頂き物

□向日葵とスイカと、君。
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蝉が慌ただしく鳴いている。

太陽はじりじりと地面を焼く。





まさに夏!

暑い!ひたすら暑い!



夏休みの間、彼氏である半兵衛の家(日本家屋)に来ている訳だが、やっぱ暑い。



日本家屋って涼しそうだよねってことでわざわざ来たというのになにこの暑さ。

おかしいよね。
地球寒冷化とか温暖化とか言ってるくせに夏だけは毎年暑い。

夏なんて滅びろ。



『もーやだー。あーつーいー。夏なんかいらないー』

「そんなことを言ってはいけないよ、アルト。夏がないと夏が旬の野菜が食べられないじゃないか」



畳の上で寝っ転がる私に話しかけてきたのは、浴衣を着た半兵衛。
浴衣って暑そうだなぁ…


「別に暑くはないさ。慣れているからね」

『!?何故私の考えたことわかったの!?』

「声に出していたからね」



どうやら私よりもこの男の方が一枚も二枚も上手らしい。
勝てる気がしない。



『あー、そうだ。さっき言ってたけど、夏が旬の野菜って何がある?』



さっき半兵衛が言っていたことを聞いてみた。
野菜なんてわからない!


半兵衛は、ため息を吐きながらも答えてくれた。



「はぁ……そうだなぁ、スイカとか、オクラとか…」

『スイカ!?オクラ!?』



半兵衛が言った名詞に過剰反応してしまった。
しょうがない、スイカもオクラも好物なんだよ。


特にスイカ。



『ねー半兵衛ー』

「何だい」

『スイカ食べたくなってきた。食べよーよ』

「……はぁ、君には一生勝てなさそうだよ」



ため息をついても、私のわがままを半兵衛はきちんと聞いてくれる。
その証といってはなんだけど、「切ってくるから縁側に居てくれるかい」と笑って言ってくれた。




縁側に出て、庭を眺める。

庭の隅っこには向日葵の花が二本咲いていた。



『あー、この向日葵、懐かしいなぁ…』


並ぶように咲くその向日葵は、まだ小学生だった頃に半兵衛と私とで植えた向日葵の種から成長したもの。

一番最初に植えたものじゃないけど、花びらの黄色はあの頃と変わらない鮮やかさだった。



サンダルを履いて、向日葵の傍へと行ってみる。

そりゃあ何年も過ぎれば身長だって伸びるし、向日葵の花が近くで見れた。



だけど、なんだか物足りない。



「アルト?」



物思いに耽っていたところを現実へ引き戻される。

ぱっと振り向くとスイカが四切れ乗ったお盆を持った半兵衛がいた。何か新鮮。


「何をしていたんだい?」

『向日葵と背比べ!』


にっこりと笑って答えると、半兵衛は呆気にとられたようだった。
だけど、すぐにふわりと笑ってくれた。


ああ、私は相変わらず半兵衛の笑った顔が好きみたいだ。


照れて赤くなった顔を隠すようにはにかんで、お盆からスイカを一切れ盗む。



赤い果肉を一つかじって、また向日葵の元へ戻った。

スイカは甘かったし、種が多かった。
でも、美味しい。


『ん、やっぱスイカは美味しい』


感想を述べると、「それはよかった」と半兵衛は笑った。


半兵衛が縁側に座ったので、私も半兵衛の隣に座る。

ぴったり、という感じではないけれど、適度な距離を保って座った。



沈黙の中、私はスイカを食べる。半兵衛もスイカを食べる。

身と共に口に入ってしまう種は、庭へ飛ばした。


少し勢いをつける感じで飛ばしてみる。


『あ、遠くまで飛んだ!』


わりと遠くまで飛んでいった種を見て、私は喜んでいた。

何てったって夏の恒例行事!


「へえ、結構飛んだね。……よし、じゃあ僕も」

『えっ!?』

「…………何だい?僕がやることがそんなに変かい?」



そんなことはないのだが……
いつも真面目な半兵衛がそんなことをするとは思っても見なかった。
正直ビビった。





半兵衛も勢いよく種を飛ばす。

あ、私よりも飛んだ。ちくせう。


『うー…半兵衛には負けたくないから私もやるっっ!』


闘争本能に火が付いた私は、一方的に半兵衛に対抗する。

庭へ黒い種が散乱する。
端から見ると何か変な光景だろう。


スイカも食べ終え、種飛ばし大会も終了した私たちは、二人で思いきり笑った。


『こんな日々がいつまでも続けばいいのにね』

「本当だね。でも、僕はアルトと一緒にいれればいいかな」



そんなことを言い合いながら、すっかり赤く染まった空を眺めた。



向日葵は、そんな私たちをそっと見守っていた。



fin.

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