ころしやものがたり

□第1話 高町切嗣
2ページ/8ページ


 耳に車の通る音や人が喋る声が聞こえて僕は目が覚めた。意識は覚醒しているが、どういうわけか体に違和感があり体が動かしにくい。とりあえず見れる範囲で辺りを見回すと、ここは自分が記憶している中には全く無い部屋だったが、自分の家や病院の部屋ではなく一般家庭の部屋ということだけが分かった。僕は知らないベッドに布団を被され寝かされており、兎に角疑問が尽きない。そして何より

「この世全ての悪(アンリ・マユ)の呪いが……消えている?」

 この世全ての悪(アンリ・マユ)

 60年以上前に行われた"第三次聖杯戦争"で万能の願望器"聖杯"を汚染し、尚且つ僕の参加した"第四次聖杯戦争"で決戦地の冬木市に"泥"という名の極大の呪いを冬木市に無差別に振りまいた"悪"である。僕が34歳という若さで亡くなったのは、僕が汚染された聖杯に認められたものの、拒絶した際にこの世全ての悪(アンリ・マユ)に呪われたための精神や肉体の摩耗が原因である。それが自分の中に存在しないという異常事態。不可解であるが周囲の情報を全て整理した上で推論を出した。

「ーー僕は死んでいないのか?」

 自分はあの時、息子である士郎が自分がいなくなっても大丈夫だと安堵して逝った筈だ。しかし、この部屋の風景は正直あの世のものとは思えない、少なくともあの世を車が走っているのは想像出来ない。それに決定的なのは、"体が霊体ではなくきちんと肉がついている"ことである。間違いなく自分は生きている、呪いを一切受けることなく。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ