ころしやものがたり

□第1話 高町切嗣
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 何故。そんなことを考えていると、ガチャッという音と共に部屋の扉が開いた。僕はまだ満足に動かない身体を構えて即座に動けるようにする。

「あ、起きたんだね!」

 部屋に入ってきたのは栗色の髪を左右で纏めている小さな女の子だった。小学校の2〜3年くらいだろうか、とても明るい印象を受ける。見た目は害はなさそうだが、僕は仰天した。

 "魔力とも霊的な何かとも違うナニカ分からない力"が目の前の年端かもない少女から溢れ出しているのだ。

 魔力であれば英霊なのではないかと錯覚するほどであった。そしてコントロールしていないのか、それともわざとなのか圧倒的な"ナニカが"周囲にだだ漏れしている。油断は禁物、死徒にも幼い見た目のものがいるのだ、油断をしたら一瞬で命を喰われる……僕はジッと少女の挙動の観察、脱出経路の確認、魔術回路の起動準備、周囲で利用出来るもの、それらを確認した後、僕は少女に問いかけた。

「……君は一体誰だ?」

「私?私は高町なのは。なのはって呼んでね」

 少女、なのははあどけない笑みを浮かべて僕に名前を教えた。しかし警戒は解かない、決して油断なんかはしない。

「なのは……なのはちゃんか。
君は何をしに来たんだい?それと、僕はどうしてこんな所に居るんだ?」

「えっと……覚えてないの?
私の家の前で昨日の夜、君が倒れてたんだよ?」

「それを証明するものはあるかい?」

「しょ、証明?え、えぇっとぉ……」

 少女はうろたえる。そんなことを聞かれるとは思っていなかったようで、うんうん唸り始めた。僕は相手が嘘をついているかどうかは表情、仕草などである程度分かる。そうしなければ戦場では生き残れなかったから。そして目の前の少女、なのははとても嘘をついているようには思えない。本気で悩んでいるし、若干泣きそうだ、これは非常にマズイ。なにせ女の子に涙は流させたらいけないということを信条にしているこの身だ。

「ゴメンゴメン、僕も色々不可解でね、困らせたのは謝るよ。
……それにしてもどうやら迷惑かけちゃったみたいだね」

 いいのいいのとなのはは手を振って笑っている。これだけ見ても、明るくてとてもいい子だというのがよく分かる。先程まで自分を困らせていた人を簡単に許してあげるのはそう簡単なことじゃない、親の教育の賜物だろう。

 しかし、倒れていた?見知らぬ人の家の前で?僕はあの家の縁側にいた筈なのに。色々考えていると、なのはが声をかけてきた。

「ところで、あなたの名前は?」

「僕かい?僕は衛宮切嗣、切嗣と呼んでくれればいいよ」

「うん!よろしくね切嗣くん!」

 衛宮切嗣、それが僕の名前。正義を目指し悪を背負って悪をを貫いた壊れた男。全てを救おうとして全てを失った"正義の味方"の成り損ないだ。
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