夢小説

□第四話 初めての外回りです 2011年3月3日(木)
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「真白ちゃんこっちで道あってる?」
「そうです。あの角を曲がってもらって……あ、あの建物です」
「あれ、ここって……」
余計なもののついていないシンプルな鉄筋の二階建ての古いアパート。
女の一人暮らしなのにセキュリティーはどうなんだと言われるが、こんな田舎にセキュリティー云々の洒落たものなんてない。
でも私はこのアパートを気に入っている。
徒歩圏内にはジュネスもあるし、堂島さん宅もそこそこ近いし、職場まで徒歩でも行ける。
まさに理想のアパートだ。
「ここです。送ってくださってありがとうございます」
「うん……」
駐車場に車を停め、車から降りて頭を下げる。
なぜか一緒に出てきた足立さんがアパートを見つめたまま動かないので「どうしたんだろう」と思っていると、いきなり私の肩に手を置いて、あーとかうーとか言ってなんとも歯切れが悪い。

ええい、まどろっこしい!

「なんです?よくこんなボロアパートに住んでるね?とでも言うんですか?すみませんね。職場からそこそこ近いアパートってここしか「僕もこのアパートに住んでるんだ」
「……はい?」

いま聞き捨てならないことを聞いた気がする。
ここに住んでる?ご近所さん?
そう言えば最近、越してきた人がいるって大家さんから聞いた気がする。
あれ?引越しの挨拶とかされてないぞ?
とか現実逃避してみても、足立さんがご近所さんという事実は変わらないわけで。
「まじですか?」
「うん。僕は二階の左端に住んでるから」

…私は同じ階の右端です。
…………そっとしておこう。

「遅くなったけど、少し前に引っ越してきた足立透です。よろしく」
まさかここで引っ越しの挨拶をされると思わなかった。
肩にあった手はいつの間にか外されていて、変わりに差し出された手を見てあることを思いついた。
「よろしくお願いします。あ、引っ越しの挨拶の品物ですが蕎麦の代わりに金一封でいいですよ」
「えー?真白ちゃんって以外にがめついね」
「これを見てもそんなこと言えますかね?」
私はあるレシートを取り出し、差し出された手に握らせる。
「ん?なにこれ?レシート?えーっとキャベツ、ひき肉、しめじ……あ」
「お互い安月給なんで折半しましょう。あと、これからはお弁当代もきっっちり支払ってもらいますからね。それじゃあ」
レシートをもって呆然としてる足立さんに背を向けて歩き出す。
堂島さんは言わなくてもちゃんと払ってくれるのでありがたい。
家にに入る前チラッと駐車場を見ると、まだレシートとにらめっこしてる足立さんがいて思わず吹き出してしまった。


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