漆黒の終末

□第1章
2ページ/15ページ

02、疑惑

『これから、ちょっと付き合ってくれない?』


 佐藤にそう言われたのが今からちょうど1時間半前。高木は資料整理もなんとか一段落つき、夕食をどうしようか考えていたときだった。せっかくの彼女の誘いを断る理由は全くなく、二つ返事でOKした。その後、オススメの店だと言われてラーメン屋に入り、満腹になって店を出たのが30分前だった。 せっかくの二人きりの時間を、高木は運転しながらどうしようか考えていた。隣には佐藤がいる。このくらいの時間なら映画にだって、それこそ、多少の遠出だって余裕で行ける。


「佐藤さん。これから……」


しかし、『何処かへ行きませんか。』と言う続きの言葉は、佐藤の表情を見て消滅してしまった。佐藤は、先程まで店で見せていた明るくはしゃぐ表情はどこへやら、思いっきり刑事の顔で考え込んでいた。そして、高木の言葉を知ってか知らずか、


「高木君。米花公園に向かってくれる?」


と、素っ気なく言う佐藤。高木は内心ため息しながら了解したのだった。





「あ、あの…、佐藤さん?」

「 …ん?何?」


 米花公園に着いてからも、佐藤はずっと刑事の表情のままだった。車から降りて、園内のベンチに座るように高木に言うときでさえ、彼女の頭の中は変わらなかった。


「一体どうしたんですか?さっきからずっと何か考え事してるじゃないですか。」


高木が半分心配そうに、半分困ったように聞いた。佐藤はその返事をなかなか言わなかった。そして、少し経って返って来た言葉は、返事なんかではなかった。


「…ねぇ、高木君。あの時の言葉、覚えてる?」

「え…?」

「私が、“この事件の裏で、何か得体の知れない人達が動いてる気がする。”って言ったことよ。」

「…あ、はい。覚えてます。」


 確かに、あの時佐藤はそう言っていた。しかし、自分はそれを真剣になって聞いてはいなかった。“そんな馬鹿な”と当時は思っていたが、今考えると、彼女が一番この事件の真相に深く入り込んでいたのだ。


「…あの時の突飛な発想は、結局は当たってた。実際に、警察官の一人は偽物だったし。あの時それに気づいていたのは、私だけだとここ数日は思ってた。あ、自慢とか、そう言うのじゃなくて。」


 そう言って、佐藤は少し困ったように微笑する。しかし、その表情はすぐに真面目なものへと変わった。


「…でも、今日資料見てて思ったの。もしかしたら……、“コナン君も気付いていたんじゃないか”ってね。」

「コナン君が、ですか?」


 高木は、周りの音が全てサーっと消えていくような気がした。


「コナン君が、その得体の知れない人達に気が付いていた、ってことですか?」

「…かもしれないってこと。」


 佐藤が高木の方を見ずに言った。その目線はどこか遠くを見つめていた。


「今日、コナン君の事情聴取の資料を見てたの。そうしたら、コナン君は本庄さんが東都タワーに現れる、と思って行ったみたい。それで本庄さんを捕まえようとしたときに、管理官に化けた被害者が現れて、本庄さんを被害者が気絶させた後でコナン君は襲われた、って証言してる。そして、その途中で蘭ちゃんが来た。」

「…それでどうして、コナン君が気付いていたかもしれない、ってことになるんですか?」


 高木は今の証言に問題があるとは思えなかった。しかし、佐藤は静かに続ける。


「…被害者の身体から少量のアルコールが検出されたの。そして、コナン君が襲われた現場には、水谷さんと被害者の指紋が付いた、ワインとワイングラスがあった。もちろん、管理官に罪をなすりつけようとしていたみたいだから、実際は管理官の指紋だけど。でもね、気になったのはそのワインは水谷さんが用意したものだったこと。」

「…どういうことですか?」

「つまり、被害者はコナン君を襲う前にワインを飲む余裕があったってこと。そしてそのワインの近くに、連続殺人事件の被害者の持ち物がまとめて発見されてる。でもコナン君は、被害者が本庄さんを気絶させた後で、襲われたって言ってる。」

「…確かに、コナン君の証言は間違ってはいないようですけど…。」


(引っ掛かることがある)


 高木は頭の中で呟いた。


「そう、問題は被害者がワインを飲んだり、持ち物をあさっている間、コナン君が何をしていたのか。」


 高木は、佐藤が何を言いたいのか分かった気がした。


「……疑ってるんですか?コナン君を。」


 高木が困惑した表情で尋ねる。


「その可能性も無くは無いってことよ。今の状況じゃまだなんとも言えないわ。ただ、分かってることは、コナン君が何か私達に伝えていないことがあるってこと。」


 そう言うと佐藤は小さくため息をこぼす。


(……あなたは一体何者なの…。)


 佐藤は困惑したままの高木を横に置いて、ずっと夜空を見上げていた。





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ