屍の女王の恋煩い

□バーニャエールで乾杯
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私達は一旦外に出て、ホークママが地面に潜るのを見届ける

「うちの酒は色んな土地で仕入れてるんだが、バーニャの酒は別格だ」

『リオネス屈指と謳われる名水とその川辺に群生するグルートで作るバーニャエールは各地にファンがいるんだよ。私も好きかなぁ』

「けどよ、その名水がすっからかんじゃんよ」

ホークが橋の上から名水が流れているはずの川を覗き込む
けれどそこには水どころか草木まで枯れている

「川辺のハーブも枯れてますね…」

「どういうこった?」

目的地の村地に着けば何やら騒がしい
広場には多くの村人が何かを囲んでいた
エリザベスはお祭りかとうきうきとしていたけれど、あの表情とこの空気からしてまずそれはあり得ない

「おっす」

「おぉ、豚の帽子亭の…」

『お久しぶりです』

「今日は何の祭りだ?」

メリオダスがそれとなく聞くと、村人は顔を強張らせて広場の人が集まる場所を指さす
聖騎士が突き立てた剣を引き抜こうと、屈強な男達が素手や縄などで奮闘している
あの剣はまさしく聖騎士のもの。しかもギルサンダーのものだ
いくら目を欺くからと言ってここまでする事は無いだろうに
まあ、彼も必死だったって事で

「聖騎士が剣を?なんでまた」

聞けば先日、聖騎士の怒りを買い、村の地下水が魔力によって止められてしまったという
このままでは水どころかグルートも枯れ、全滅しバーニャエールは作れなくなってしまう

「聖騎士ってまさかあの、メリオダス様が倒した…」

『ツイーゴは聖騎士見習い。体内に魔力を持たないわ』

「え…」

「つーか本物はあんなもんじゃねぇ」

『聖騎士の剣は聖騎士にしか抜けない。このままのようであれば…』

私は広場とは逆方向へ歩みを進める

「どこ行くんだ?」

『帰る。メリオダス、後はよろしく』

「え、えっ」

エリザベスの静止を聞かず、絲を使って帽子亭へと帰る
どうせメリオダスはあとですぐに帰って来るんだし
帽子亭の扉を開けて、二階、三階へと駆け上がり、さらにその上の屋根裏へと上る
七つの大罪がそろい始めたら部屋をここにしようとしていたのだ
狭くはあるけど、寝るだけの部屋。なんら問題ない
トサリとふかふかの布団に倒れ込む
我ながら自信作だ
しばらく布団の上でごろごろしていれば、睡魔はやってくる

『少し寝ようかな…"ガタ"が来てるし…』

すっと瞳を閉じれば、すぐさま夢の中へと落ちて行く



《美玲》

……?おばあちゃん?

《武人って言うのはねぇ…周りに優しく出来て、厳しくいられる強さがなきゃいけないんだよぉ…》

そんなの、知ってるよ。そうやってずっと教えられてるんだから

《知っていても、決して忘れてはいけないよ…貴方が、土方の名を背負う事を…》

…?おばあちゃん、今日はなんだか変だね…?

《ほほほ…あいかわらずストレートに言う子だねぇ……美玲、あの刀を、絶対に…》

おばあちゃん?あれ…?おばあちゃん!?



『っ!!?』

ぱちっと目を勢いよく開けると目の前に広がるのは誰かの碧の瞳

「よ、起きたか」

『ちかいっ!!』

「あたっ」

綺麗にアッパーが決まった
ていうか近すぎにもほどがあった。あれ下手すれば唇奪われてたな…

(でも、さっきの夢…)

あれは一体…
けれど考えていても仕方がない。今は目の前の事に集中しなければ

『で、何か用?メリオダス』

「出番なので呼んできたまでだ」

『出番?』

「お前な、本業を忘れてもらっちゃぁ困るぜ」







『あ』






忘れてた



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