夢小説

□2.5話 足立さん視点
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次の日、律儀にも弁当を持ってきた彼女に目を丸くする。
あんなの酔っ払いの戯言と、流されると思っていたからだ。
ちらりと時計を確認するとちょうど昼時、願ったり叶ったりの展開に緩みそうになる口元を隠しながら、さりげなく大きい方の弁当を貰い、まだ仕事が残っているのでそちらに向かう。
その時、真白に言い忘れていたことがあったと思い出し慌てて戻ると、小林となにやら口論になっていた。
よくよく聞いてみると、小林に弱味を握られており強く出れないようだ。

これは…使える。

明日の勤務、人通り、……の場所。
全てを計算し、ある作戦を思いついた。
我ながら酷いことをすると呆れつつ、あの意地っ張りの彼女を落とすためだ。
躊躇っていられない。
まずは小林から攻略しなければ。

考え事に夢中になっていたからか、その時のガラスに映った足立の顔はとても楽しそうに歪んでいた。

貰った弁当をかき込むように食べ、弁当箱をロッカーに隠した後、小林に接触する。
「隣いいですか?」
「あ?お前、誰だ?」
さりげなくを装いつつ少し前に買った缶コーヒーを両手に、食堂で真白から奪った弁当を食べている彼に近づく。
「初めまして。杉田さんと一緒に仕事させてもらってる足立です。いやー。さっきの自販機でコーヒーが当たってしまって、良かったらどうぞ」
「おぉ。気が利くじゃねーか」
人から無償で貰えるものほど怖いものは無い。
刑事のくせに、緊張感のないやつだ。
心の中で悪態をつきつつ、怪しまれないように隣に座る。
「愛妻弁当ですか?」
「まぁな」
「いいなぁ。美味そう」
「お前にはやらねーぞ。なんたって真白の手作り弁当なんだからな!」
さっき強引に奪ってたやつがよく言う。
「へぇー。杉田さんって小林さんの事が好きなんですね」
「当たり前だろ!なんたって俺の女だからな」
理由になってない。
どこからそんな自信がくるのやら。
こんなバカが、同じ警察官だと思うと頭が痛い。
だが、今ので確信した。こいつは使える。
俺は人当たりのいい笑顔を浮かべ、彼と世間話をすることにした。

聞くところによると、小林も昔は俺と同じ都会でバリバリ働いていたのだが。
ある日、新卒の子に手を出してしまいそれがバレてこんな田舎に左遷させられたらしい。
しかも、それが一人ではなく何人にも手を出していたと言うから始末が悪い。
結局、親の権力でもみ消してもらったがこんな田舎に飛ばされたそうだ。

頭が悪すぎて言葉が見つからない。
中学生か。
いや、今どきの中学生でもそこまでのことはしない。
小林に計画を伝えて大丈夫だろうかと思ったが、たとえ失敗してもこいつが悪くなるだけ。
俺はなんのダメージも受けない。
痛くなった頭を小さく振ってやり過ごし、あることを伝えることに。

「堂島さんや僕に構うのって、小林さんに嫉妬して欲しいからかもしれないですよ?」
「は?」
「あ、いやいやこれはただの僕の思いすごしなんですけど…昨日、小林さんが去った後の背中を悲しげに見つめてましたから」
「やっぱりか!へへ。かわいーとこあんじゃねーか」
「明日、もう一度アタックして見たらどうです?意外にコロッと行くかも」
「あぁ!そうだな!ありがとな足立!お前は良い奴だよ」
そりゃどーも。
俺にとっても扱いやすいアンタは良い奴だよ。

去っていく小林の背中を見ながら笑みを浮かべる。
可哀想な真白。
俺みたいな奴に好かれたのが運の尽きだ。
さぁ俺の所に落ちてくるのはいつになるかな?

空になった弁当を持って真白の元に行く。
予定通りどうだったかと聞かれたので適当に答える。
なんせ、味わって食べれなかったからだ。
そんな俺を知ってか知らずか真白はリクエストを要求してきた。
俺に手っ取り早く上手いと言わせたいらしい。
そんな可愛いことを言われたら、もっともっと虐めたくなってしまう。
ニヤつく顔を笑顔に変え、自分の好きなロールキャベツを要求した。
は?明日まで待てだと?
ふざけんな。
今日、味わって食べるはずだった弁当のリベンジをするべく夕食に作るよう要求した。
案の定、俺の言葉遊びに見事ひっかかり俺はちゃっかり夕食までご馳走になることになった。
いきなり二人きりと言うのは、ガードの固い彼女には無理なのでさりげなく堂島さん宅で作るよう提案した。
多分、堂島さんも菜々子ちゃんのことが心配だから嫌とは言うまい。

迎えに行くから待ってろと言ったのにどこに行ったんだ!
堂島さんは案の定、二つ返事で了解してくれた。
田舎だからかみんな警戒心が薄い。
ま、扱いやすいからいーけど。
それより真白だ。どこ行った?
さりげなくそこら辺の人に聞いてみると、真っ赤な顔で玄関口に向かったそうだ。
何があったのやら。
言われた通り玄関口に向かうと、見知った黒髪の女性が一人、待ちぼうけをしていた。
「いたいた!全く迎えに行くって言ったのに、なんでこんな所にいるのさ?日本語理解してる?」
少し探したので嫌味も込めてそう伝える。
案の定、怒った彼女に俺は追撃する。
まさか堂島さんを悪くいうのが地雷だとは知らずに……。
胸ぐらを掴まれ息が出来ない。
今まで見たこともないような顔で俺を睨み、平手打ちするように空いている方の手が動く。
来るべき衝撃に備え目をぎゅっと瞑ったその時だった。
堂島さんの声が聞こえたのは。
堂島さんの姿を見た真白は、まるでネコみたいに俺に興味をなすくとすぐに解放した。
呼吸を整え、噎せる。
そんな俺を無視したまま堂島さんとなにやら話しこんでいた。
しばらくして、話が終わったのか嫌味ったらしく俺に笑顔を向ける。

その笑顔が、いつか俺の事が好きで好きでたまらない、蕩けるような笑顔になるのはいつになることやら。
まだまだ先は長いなぁと思っていると、堂島さんから急に拳骨を食らった。
めちゃくちゃ痛かった。
どうやら真白を怒らせた俺に非があるらしい。
去っていく手前、堂島さんは「杉田を支えてやってくれ」と言い残して仕事に戻って行った。

はぁー、なんだよ。堂島さんはお義父さんみたいなもんかぁー。
こりゃアイツを落とすのは、一筋縄では行かなそうだ。
「めんどくせぇ」
思わず思っていたことが口から出てしまったが、何故か俺の口元はとても楽しそうに笑っていた。
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