brave10

□舞 (幸六) R指定?
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六郎サン、舞踊れるって?

月見の席で、唐突に才蔵が言った一言が六郎を振り回すことになった。
きっかけは、月見をしながら昔話にみな花を咲かせていたことだった。
そこで何を思い出したのか縁側で幸村に酌をしてる六郎を振り向き、悪気もなく無邪気に聞いてきたのだ。
「誰から聞いたのですか?」
「オッサンが言ってたんだよ。六郎サンの踊りに惚れて、小姓にしたって。」
六郎は話を聞きながら、じろっと幸村を睥睨した。が、幸村は悪気をかんじているふうでもなく、むしろ人が悪い笑みを浮かべている。
「六郎はあのとき十歳にも満たなかったのぅ。それで、あの踊りだから今はもう・・」
ふくみを持たせた物言いにみんな食いついてくる。
好奇心を見事にくすぐった幸村は、ますます笑みを深くし、六郎に楽しくてたまらないっという視線を送ってくる。
「これはみんな見たいんじゃないか。」
「観たいみたい!」
イザナミは手を挙げ幸村のたくらみに素直にはまってくれる。六郎は頭を抱えたくなった。こんなの結果がもう見え透いているではないか。
「私も観たいわぁ」
アナは謀としっていながらわざと乗っているのは間違いないだろう。そして残りの面子も・・・
ちらっと目を向ければ、酒飲みの筧と根津はいい酒の肴だとかいってるし、この話をふった張本人の才蔵はもちろん、佐助も純粋な瞳で見つめてくる。三好にかぎっては、かわいいイザナミが観たいならという考えだ。
「これは一曲踊るしかないのではないか。」
幸村は六郎の肩に手をかけた。六郎は羞恥で顔を赤らめた。自分には幸村の申し出を断れなかった。それをしっていて幸村は申しているのだ。
「・・・・一曲だけです。」
「おっ、踊ってくれるか。久々に見るのぅ。」
「今日だけです!もう、二度と踊りませんからね。」
声を押し殺しながら、幸村に聞こえるようにはっきり言う。幸村はわかったわかったというように手をひらひらさせ、いつも手にしている扇を投げてよこした。
六郎は医を決して立ち上がった。
みんなの視線を浴びながら、深く息を吸う。何年ぶりだろうか。目を閉じ、神経を研ぎ澄ます。  
  さぁ、一曲舞おうか。
六郎はゆっくり眼を見開いた。


六郎が手を挙げ指先を動かした瞬間からその場の空気を支配したのは六郎だった。扇が宙を斬り、六郎の身体が空気を切り裂く。
イザナミの舞が華やかなら六郎の舞は・・・
「・・・ろ、六郎さん、エロくね?」
才蔵は絶句してしまった。根津は口笛を吹き、身を乗り出す。六郎の舞は妖艶だった。色気を惜しみなく振りまくその動き、腰のくびれや太ももを撫でる指、その表情さえ、誘っているのではないかと思えてくる。しかも、普段の露出の多い服装がそれを際立たせ、ときには際どいとこまで白い肌があらわになる。
「オッサン、どうゆうことだよ?!」
「六郎が踊るのは、若衆歌舞伎といってな、美少年が踊るまぁ、色気むんむんな踊りなのじゃ。」
「・・・オッサン、変態だな。」
いまでこれほどなのだ。昔も相当だったにちがいない。流し眼や赤く艶めいてる唇、そして妖艶さをきわだたせるほくろが、その白い顔を覆う黒々とした髪がみなを魅惑してやまない。
「俺、襲っちゃうかも。」
根津が舌舐めずりしていった。そして何を思ったのか、急に立ち上がり、六郎が踊る舞台に上がった。
六郎はちらっと目を向けただけで、一心に踊り続けている。その背中に密着し、根津は六郎の腰に手を這わせた。もう片方は六郎の顎のラインをなぞり、背中を撫でると、あらわの太ももを撫で上げ、腰をこすりつける。
佐助は顔を赤くし、しかし目が離せないのか、微動だにしない。
筧は破廉恥なと呟き、やはり顔を赤らめる。
これは六郎を見る目が変わりそうだ。
おどりはどんどんエスカレートして、ついに二人は向かい合って、身体を密着させると、六郎は誘われるままに根津の首に腕をまわし、誘うように唇を頬に寄せる。それに根津も両手を腰にまわして撫でまわす。
そしてふたりの唇が重なり合おうとしたとき、身動き一つしなかった幸村が不意に立ち上がり、二人の間に扇子を隔てた。二人の唇は扇子をはさんで重なった。
「若。」
六郎が驚いたように突然の乱入者を見つめる。
「根津。」
根津はニヤッと笑い、肩をすくめて舞台を降りる。
「食わねぇなら、俺が食っちゃうぜ?」
「たわけ。」
幸村は淡く唇に笑みを浮かべた。そして戸惑ったように見上げてくる六郎を悠然と見下ろし、幸村は六郎を引き寄せた。
「若っ?!」
「久々に踊りたくなった。わしの相手をしてくれ、六郎。」
もう一回、と六郎の耳元で囁き、六郎は困惑しながらも幸村に合わせて踊りだした。
才蔵は幸村の優しい眼差しや、六郎を愛おしそうに触れる指先に見てはいけないものを見てしまった気がして眼をそらした。あんな幸村はまだ見たことなかった。ふざけて強引に連れて行かれた遊郭で、女に触れる幸村もこんな顔をしなかった。
掴みどころがない。そこで才蔵はふと思った。
もしかして幸村の弱点は・・・
「才蔵、戻るわよ。」
急に目の前にアナの顔があらわれる。
「空気を読んで。」
アナが顎を上げる。
二人に視線を向けると、幸村も六郎のお互いを見つめ踊っていた。ほかのメンバーも静かに次々と退散していく。まだ物足りなげに六郎をみつめている根津を筧が引っ張り、いなくなっていく。
「なぁ、アナ、あの二人って・・・」
アナはふふっと意味ありげに笑うだけで才蔵を引っ張る。障子を閉められるまえにみたのは、幸村が六郎の顔に両手を添え、顔を近づけるとこだった。


六郎は幸村の動きに、眼差しに翻弄されていた。幸村の指は優しく顔をなぞり、髪をすき、そして腰を這う。ぞわっと甘い感覚が背中を走る。思わず腰が砕け、しゃがみ込みそうになった身体を、幸村が淡い頬笑みを浮かべ、腕を腰にまわして支えてくれる。すがりつくようにかたに手を置き、うつむく。
何故か幸村の顔がまともに見れなかった。
「どうした、六郎」
低いその声にびくっと身体が揺れる。その反応に幸村が笑うのを感じた。
「六郎。」
顔に両手が添えられ、ゆっくりと持ち上げられる。おずおずと見つめた幸村の表情は暖かく、そして雄々しかった。おかしな話だが、ああ、男なのだと感じる。
幸村は六郎の唇を親指でなぞった。
気持ちよくてうっとりと瞳を閉じる。親指が唇をなぞる感覚がいつのまにかなくなっていた。残念に思いながら目を開けようとしたとき、今度は別のm暖かく少しかさついたものが唇に触れた。
それが幸村の唇なのだと気づくのにしばらくかかった。あわてて月花総とするも、幸村の口づけは激しくなっていき、生温かい舌が口の中に割って入ってきた。
逃げる六郎の舌をおいかけ、からめ捕るという行為を繰り返している間に、六郎の手は幸村の胸元をしっかりと握りしめていた。夢中になっていた自分に怒りを覚え、幸村を怨んだ。
「・・・わかぁ。」
顔をそむけ、やっとで幸村から解放される。
どうゆうことだと、肩でいきをしながら、問いかけようとしたとき、ツンッと花をつく匂いをかいだ。酒だ。六郎は納得するやら飽きれるやらで、嘆息し、腰に手を当てた。
「若、お酒をずいぶん飲まれましたね?」
「んっ?まぁ確かに飲んだが。」
「若はよっていらっしゃいます。」
口のなかにのこるわずかな酒の味も幸村との接吻によるものだろう。六郎は、幸村に待っておくように言い渡し舞台を降りた。
熱もすっかり冷め、気づかぬうちにきえていたみんなを探す。
「才蔵。」
障子をがらっと勢いよくあけ、室内を見渡す。またどんちゃん騒ぎをしていたらしい大人どもは六郎の姿をみると、シーンと静まり返った。
「えーと・・六郎サン、どうかしたのか。」
才蔵が六郎を凝視して引きつった笑みを浮かべる。
「オッサンは?」
「若はよっていらっしゃるようです。」
「えっ?」
「随分飲んだようですから、私をまた遊女と勘違いなさって。」
そこで、眼を点にしてまじまじと見つめてくる複数の視線に気づいた。
「・・どうかなさいましたか。」
「・・・・・」
「とにかく、私だけでは運べませんので、才蔵、若を頼めますか。」
固まったままの才蔵に頼む。才蔵はぎこちなく頷き、立ち上がった。六郎も布団を出そうと浮村の部屋に向かった。
   
「はて、困った。」
才蔵が幸村を迎えにいったあと、すぐさま六郎に布団のなかに押し込まれた幸村は、六郎がいなくなると、肘をつき、たもとからキセルを取り出した。
「・・・・オッサン」
呼び掛けると幸村はなんだというように眉をあげた。
「オッサン、酔ってるのか。」
「酔っているとも。酒は酔わぬとおいしくない。・・・・が、」
ビシッとキセルで才蔵をさす。
「意識はしっかりしておる。」
たしかにいつもと変わらぬ幸村がそこにはいる。
「六郎サン、遊女と間違われたとか言ってたぞ。」
ボソッと言えば、幸村はため息をこぼし、ぼやく。
「あいつはたまに抜けておる。あの調子じゃ、わしはどうしたものかのぅ。」
また踊らすかと一人頭を悩ます幸村に、才蔵は改めてなんでこんなやつを主にもってしまったのかと思い眉間をもんだ。

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