつけてきた

「井吹は?」
「拓人……取り敢えず気絶してるだけだよ」
「そうか…久坂、井吹をベンチに運んでくれるか」
「はいっす」

久坂君は、拓人に言われて井吹君を運んだ
その後に続こうとしたけど、それは拓人に止められた

「レオン、心配しなくてもアイツは大丈夫だ。だからそんな顔するな」
「拓人…」

ポンッと私の頭に手を乗せて、優しくなでる
昔からこうやって私を慰めてくれる
辛いのは拓人も同じはずなのに

「アイツにはお前が付いてやれ。その方がアイツも嬉しいだろ」
「…そんな事ないと思うけど」

井吹君はきっと、葵ちゃんが好きだから
その言葉はぐっとこらえて、無理やり笑顔を作ってベンチに戻る

「じれったいな…」
「両想いのはずなのにねぇ…」

なんて事を拓人とさくらちゃんが話してた事なんて知る由もなかった

私はベンチに戻って、井吹君の頭を私の膝に乗せていた
生憎、枕になるようなタオルを切らしていて、ほかのマネージャー二人も忙しそうだったので、私が膝枕をすることに
本当は葵ちゃんに膝枕をお願いしたかったのだけど、私がやりたいという気持ちもあって言えず仕舞いになってしまったのだ

「……我儘だなぁ…私」

諦めなきゃと思うのに諦めたくない、渡したくないと思ってしまう
今だけは今だけはと自分に念じて、井吹君の寝顔を眺める
いつもは遠くからしか見ていなかったけど、改めて綺麗な顔立ちをしているなぁと思った
まつ毛も女子である私より長いし、鼻も高い
ちょっと悔しいけど、そんなところも好きで
そっと髪に触ると、思っていたよりも柔らかくて、ドキッと胸が高鳴る

「……………………………好き…」

ぼそりと呟いてから、一気に顔が熱くなった
我ながらなんて事を口走ってしまったのだろうか
聞こえてないかチラリと井吹君を見ると、静かな寝息しか聞こえなかった

「はぁ…」

ホッと、胸を撫で下ろす
今のを聞かれたら、私は恥ずか死んでたかもしれない

(井吹君が寝てて良かった…)





聞き間違いだろうか
いや、聞き間違いであって欲しいのだが

(というかまずこの状況を教えて欲しい)

意識が戻り、少し目を開けると、俺は横たわっていた
それは良い。だが、それ以外が問題だった
何故俺は、水無月の膝で寝ているのか
慌てて起きようと思ったが、俺の頭を撫でる手が邪魔をする
これは寝たふりを続けるしかないと思った矢先にあのセリフだ

(聞こえてねえとでも思ってんのか…まる聞こえだっつの)

そして何より、驚いたのが、こいつが神童に向けてではなく俺に向けて言った事だ
コイツは神童が好きなはずなのに一体どうゆう事だろうか

「………好き、だよ…井吹君」
「っ!!」
「えっ……っ!?」

二度目の好きに耐え切れず、俺は水無月の手を引っ張る
ぱちっと目を開けると水無月の顔が目の前にあった
顔が近くても分かるほどコイツの顔は赤く染まっていた

「いっ、井吹君、起きてっ…!!///」
「おかげさまでな?」
「え、あのっ…離しっ「嫌だ」!!?///」

水無月の言葉を遮って、口を塞いだ
それも一瞬で、すぐ唇を離した

「顔、真っ赤だな」
「なっ…!?///」

俺は体を起こして、水無月の目の前に立つ
そのまま屈んで、額にキスをする
そうすると水無月はバッと顔を上げる

「いっ、井吹くっ…!!////」
「俺も好きだぜ、レオン」
「へ…」
「じゃ、練習戻るから」

言った後に恥ずかしくなって、そそくさとフィールドに戻る
赤くなった顔を見せられなくて、後ろは振り向けなかった
まあ、とにかく、神童を好きだというのは誤解だったようだ


「…宗正君のばぁーか…///」

そんな呟きが聞こえて、余計振り向けなくなったのは、しょうがないと思いたい



後日
神童とレオンが幼馴染だという事を知るのは、そう遅くは無い







END
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