忍たま

□もう、いいよT
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ものごころついた頃から、仙蔵のなかに文次郎という存在がいた。
初めはぼんやりと、ただの「文次郎」という名の男として、記憶の片隅に鎮座していた彼は、やがて仙蔵が歳を重ねるにつれて、やたらと存在を主張してくるようになった。
うっとうしいくらいに文次郎という文字と顔が脳内を駆け巡り、今耳にしていると錯覚するような鮮やかな音声で 仙蔵 と名を呼んでくる。
反抗期の時期は、前世がなんであろうと今の自分には関係ない、文次郎だのなんだの知ったことかと記憶から目をそらしていた。
しかし反抗期を過ぎればやはり自分は「仙蔵」なのだと自覚せざるをえなかったし、そうしなくても心は文次郎に完全に持っていかれてた。

 ―お前を探し出すから、待っててくれ―

最後の彼の言葉を思い出す。
もう大学生だ。
早く見つけろ、バカ文次郎。
夢の中の文次郎にそう言って一日が始まる。

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